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サイクルロードレース コラム 2026年4月13日

ワウト・ファンアールトが長年の夢かなえる 有力選手にトラブルが次々襲い掛かった「北の地獄」は過去最速レースに|Cycle*2026 パリ〜ルーベ:レビュー

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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パリ〜ルーベ・オー・ド・フランス

優勝ファンアールト、2位ポガチャル、3位ストゥイヴェン

近年稀に見るほどのスリリングさとドラマに満ちたパリ〜ルーベ2026年大会。有力視されていた選手たちが次々とトラブルに見舞われた激動のレースを制したのは、ワウト・ファンアールト(チーム ヴィスマ・リースアバイク)だった。かつての仲間への想いが「北の地獄」を戦うモチベーションだった男は、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)とのマッチスプリントを制し、一番に地獄から生き延びてみせた。

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「ここで勝つことが僕の大きな夢だった。今まで不運続きだったけど、経験として糧になっていた。そしてついに今日、すべてが結びついた。これ以上ない最高の結果になったよ!」(ワウト)

「北のクラシック」を締めくくる悪路の戦い

第123回目を迎えたパリ〜ルーベは、例年同様にパリから北に約90kmの街・コンピエーニュを出発。行程はいくぶんのマイナーチェンジがあり、258.3kmに設定された。北に針路をとり、フィニッシュ地・ルーベのヴェロドロームへと向かう間、全30区間・総距離54.8kmの石畳区間、通称パヴェが選手たちを待ち受ける。

晴天で気温は15度前後。天候だけ見れば好コンディション下でのレースとなったが、それがかえってタフな展開を呼び込んだ。南からの風が選手たちの背中を押し、ハイペースを誘発する。そして、パヴェが次々と選手たちに襲い掛かった。

名所アランベールでマチューにビッグトラブル

25チーム・175選手が一斉にコンピエーニュを出発。リアルスタート以降多数のアタックがかかるが、どれも集団の容認を得るところまではいかない。一時的に10人以上が先行するケースがあったが、少しすると集団とつながってしまう。そうしているうちにスタートから1時間が経過。平均スピードは53km。追い風に乗ったプロトンはなおも速いペースを刻む。

60km地点を過ぎたところでは、出入りを繰り返す流れから集団が分断。ワウトやポガチャル、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・プレミアテック)といった優勝候補たちが軒並み後方に取り残されたが、これも自然な形で前線合流。結局、集団はひとつのまま95.8km地点から始まるパヴェ区間へと突入することになった。

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【フィニッシュシーン】パリ〜ルーベ|Cycle*2026

急ぎすぎなくらいに、スタートからあっという間にパヴェへとやってきたプロトン。ジョシュア・ターリング(イネオス・グレナディアーズ)を先頭に最初のセクションへと入っていく。いたるところで選手同士の接触が発生し、落車シーンが目立ち始める。

「北の地獄」の恐ろしさは、有力視されていた選手たちにも容赦なく急襲した。最初のパヴェセクションをクリアした直後にマッズ・ピーダスン(リドル・トレック)がパンク。ここは自力で集団復帰をするが、代わってワウトもパンク。すぐに待機姿勢に入ったオウェイン・ドゥールのサポートを受けて集団へと戻る。

スタートから2時間が経っても、平均スピードは依然52キロ台。いくつかパヴェをクリアしていく間に主導権はUAEチームエミレーツ・XRGが確保。フロリアン・フェルミールスやアントニオ・モルガド、ミッケル・ビョーグが引っ張り、レースが100kmを越えた頃には集団は60人程度まで絞られた。

流れを引き寄せつつあったUAEにもトラブル発生。9つ目のパヴェセクションでポガチャルの前輪がパンク。プロトンは縦長になり、さらにはパヴェ上だったこともあり近くにチームカーがいない状況。ニュートラルサポートからバイクを受け取って当座をしのぐ。

パリ〜ルーベ・オー・ド・フランス

ニュートラルバイクで走るポガチャル

これを受けて、アルペシン・プレミアテックとヴィスマ・リースアバイクがペースアップ。後ろではポガチャルにようやくチームカーが追いつき、改めてスペアバイクに乗り換え。数十分前まで集団の牽引役を務めていたモルガドとニルス・ポリッツが引き上げ役になって、ポガチャルの集団復帰をアシスト。こうしている間も、マチューがパヴェセクションで先頭に立つなどし、前線の人数が絞られている。ポガチャルはおおよそ25kmを要しながらもどうにか最前線まで戻った。

