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サイクル ロードレース コラム 2025年11月5日

【輪生相談】ロードバイクの性能?やメディアの姿勢について栗村さんのご意見が伺いたく質問致します。

輪生相談 by 栗村 修
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輪生相談

 

ロードバイクの性能?やメディアの姿勢について栗村さんのご意見が伺いたく質問致します。ショップやメディアのネット記事でよくロードバイクのインプレがありますが、その中で『加速』という言葉を見ることがあります。『グングン加速する』とか『爆発的な加速』という文章を実際読んだことがありますが、これはどういう意味なのでしょうか? ロードバイクは自動車やオートバイと違って原動機がないので、当然ロードバイクが勝手に加速することはなく、乗り手がペダルを漕く以上に加速することはないはずです。グングン加速するのも爆発的に加速するのも、乗り手がそのように漕いだだけではないかと思うのですが、これはどのように解釈すればいいのでしょうか? 乗るだけで速くなると勘違いするような書き方は良くないと思いますし、200km先のゴール前でコンマ1秒を争うプロでなければ、それほど高価な機材は必要ないと私は思っているので、こういう記事を見るにつけ醒めた気分になってしまいます。栗村さんのご意見をお願い致します。

(男性 会社員)

 


近年は、パワーメーターの普及によって、「空気抵抗」「重力抵抗」「転がり抵抗」などを、一般の人でもある程度、「定量化」できるようになりました。
一方で、インプレ記事は僕がロードバイクに乗りはじめた1980年代からあったのですが、そこではさまざまな文学・哲学的、ときには詩的な表現を駆使する乗り手による、「定性的な」評価が繰り広げられてきました。定量vs定性という違いがあるわけです。

「爆発的な加速」のような表現をどう読むかは、読み手のサイクリストとしての経験とリテラシーが問われます。

人間の体は、与えられた環境に対して順応というか、変化していきます。たとえば30年前に主流だったような、クロモリに極細の高圧チューブラータイヤを履かせたバイクに乗っていた人は、身体やフォーム、感性がそのバイクに順応しているわけです。

そして問題は、そのような身体や感性の個人差は、定量化しづらいことです。たとえば近年はタイヤがどんどん太くなっていますが、そのほうが転がり抵抗が低いというデータがありますよね。それを確かめるためには、パワーメーターを付けてシッティングで走って速度とパワーの関係を見れば、ある程度、定量的にわかります。

僕も太いタイヤを試してみたところ、たしかにシッティングではメリットを感じられたのですが、問題はダンシングでした。自転車を振るたびに「ザッザッ」という大きな音がして、なんだか抵抗になっているように感じ、振りも重い。少なくとも僕のダンシングだと今風の太いタイヤは合っていない「気がして」しまったのです。

これは、僕が昔の細いタイヤに順応しているからかもしれません。データ上は太いタイヤの方が速くても、ダンシングはフォームの個人差が大きいですから、僕の場合、ダンシングに関しては細いタイヤの方が速い可能性も否定できません。もちろん、ダンシング時の定量データを取ってみれば、「ザッザッ」というタイヤ音や「振りの重さ」に関係なく、実際には転がり抵抗が少ないという結果が出るかもしれません。

さらに考察を進めると、なんども書くように人は環境に順応しますから、僕が太いタイヤでダンシングをし続ければ、シッティングだけでなくダンシングでも太いタイヤの方が速く走れるように、僕の身体そのものが変化していく可能性もあるのです。

要するに、人間の順応力を計算に入れると、インプレを読み解くのはとても難しくなるということです。「爆発的な加速」はたしかにただのレトリックかもしれませんが、その乗り手とバイクの相性が抜群によくて、実際に爆発的な加速をしている可能性だってあります。でも一方で、人間の順応力は思い込み方面でも発揮されますから、「爆発的な加速」は気のせいで、パワーメーターを使って定量的に検証したら、実はとても遅いかもしれません。実際、昔は「正義」とされていたフォームや機材、走り方が、近年の科学的で定量的な検証によってオカルトだったと示された事例は少なくありません。

定量的なデータの確かさを否定するのは難しいですが、心身が新しい機材に順応していない場合、「定量的に速い」はずの機材を使っても、遅くなってしまう可能性はあります。でも、そういう人も新しい機材を使い続ければやがて順応して、速くなっていくかもしれない。難しいですね。

ひとつ確かなのは、新しい機材に順応するためにはかなりの時間がかかることです。たとえば流行のショートクランクに交換したとして、ペダリングがそれに順応するまでには、少なくとも1シーズンは必要だと僕は思っています。数週間で結論を出すのは、難しいでしょう。ペダリング時の脚の軌道が変わるため、神経系だけでなく、筋肉の付き方そのものも変えていく必要があるからです。

今も昔も、定性的なインプレは話半分で楽しむもの、とよく言われますし、その通りだと思います。ただ、「乗り手の順応」という要素を計算に入れて読むと、より味わいが増すかもしれません。

最近主流の機材が必ずしもすべての乗り手に合うとは限らない。新しい機材には乗り手の順応も必要だ。

文:栗村 修・佐藤 喬

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栗村 修

中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。

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