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「ずっと勝つことを夢見ていた」悲願のブエルタ制覇から未来を切り拓くヨナス・ヴィンゲゴー、すでに視線の先には次なる目標も|ブエルタ・ア・エスパーニャ2025
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介前評判通りの力をみせつけ自身初のブエルタ制覇を成し遂げたヴィンゲゴー
「ブエルタ・ア・エスパーニャは世界最大のレースのひとつ。ここで勝つことが僕の夢だったんだ」
9月13日に行われた第20ステージを圧倒的な強さで勝ち、自身初となるブエルタ・ア・エスパーニャの個人総合優勝を決定的にしたヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ヴィスマ・リースアバイク)は、夢の実現に感情を爆発させた。
自身3度目のブエルタ出場で初の王座獲得、さらには今年のツール・ド・フランスで2位に終わった悔しさ、これらがこもった喜びだったのだろう。過去2回ツールを制したその力にひとつの陰りもなく、再びグランツールの頂点に戻ってみせた。
改めて強さを誇示したスペインでの3週間。ヴィンゲゴーにとってブエルタ制覇は、新たなタイトル獲得とともに明るい未来が切り拓かれるものとなった。
総合タイム差以上の強さを示した2つのステージ
激闘だったジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)との総合争い。両者の最終的な総合タイム差は1分16秒だったが、実際のところはその差以上にヴィンゲゴーの力が上回っていた印象だ。
それを裏付けるのは、2つのステージ。ヴィンゲゴーが今大会2勝目を挙げた第9ステージは、当初「総合勢のタイム差はあまりつかないのではないか」との予想もあった。ただ、そんなときこそ思わぬ方向へと進むのがサイクルロードレースである。体調の良さを感じながら、冷静にプロトン内の状況を見渡していたヴィンゲゴーは、みずからにチャンスが膨らんでいることを理解していた。
アルメイダ擁するUAEチームエミレーツの人数が減っているのを見て、ヴィンゲゴーはチームメートにペースアップを要求。雨が強まる中、ヴィンゲゴーからの繰り返しの指示を受けたマッテオ・ジョーゲンソンは自身のリザルトを捨て、絶対エースの要求に応えようと奮闘。アシストを受けたヴィンゲゴーは、アルメイダらを突き放して独走でバルデスカライの頂上に到達した。
この前日、UAEチームエミレーツはフアン・アユソがステージ優勝。喜びの一方でダメージが大きく、バルデスカライで彼が機能しなかった。他のアシスト陣も早い段階でヴィスマのコントロールに対応できなくなり、ヴィンゲゴーの優勢を許す形になった。
マイヨ・ロホを守るために徹底的なサポートを続けたヴィスマのアシスト陣
もうひとつは、第20ステージ。アルメイダにとってはヴィンゲゴーを逆転する最後のチャンス。この日こそは、UAEチームエミレーツが全精力を上げて主導権を握ろうと試みた。しかし、結果は“ヨナス・ヴィンゲゴー ショー”だった。
第10ステージを終えた段階からマイヨ・ロホを着続けていたヴィンゲゴーは、充実のアシスト陣がコントロールする中でディフェンシブにレースを進めていた。アルメイダとの総合タイム差は40秒から50秒の間を推移。数字のうえでは僅差だったが、それも想定内。最終目的地マドリードにマイヨ・ロホを持ち帰られれば大成功とのスタンスを貫いていた。
それでも、第20ステージだけはわけが違った。勝ってマイヨ・ロホを確たるものにする。強い意志が走りに現れた。最大勾配25%を超えるとも言われるボラ・デル・ムンドの悪路を突き進んだその走りは、いま一度“ヨナス・ヴィンゲゴーの強さ”を証明するものに。インパクトの強さは、「来年のツールへの宣戦布告」と本場ヨーロッパのメディアで報じられたほど。
今大会ではステージ3勝を挙げたヴィンゲゴー。1勝目の第2ステージを含め、「ここ一番」での走り、そして勝利がブエルタ制覇へ、大きすぎるくらいの要素になった。
体調不良を自身のポテンシャルとチーム力でカバー
マイヨ・ロホをまとってからはディフェンシブにレースを進めていたと前述したが、この間、実は体調不良にあったことをヴィンゲゴー本人が明かしている。
第2週は特に状態が悪く、ステージを走り切るので精いっぱいだった日もあったという。名峰アングリルでアルメイダの先着を許した第13ステージは、体調不良の真っただ中だった。
それでも、第3週にはコンディションが回復。体調を整えながら日々をやり過ごし、タイムを大きく失うことなく走り続けたあたりに、うまくカバーしたチームとしてのまとまりと彼の超人的な強さをうかがわせる。
ちなみに、ヴィンゲゴーと好勝負を演じたアルメイダも体調を崩していたという。こちらは第3週に入ってインフルエンザの症状が出つつあったとか。このあたりは、総合逆転への機運を失う要因に上がりそうだ。
全グランツール制覇へ視界は良好 ツールとの連戦も?