役者がすべて戻ったところで、この日最初の5つ星パヴェのトゥレ・ダランベール(アランベール)に突入。ワウトが先頭に立ち、すぐ後ろにマチュー、ポガチャルが続く。その態勢でセクションの中間部を走っていたときだった。マチューが前輪パンクで走行不能に。すぐにチームメートのヤスペル・フィリプセンがバイクを差し出したが、クリートがペダルにはまらない。自身のバイクへ戻る間に、ティボール・デルフロッソがタイヤを交換し、マチューの背中を押す。しかし、アランベールの出口で再びパンク。チームカーからスペアバイクを受け取って走り出す頃には、先頭との差は2分以上に広がった。

再度のトラブルを乗り越えたワウトとポガチャルが一騎打ちに

アランベールでのワウトの牽引によって、先頭は7人にまで絞られた。ポガチャルやピーダスンに加え、クリストフ・ラポルトが入りヴィスマ勢が有利な情勢に。やがてフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)が自力で追いついたが、直後にパンクで後退。戦意喪失したかに思われたマチューは息を吹き返し、点在する数人単位のパックをパスしていく。

パリ〜ルーベ・オー・ド・フランス

石畳セクションではトラブル続出

協調態勢に入った先頭グループだがなかなか落ち着かず、ポガチャルがパヴェ上でメカトラ、直後にはワウトが再びパンクに見舞われて、それぞれバイクを交換。これを見たピーダスンがペースを上げにかかるが他選手との足並みがそろわず、ポガチャルもワウトも10kmほどをかけて戻っている。

そうして戦える体制を整えたワウトがレースを大きく動かした。セクター12・オシー=レ=オルシ-ベルセの入口で強く踏み込む。4つ星パヴェを使って攻勢に出ると、対応できたのはポガチャルとピーダスンだけ。カウンターでポガチャルが前に出ると、ピーダスンはついていけなくなった。先頭に立ったのはワウトとポガチャル。優勝争いがいよいよ見えてきた。

「もちろんフィニッシュまで距離が残されているのは分かっていた。ただ、勝てるチャンスがあると感じたから仕掛けてみたんだ」(ワウト)

続く5つ星パヴェ・モンス=アン=ペヴェルではポガチャルがアタックしたが、ワウトは難なくチェック。約25秒後ろでは、マチューが2番手グループまで浮上。それまで一緒に追っていたガンナはこの日2回目のパンクに見舞われ、チームカーを待つ間無理に走り続けたところ落車している。

ヴェロドロームでのマッチスプリントはワウトに軍配

ワウトとポガチャル、脚のある2人となったことで一層ローテーションは綺麗になった。マチューらのグループとは45秒近くまで拡大。パヴェではワウトが前に出ることが増え、ポガチャルは慎重にクリアするゆえ両者にわずかな差が見えることも。最後の5つ星パヴェ、セクター4のカルフール・ド・ラルブルでも決定打は生まれず、勝負はマッチスプリントのムードへ。マチューらのグループでは散発的なアタックが発生するが、前の2人には届きそうにない。

パリ〜ルーベ・オー・ド・フランス

スプリントで勝利を掴んだファンアールト

「何が起こるか分からなかったから、常に集中して走っていた。優勝を狙えると確信したのはカルフール・ド・ラルブルを越えてから。今までで一番良いコンディションだったかと問われれば、決してそうではなかった。だけど、今日はこれまでの経験で何とかできるんじゃないかと思っていたんだ」(ワウト)

最終のパヴェセクションを通過し、残りは1.4km。初優勝がかかる両者。ワウトがスッと後ろに入ると、ポガチャルは一瞬この状況を嫌う様子を見せたが、そのままヴェロドロームへと向かった。

フィニッシュへはバンクを1周半。最終周回の鐘が鳴っても、両者の形勢は変わらない。互いに見合ったまま、残りは半周。先に動いたのはワウトだ。腰を上げスプリント態勢に移ると、抜かせまいと加速したポガチャルをパス。最後の数十メートルで勝利を確信すると、右手人差し指を天に掲げながら夢のフィニッシュラインを通過した。

世紀のレースにおける、人生最高の勝利

レース前半に逃げが決まらず、有力選手たちがトラブルに見舞われながらもそのたびに前線復帰をする、勝利への執念を見せた戦い。勝ったワウトのアベレージスピードは48.91km。これは大会史上最速である。258.3kmを走り、その間54.8kmを石畳が占めるルートで出した、驚異的スピードだ。

