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サイクルロードレース コラム 2026年1月7日

【輪生相談】図抜けた選手・チームが勝ちまくる状況…

輪生相談 by 栗村 修
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第98回 図抜けた選手・チームが勝ちまくる状況…

 

今後のサイクルロードレース界全体について気になっていることで、栗村さんの見解をお聞きしたいです。ここ数年ポガチャルの強さが際立っており、ステージレース/ワンデーレース関係なく勝てる見込みがある日は全て狙っていく姿勢に見えます(実際に「勝つためにサラリーを貰っているから勝ちを譲るようなことはしない」と言っていたそうですね)。アスリート、またビジネスとしてとても正しいことで何も間違っていないと思うのですが、同時に格下のチームからするとレース展開が厳しくなったり逃げ切りが減ったりして、勝てる可能性が低くなることでスポンサーが減っていき、結果的にサイクルロードレース界全体が縮小するのでは?と思うことがあります。スポンサー探しが難航するのはサイクルロードレース界に昔から付いて回る話ですが、スポンサーは勝てる見込みがあるからお金を出すわけで、図抜けた選手・チームが勝ちまくる今の状況というのはどう考えればいいのでしょうか?サイクルロードレースは「勝たなくてもいい日がある」という特殊な競技だからこそ気になります。

(男性 会社役員)

栗村さん

 

ボガチャルをめぐるサイクルロードレースのあり方は、自転車競技に限った話ではなく、合理化や数値化が進む昨今の人間社会を象徴する動きのように思います。
現代では投資に対するリターンを「定量的に」分析して評価する時代です。すると、勝利とかUCIポイントといった定量化しやすい要素が価値を増してきています。
いっぽうで、これまでのサイクルロードレースは、「逃げの美学」とか「紳士協定」などといった定性的な価値にも美しさを見出すのが特徴の競技でした。しかし近年は、そうした側面が相対的に軽くなりつつあるようにも感じます。これもまた、時代の変化なのでしょうね。
ポガチャルの強さが際立って見える理由の一つは、他チームの選手からすると、無理に彼に食らいついて自滅するよりも、手堅く2位や3位、各賞ジャージなどの定量化しやすい価値を狙った方が合理的な時代になっているからです。その結果、ワールドチームの監督も語っていましたが、突出して強い選手が存在する場合は無理に勝負を挑まず、「2位〜10位に複数人を入賞させる方が合理的」と判断するケースが増えているようです。
要するに、ポガチャルやUAEの「強すぎる走り」を結果的に助長しているのは、ライバルチーム側の戦略でもあった、という皮肉な側面があるということです。この文脈では、問題の本質はポガチャル個人の圧倒的な強さではなく、ロードレースに体系的なポイントランキングという仕組みを持ち込んでしまったことにある、とも言えます。
もっとも、ポイントランキングシステムがもたらしているプラスの側面も数多くあり、チーム運営の合理化やスポンサーへの説明責任など、その恩恵は決して小さくありません。だからこそ、この流れを単純に逆回転させることも現実的ではありません。
それと、ある国家系チームのスポンサーの偉い方が、「なんでウチのチームの選手は集団の後ろの方を走っているんだ?みっともない」と叱責したという噂があったように、現在の大スポンサーの中には、サイクルロードレースの戦術構造や文脈を必ずしも深く理解していないケースも少なくありません。その結果、レース全体のあり方そのものが、かつてヨーロッパのローカル企業が中心となってスポンサーを務めていた時代とは、少しずつ違う方向へと変化してきているのかもしれません。
そういう流れの結果、どのチームも選手構成が似てきていますよね。総合エース、アシスト、ポイント稼ぎのスプリンター、という感じです。かつては、メンバー全員がクライマー、みたいな個性的なチームもあったのですが、今はそれでは生き残れません。定量的な業績を手に入れづらいですから。それよりは、2025年のアスタナが典型的でしたが、中堅選手を手堅くトップ10に入れていくようなチーム編成が有利です。
こう書くと「昔はよかった……」とも感じてしまいますが、個人的にはレースは以前よりも面白くなっているとも思っています。かつてのサイクルロードレースは、レースが動かない時間帯が非常に長く、僕たち解説陣は雑談のテクニックを要求されたわけですが、今はゴールまで残り100㎞でエース級の選手が動きますからね。
ポガチャルやマチュー、エヴェネプールのように、勝つときは圧倒的で、ライバルチームの戦術を個の力で粉砕してしまう、そんなダイナミックで、まるでマンガの主人公のような選手が増えているのも事実です。その影響もあってか、近年は沿道に子どものファンが増えてきているのも感じますね。
一方で、レースの戦い方そのものよりも、チーム間の予算格差の拡大のほうが、より深刻な問題なのかもしれません。近年のスポンサー離れの理由を見ていると、「成績不振」というよりも、「そこまでの金額は出せない」という声のほうが多いように思えるからです。
まとめると、いまのサイクルロードレースは過渡期にあり、評価基準やスポンサーが求める価値、ファン層の変化など、さまざまな要素が交錯しながら新たな着地点を探している最中なのだと思います。視聴者側も、以前にも増して「タイパ」を意識するようになってきました。もちろん課題は少なくありませんが、その一方でレースは確実にエキサイティングな側面を増しています。だからこそ、この流れがどこへ向かうのかを見守っていきたいですね。
ツール・ド・フランス

定性的な価値より定量的な分析が求められる現代のサイクルロードレースは、昨今の人間社会を象徴するかのような一面を持つ。

文:栗村 修・佐藤 喬

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栗村 修

中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。

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