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マチュー、前人未到の8度目のアルカンシエル デルグロッソとネイスの“新・2強時代”到来の予感|Cycle*2026 UCI世界選手権大会シクロクロス男子:レビュー
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介8度目のシクロクロス世界王者となったマファンデルプール(中央)、2位デルグロッソ、3位ネイス
これで本当に見納めなのだろうか。この冬限りでのシクロクロス引退が噂されるマチュー・ファンデルプール(オランダ)が、8度目のシクロクロス世界王者に。あまりに圧倒的で、誰にも文句を言わせない。強すぎるままにシーンに別れを告げるのか、はたまた王座防衛にトライし続けるのか。前人未到の領域への到達は、将来への見どころを生み出すものになった。
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リスクを冒さずハイペースを貫いたマチューの走り
オランダ・フルストで開催されたUCI世界選手権大会シクロクロス。3日間で開催された大会の最後を飾ったのが、男子エリート。1周3.3kmのコースは平坦と高低の変化が大きなルーティングで、いつもこの地でレースをするときはハイスピードバトルになる。いつもより多い観衆に、いつもより大きな歓声。世界選手権ならではの緊張感が漂った。
スタート直後からオランダ勢が支配するレースになった。得意とするスタートダッシュでティボール・デルグロッソが先頭に立つと、それを測っていたかのようにマチューが後ろについた。地元期待の2人が先制攻撃に成功すると、ライバルのベルギー勢はティボー・ネイスだけが食らいつく。ネイスの後ろで数人がミスしたことでいくつにもパックが割れ、一瞬にして先頭争いは3選手に絞られた。
「良いスタートが切れて、気分が楽になった。ティボールのレース序盤は素晴らしかったね。しばらくは彼を見ながら走って、自分のタイミングで前に出ることにしたんだ。あとはもう、ペースを守るだけだったよ」(マチュー)
彼のいう“ペース”は他を圧倒していた。あっという間に後続との差は開き、ネイスらにプレッシャーを与えた。ハイペースを保つマチューの後ろでは、デルグロッソとネイスが2位争いを展開するが、気が付けばその差は30秒以上に。それでも、マチューは冷静に走ることに努めた。
「レース前からリスクは冒さないと決めていた。できるだけ慎重に。だから、いつもよりバイクを降りる回数が多かったんじゃないかな」(マチュー)
余裕のある展開であれば、坂を駆け上がった勢いでバニーホップをしてみせたり、シケインを乗車したままクリアしたり……と魅せることもできるけれど、不意のミスやトラブルを避け、あくまでフィニッシュまで駆け抜けることを貫いた。
ド派手ではなかったけれど、何より勝つことが一番。大喜びの地元ファンに力強いガッツポーズで応え、紙吹雪が舞う中をフィニッシュ。エリック・デフラミンクの最多優勝記録を超え、8度目となるシクロクロスでのマイヨ・アルカンシエルを獲得した。
紙吹雪が舞う中を単独先頭でフィニッシュ
シクロクロスとの向き合い方を変え、ロードでの目標達成へ
奇しくも30年前、父・アドリ氏がこの種目で世界王者になった。そんなタイミングで、マチューは8度目の世界の頂点。新たな歴史が刻まれた。
こうなってくると、気になる今後の動向である。「シクロクロスは引退か?」との話題が飛び交い、実際のところ自身も周囲も検討事項になっていることは認めている。
この日、具体的な明言は避けたが、限りなく核心に近いであろうコメントを残している。
「シクロクロスシーズンをひとつ飛ばしても良いと思っているんだ。特にこの時期は(世界選手権があり)心身ともにピークへ持っていく必要性がある。ロードレースのことを考えると、これからは違ったアプローチをしてみても良いのかもしれない。スタートラインに立つ以上、僕は常に100%でありたい。90%じゃ足りないんだ」(マチュー)
数週間後にはロードでのシーズンインを迎える。その準備とシクロクロスとを両立することは、決して容易ではない。超人的な強さを誇るマチューだが、31歳という年齢にみずからが気になっている。
「キャリアが終わりに近づきつつあることは常に意識している。まだ残されている目標はあって、そのいくつかを諦めざるを得ないことも分かっている。ここから数年は、ロンド・ファン・フラーンデレンとパリ~ルーベについて本気で考えていきたい。僕のキャリアに大きな意味をもたらす可能性が高いからね。シクロクロスに出ないとなれば、ロードのプログラムが変わるから、フランドルとルーベへの取り組み方もおのずと変化するだろうね」(マチュー)
何らかの決定がなされるまで、そう遠くはなさそうだ。それでも、ひとまずは地元での勝利を喜びたい。ポディウムではアルカンシエルの授与と合わせて、オランダのウィレム=アレクサンダー国王直々の祝福を受け、感激に浸った。
フルストといえば巨大風車
デルグロッソvs.ネイス時代の到来は近いか
メダルの色を決めたデルグロッソとネイスの争いも見ごたえ十分だった。ともに今季は好調で、上位進出は固いと見られていた。
レース後半にネイスがペースを上げ、一時はデルグロッソに5秒以上の差をつけた。そのままの形勢でフィニッシュまで進むかと思われたが、終盤に降り出した雨が状況を変えた。雨想定をせずタイヤチョイスをしていたネイスはペースダウン。コーナーや下りで慎重にならざるを得ず、さらには上りでタイヤを滑らせてしまう。最後の周回でミスしたネイスに対し、落ち着いて対応したデルグロッソ。オランダ勢のワン・ツーフィニッシュが決まった。
「限界まで追い込むことができた。ティボーのスピードは僕にとってプレッシャーだった。ただ、雨で僕にチャンスが生まれたんだ。結果的に彼がミスしたことで、互いの順位が決まったね」(デルグロッソ)
ネイスは早い段階で2位狙いにシフトし、デルグロッソとの勝負に賭けた。雨が降ってきたところでピットでのバイク交換も考えたというが、残り周回数やレース展開から、フィニッシュへ急ぐことを選択した。
「銅メダルでもうれしいよ。もちろん2位の方が良かったけど、その差は僕にとって気にするほどのものではないんだ。正直に言うと、今日はベストコンディションではなくて、10位でも不思議ではなかった。そんな中でメダルを獲ったのだから、自分自身の進歩を喜びたい」(ネイス)
エリートカテゴリー1年目で22歳のデルグロッソと、23歳のネイス。オランダとベルギー、シクロクロス王国が誇る若きエースは、この先長きにわたってシーンを引っ張っていくことになるのだろうか。新たな時代の牽引者になることを予感させる好勝負となった。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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