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サイクルロードレース コラム 2026年3月18日

【輪生相談】“チーム移籍がきっかけで覚醒した選手”は存在するのでしょうか

輪生相談 by 栗村 修
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栗村さん、こんにちは。プロスポーツでは、サッカーや野球のように移籍によって環境が変わり、パフォーマンスが一気に開花するケースが見られます。ロードレースの世界でも、同じように“チーム移籍がきっかけで覚醒した選手”は存在するのでしょうか。もし事例があれば、その背景となる要因を、また逆にそのようなケースが少ないとすれば、その理由もあわせて教えていただけると嬉しいです。

(男性 会社役員)

 

まずとても大事なことから。

一般のサイクルロードレースファンにとっては意外だと思いますが、チームにとって、特に財政的な余裕がないチームにおいては、選手のパフォーマンス向上への投資は優先順位最上位ではないんです。

まずは「チームという会社」を作る必要があります。UCI登録などの事務手続きと、それを実現するための財政・経営基盤、銀行保証とか、スタッフの確保とかですね。次にチームオフィス、チームカーやバス、トラックなどの機材の確保などもあります。

そして、選手というのは「チームにとっての商品」です。どんな商品を取り揃えて、どの様な販売(レース)戦略で会社(チーム)の価値をあげていくのか。富裕層向けの超高級商品(選手)を取り揃えて商売をするのか。逆に、低価格帯のコスパの良い商品ラインナップで採算をだしていくのか。残酷ですが、チームは選手育成の慈善事業ではなく、どの価格でどのような選手を獲得し、レースという市場でチームの価値を高めていくかが、移籍という行為です。

もちろん、UAEやヴィスマのように年間予算の大きいチームは、優秀なコーチを雇い入れるなど、強化に最大限の力を注いでいます。ただし、それは、とりわけこの2チームが「ビッグレースで勝ち続けることを経営戦略の核に置いている」チームだからこそできることです。

一方で、余裕のないチームでは、トレーニングが選手任せになってしまうことも少なくありません。そうしたチームは、まずワールドツアーライセンス獲得に必要なポイントを効率よく積み上げ、ツール・ド・フランスをはじめとするビッグレースに出場すること自体に価値を見いだします。そして、その出場機会という特権を武器にスポンサー交渉を進めていくわけです。

要するに、最初からツール・ド・フランス総合優勝を狙っていないチームのほうが、現実には圧倒的に多いのです。これは、レースを視聴しているだけではなかなか見えにくい部分ですよね。

何が言いたいのかというと、実はすべてのチームが、選手のパフォーマンス向上にあらゆるリソースを振り向けられているわけではない、ということです。たとえば、逃げを得意とし、キャラクターの立った選手によってチームバリューを高めるタイプの中堅チームでは選手の純粋なパフォーマンスは伸びにくく、結果として伸び悩む実力派選手が出てくる可能性もあるのです。

少し話が逸れてしまいましたが、こうしたチーム事情も踏まえた上で、移籍による選手のパフォーマンス変化を見ていくと、より理解しやすくなると思います。

サイクルロードレースは移籍が活発なスポーツであることは間違いありません。毎年のように移籍のチャンスがありますからね。近年は有望な選手が長期契約を結ぶケースも目立ちますが、他チームが違約金を払う形で、長期契約の最中に移籍するパターンも多いですね。これは事実上の移籍金制度になっています。

覚醒とまで言えるかはわかりませんが、他チームからヴィスマに入ったマッテオ・ジョーゲンソン(モビスター→ヴィスマ)やクリストフ・ラポルト(コフィディス→ヴィスマ)などは、移籍直後から化けました。二人とも「前にいたチームとはすべてが違う」と語っていましたが、それは前述のとおり、選手個人の強化が最優先されるチームに入れたからでしょう。

引退を選んではしまいましたが、サイモン・イェーツもヴィスマへの移籍直後に悲願のジロ制覇を達成しましたよね。ただし、ここ数年は他のチームも年間予算を増やしていますから、相対的にヴィスマのアドバンテージは少なくなってきている気がします。

このように強くなる選手がいる一方で、勝ち続けていたスプリンターが他チームへ高待遇で移籍した途端、一気に崩れて勝てなくなるパターンも、これまで何度も見てきました。あくまで僕の印象ですが、年俸アップを主目的とした移籍は失敗するケースが多く、同様に、人間関係をこじらせて移籍するケースも、結局は移籍先でも同じように問題を抱える確率が高いように思います。人間臭いスポーツだからこそ、移籍の影響は複雑に表れるのです。

逆に、勝ち続けて一時代を築く選手ほど、同じチームに長く在籍する傾向があるように感じます。タデイ・ポガチャルしかり、マチュー・ファンデルプールしかりです。ツール・ド・フランス5勝を挙げたミゲール・インデュラインも、現役時代を一つのチームで過ごしました。

さて、今年はいくつかの大型移籍がありましたよね。レムコ・エヴェネプール(クイックステップ→レッドブル)やフアン・アユソ(UAE→リドル)です。二人とも契約期間中の移籍だったため大きな話題になりましたが、これが吉と出るか凶と出るか、その答えが出るのはこれからですね。

レムコ・エヴェネプールらの大型移籍は吉と出るか凶と出るか

文:栗村 修・佐藤 喬

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栗村 修

中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。

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