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3年前にフラッと入ったスポーツバイク店でオールロードバイクを衝動買いして以降、舗装、未舗装問わず走る事にのめり込んでいます。現在手持ちのバイクを本格的にグラベルカスタムして2台目に舗装路メインのピュアロードと思って増車を検討中ではありますがメーカー、モデル共に多く何を選べばいいか悩みあぐねています。よくジオメトリを見て選べと聞きますが、今の今までジオメトリを意識した事が無かったので数字を見てもピンとこないのが現状です。そこで相談なのですがジオメトリ表の見方と2台目を選ぶ際の注意点がありましたらご教示頂けないでしょうか。
(男性 会社員)
専門的で奥が深いご質問ですね。
最初に、正直に申し上げますと、質問者さんのフィジカルデータや目的がわからないため、精度が高いお答えは難しいかもしれません。その上で、ジオメトリに関する基礎的な知識をご紹介しますね。
僕の現役時代の初期は、まだスチールフレームの全盛期で、選手が乗るスチールフレームは、ビルダーによる手作りのフルオーダーフレームが主流で、各部はミリ単位、パイプどうしの角度も0.1度単位で指定していました。「吊るし」のフレームがほとんどである現在とは状況が違ったんです。
だから、ジオメトリについては、今の選手よりも知見があるかもしれません。まあ、選手によってはビルダー任せのタイプも多かったのですが、とくに僕はオタクだったので、自分で細かくサイズを指定していました。
当時の僕が、サイズ以外で走りに影響を与える要素として意識していたのは以下です。
まず、ヘッド角とフォークオフセット。この2点からトレールが算出できます。また、フロントセンターにも影響します。これらはダンシングでの振りやすさや直進安定性、コーナリングに影響します。これは、はっきり体感できるレベルでした。ちなみに、フロントセンターが短すぎると前輪とつま先が接触しやくなるため、ある程度の長さを確保する必要があります。
次にBBドロップ。これは加速感や安定感に影響し、BBが高いと反応は軽快である一方、安定性は弱いと言われていましたが、個人的にはあまり体感できませんでした。
そしてリアセンターです。反応性や安定感などに影響し、一般的に、短いと加速のキレが良い半面、下りの安定性はやや低下すると言われていました。
僕が10代でフランスに行ったとき、落車でフレームが全損し、「フレームだけ」を現地で交換したことがありました。そしていつも練習で上っている短い坂に行ってみたのですが、いつも頂上付近で失速していたのに、新しいフレームだとダンシングで一気に踏み切れるんですね。何が違うのかというと、ジオメトリです。リアセンターが短く、BBの位置が高くなっていたんです。他のパーツは全部一緒なのに、ジオメトリにはこのくらいの影響がありました。
もちろん、ほかの要素も関係していたとは思いますし、あくまで数十秒間の短い高出力ダンシングという状況での出来事でしたが、乗り味というよりも、走りが変わることを体験したエピソードです。
その他、シート長・シート角・トップ長・ヘッド長なども重要なのですが、これらはどちらかというと身体的ポジションに関わる寸法であり、「走行性能」への影響はあまりありませんでした。
あくまで僕の主観ですが、上記の通りヘッド角とフォークオフセットが乗り味に明確な違いを生みます。昨今のカーボンフレーム、特に小さいサイズでは、トップ長とフロントセンターのバランスを取るため、ヘッド角とフォークオフセットが「消去法的に」決められているように感じます。特にフォークオフセットは、コスト面の影響もあり、細かいサイズ展開が用意されていないモデルもあります。
近年のカーボンフレームは、僕が乗るようなサイズでは、ダンシングの際にやや振りづらさを感じるモデルもありますが、これはヘッド角やフォークオフセットの影響もあるでしょう。
かなり専門的な話になりますが、僕のサイズの場合、あくまで主観として、昔のスチールフレームにおけるニュートラルなトレールは、以下のようなイメージでした。
ヘッド角:71°/フォークオフセット:55mm
ヘッド角:72°/フォークオフセット:50mm
ヘッド角:73°/フォークオフセット:45mm
これが何を意味しているかというと、ヘッド角が寝ていく場合はフォークオフセットを増やし、ヘッド角が立ってくる場合はフォークオフセットを減らすことで、トレール値を調整していたわけです。
昨今のカーボンモノコックフレームは、フォークオフセットを変更せずにヘッド角のみでフロントセンターを調整する設計もあるため、結果として小さいサイズほど直進性が強い味付けになってしまうんですね。
あくまで個人的な印象ですが、「ヘッド角:73°/フォークオフセット:45mm」のバイクが、ダンシングの振りやすさと、程よくクイックなハンドリングのバランスが取れていて、非常に乗りやすかった記憶があります。ただし、人によっては、これよりもさらに直進性を求める場合もありますので、上記はあくまで個人的な参考値として受け止めてくださいね。
最後に、ご質問にあった2台目を選ぶ際の注意点ですが、質問者さんの身長が175cm以上ある場合は、それほど気にしなくてもいいと思います。ただし、小柄な方であれば、今回の記事の内容とご自身の使い方を照らし合わせたうえで候補のフレームのジオメトリーを読み込み、可能であれば試乗してみることをおすすめします。
スチールフレーム全盛期にはフルオーダーフレームが主流だった。
文:栗村 修・佐藤 喬
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栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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