過去2回のツール制覇に続くビッグタイトルとなった、ブエルタ・ア・エスパーニャ個人総合優勝。それは、未来へとつながる大きな勝利でもある。
いささか気の早い話ではあるが、ヴィンゲゴーには「次のターゲット」を問う声が集中した。質問の意図を汲み、リップサービスを含んでいるあたりも否定はできないけれど、実際にそのレース名を口にしている。
ポガチャルでさえ未だ成し遂げていないグランツール全制覇の偉業にも期待が掛かる
「そうだね、ジロ・デ・イタリアにはいつか出たいと思っているよ。勝てれば最高だよ。3つあるグランツールのうち2つは勝てたから、次はジロと思うのも不思議ではないよね」
果たして来年になるのか、はたまたその先になるのか。ただ、はっきりしていることは、ジロへのポジティブな気持ちがあること。遅かれ早かれ、全グランツール制覇の偉業に挑戦するときがやってくることだろう。
同時に、ジロやブエルタを優先しツールを回避するような対応は一切しないとも。
「ジロやブエルタに出場していきたいとは思っているけど、レースプログラム次第だろうね。当面はツールがベースになると思うよ」
ホテル駐車場での即席表彰式に笑顔を取り戻す
日々激しさを増した親パレスチナ派の抗議活動により、エモーショナルとなるはずだったマドリード帰還は目前でキャンセル。その前には、第5ステージでイスラエル・プレミアテックが足止めを食い、第11ステージではフィニッシュ3km手前でのタイム計測に。個人タイムトライアルで争った第18ステージ27.2kmから12.2kmに短縮。第20ステージでも、山頂まで1kmの範囲は立ち入り禁止の措置が講じられていた。
こうした状況を受け、マドリード警察は2000人以上の警備体制を敷き、レース実施を目指した。その人数は、2022年のNATO(北大西洋条約機構)首脳会合を同地で開催したときを超えるものだった。しかし、デモ隊はその数をはるかに上回っていた。
即席の表彰台で互いの健闘を称え合う選手たち
これによって失われたシベーレス広場での総合表彰式だったが、有志が王者たちを祝福するべく行動を起こした。選手・チームがコースを退避してたどり着いたホテルの駐車場では、自主的な総合表彰式が執り行われた。シベーレス広場で催すときと同様に、総合トップ3、マイヨ・ロホ、マイヨ・ヴェルデ、マイヨ・デ・ルナレス、マイヨ・ブランコなどが登壇。即席の表彰台は大小サイズ違いのクーラーボックス。確かにいつもよりはるかに小さなステージだったけれど、選手・チーム・関係者がみんなで盛り上げて、温かなムードが漂った。
「永遠の瞬間となるはずだった美しいフィナーレがなくなって悲しい」と話していたヴィンゲゴーだけど、手づくりの表彰式に笑顔が戻った。「またグランツール制覇に向けて挑戦する」と誓ったアルメイダも、オフロードにバックボーンを持つライダーとしては最高クラスの成果を得た個人総合3位のトーマス・ピドコック(Q36.5プロサイクリングチーム)も、仲間とともに祝ったひとときを喜んだ。
最後は表彰対象ライダーみんなでのシャンパンファイト。規模こそ小さかったけれど、そこには3週間を戦った選手・チーム・関係者の結束力が表れていた。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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