フィニッシュ直後、倒れ込み声を上げて泣いたワウト。パリ〜ルーベに限らず、多くのレースであと一歩勝ち切れないことが多く、「シルバーメダルコレクター」「最強の2位」などあらゆる表現されてきたが、最高の舞台で大きな、大きな勝利をつかんだ。主催者A.S.O.は、その成功を「世紀のレースにおける、人生最高の勝利」と謳った。

「今まで何回も悔しい思いをしてきた。“パリ〜ルーベはもう良いかな……”と思ったこともある。でも、翌朝起きたら“またトライしてみよう”という気分になっていたんだ。ついにこの日を迎えられた。世界王者とのマッチアップで勝つほど美しい方法はないよね。本当に特別なことだ」(ワウト)

レース中は冷静だったという。途中、パンクこそあったがおおむねプラン通りに走れていたことで自信は確信に変わっていた。

「考えていた通りに事が運んだ。ヴェロドロームに入ってからも、計画通りに走ることができた。準備期間中は、何度もこのスプリントをイメージして、実際にトレーニングも行っていた。終わってみれば、一番苦心したのはヴェロドロームにたどり着くまでだった。タデイのアタックにはついていくのがやっとだったからね」(ワウト)

レース後のプレスカンファレンスでは、真っ先に亡き仲間への思いを口にした。8年前、初めてこのレースを走った際に、チームメートだったマイケル・ホーラールツはコース途中で倒れ、帰らぬ人となった。

「フィニッシュで天に掲げた指は彼への思いだった。マイケル、彼の家族や友人、当時の仲間……みんなのことを思って走っていた。このレースにはいろいろな出来事があって、走るひとりひとりにそれぞれの物語がある。今日はそのすべてをひとつにすることができた
」(ワウト)

ひとしきり感慨にふけった後、チームCEOのリチャード・プルッヘ氏や、要所で好アシストを演じたクリストフ・ラポルトらにも思いを馳せた。「ルーベで勝つことはみんなにとって長年の夢だった」。多くのものを背負い続けた男が、ついに大願成就を果たした。

敗れても前を向くグッドルーザーたち

初優勝、モニュメント全制覇がかかっていたポガチャルは、今季初めての敗戦。数回のトラブルで前線復帰にかなりの脚を使い、最後は勝負できる状態になかった。

「1回目のパンクでは、空気が抜けた状態で走り続けたら後輪が壊れてしまったんだ。2回目のパンクも含めて、先頭に戻ろうとしてかなりのエネルギーを消費した。だから、最後はワウトとのスプリントで勝とうにも脚がフニャフニャで……(笑)」(ポガチャル)

改めて、残されたモニュメントの勝利がルーベだと問われると、このレースへの強い想いを口にした。

「必ず戻ってくるよ。来年かどうかは分からないけど、勝つためにまた来る。キャリアはまだ続くから、どんな形で戻れるか楽しみにしていてほしい」(ポガチャル)

トップ2の後ろでは、数人が表彰台をかけて熾烈な争い。ヴェロドローム前でアタックを決めたヤスペル・ストゥイヴェン(スーダル・クイックステップ)が先着し、初の表彰台を押さえた

「本当にうれしい。とてつもないメンバーがそろったレースで上位に入ることさえも難しいからね。前の2人に追いつけるんじゃないかとも思ったんだけど、わずかに届かなかった。それでも、経験を生かして走ることができたから満足だよ」(ストゥイヴェン)

史上初の4連覇が懸かっていたマチューは4位。アランベールでのトラブルが悔やまれる。パンク直後、先に受け取ったフィリプセンのバイクにはプロトタイプのペダルが装着されており、従来モデルのクリートを使っていたマチューの足には合わなかったという。

「あの場所(アランベール)で勝負はついていた。確かに、その後ワウトとタデイには近づいたけど、追いついたところで勝負できなかったと思う。脚を使ってしまっていたし、何より僕には運がなかった」(マチュー)

敗因にさまざまあれど、彼らに共通したのは最後までグッドルーザーであったこと。誰もが、ワウトを祝福した。

「どんな困難にも立ち向かい続けるライダーなんだ。今日のレースはワウトが一番勝利にふさわしかった」(ポガチャル)

「代表チームでいつも一緒に走るけど、誰もが彼のことを素晴らしいアスリートであることを知っている。ルーベで勝つ姿を見ることができて、自分のことのようにうれしいよ」(ストゥイヴェン)

「世界中がワウトの優勝を喜んでいると思う。一番に祝福に向かった理由? 彼の偉業を一緒に喜びたかったからだよ」(マチュー)

過去に類を見ない激戦の終わりには、美しく誇らしいサイクルロードレースだからこそ見られる光景が広がっていた。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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