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ヴィンゲゴーが初のブエルタ総合優勝!祝祭は無くとも英雄たちの軌跡は残る|ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第21ステージ
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかヨナス・ヴィンゲゴーが自身初のブエルタ総合優勝を果たした2025年大会
幸せなエピローグは迎えられなかった。マドリードの最終周回コースに入る直前、突如として、2025年ブエルタ・ア・エスパーニャの幕は閉じた。第21ステージの勝者の欄は永遠に空白で、表彰式すら行われぬまま、ヨナス・ヴィンゲゴーがスペイン一周の王者になった。
「初めてのブエルタ制覇、そしてキャリア3度目のグランツール総合優勝を、とてつもなく誇りに思う。厳しい3週間だった。1週目はすごく力にあふれていて、2勝を挙げることができた。その後は難しい時期も過ごした。でも、幸運にも、最後の週末に調子を取り戻せた。ボラ・デル・ムンドでのステージ優勝は、僕に大いなる満足感をもたらしてくれた。美しいやり方で、今回のブエルタの有終の美を飾ることができた」(ヴィンゲゴー)
平凡に、つつがなく、最終ステージは走り出した
ステージ前半は、まさに典型的な、グランツール最終日の風景が繰り広げられた。プロトン前方では繰り返し写真撮影が行われた。チームメイトたちと、同国出身選手たちと、そして昨日までのライバルたちと、誰もが笑顔でおしゃべりに興じた。ゆったりとした時間が流れた。
前夜すでに、総合争いは完全に決着がついていた。ヴィンゲゴーが区間3勝目を挙げると同時に、自身初のブエルタ制覇を確実なものとし、あとは総合2位ジョアン・アルメイダと総合3位トーマス・ピドコックと揃ってシベレス広場での総合表彰式を楽しむだけだった。
マイヨ・ロホのヴィンゲゴーをはじめ、各賞ジャージを勝ち取った選手たち
前夜に逆転で新人賞首位に立ったマシュー・リッチテッロにとっては、純白のマイヨで過ごす初めての時間。もちろんジェイ・ヴァインは2年連続の山岳ジャージを悠々と着こなしていたし、マッズ・ピーダスンのジロ&ブエルタ同一年ポイント賞獲得――リドル・トレックは同一年3大ツールのポイント賞総なめ――も、マドリードステージの結果を待たずに確定していた。
残す見どころは、大集団スプリントの行方だけ。ブエルタの締めくくり。2025年グランツールの総フィナーレ。
今シーズンの3大ツールでいまだ両手を挙げられていないロットが、いち早く集団先頭で作業に乗り出した。ブエルタ初日に「今年の3大ツールすべてで区間勝利」を手にした最初のチームとなったアルペシン・ドゥクーニンクもまた、マドリードの接近と共に、今大会4勝目に向けて隊列を組み上げた。
フィニッシュまで57kmを残し、ブエルタは終わった
創設90周年、第80回大会の終わりを華やかに飾るはずだった大集団スプリントは、しかし幻と消えた。
3週間におよぶ激闘のフィナーレを飾るはずだった表彰台
マドリード周回コース突入まで、あと3kmほどに迫っていた。黒地に赤のアクセントを施した特別ジャージに身を包んだチーム ヴィスマ・リースアバイクのメンバーが、マイヨ・ロホを連れて、いよいよ集団最前列へとかけ上がってきた。ほどよい緊張感が、徐々にプロトン内を満たしていた。
ところが、突然、横断幕を掲げた人々が走行中のプロトンに割って入った。レースは強制的に中断された。
しばらく停止した後に、ブエルタ一行はその先のマドリード王宮のカンポ・デル・モロ庭園に移動。開催委員会と審判団、そして警察による協議が行われ、ステージの即時中止が決定された。フィニッシュエリアのフェンスは倒され、周回コースの一部は、大規模なパレスチナ支援デモ隊により占拠されていた。
史上初のイタリア開幕を終えてスペインに上陸して以来、今大会は繰り返し、デモ隊による影響を被ってきた。
第5ステージのチームタイムトライアルでは、イスラエル・プレミアテックが足止めを食らった。第11ステージは残り3kmでタイム計測が止められ、ステージ順位はなし。第16ステージは8km短縮され、つまり最後の山を登らずに勝敗が決した。第18ステージの個人タイムトライアルは27.2kmから12.2kmへと大幅カット。一部の選手にとっては、総合タイム差をつけるチャンスを奪われたことになる。さらに第20ステージは親パレスチナ団体だけでなく、エコロジスト団体の抗議活動も予告されていたため、山頂から1kmの範囲で一般の立ち入りを禁じる対応が取られた。
マドリードでの最終ステージに向けて、報道によれば、地元警察は例年以上の警備体制を敷いていた。ただし公道を使って行われる自転車ロードレースにおいて、特に大都市の周回コースでは、人の流れを完全に止めることなど不可能だ。恐れていたことが現実となった。
祝祭はなかったけれど、記憶と記録は残る
英雄たちが3週間かけて積み重ねてきた努力の成果を称える機会すら、失われてしまった。本来であれば、大会史上初めて、デンマーク国歌がマドリードの空に流れていたはずなのだ。しかしフィニッシュラインのすぐ隣に設置された表彰台は、混乱の渦に飲み込まれていた。
ヴィンゲゴーにとっては2022年・2023年ツール・ド・フランスに続く、自身3つ目のグランツールタイトル。マイヨ・ジョーヌとマイヨ・ロホ、異なる2色のグランツール総合リーダージャージを持ち帰ったことになる。
チームメイトと3度目のグランツール制覇を祝うヴィンゲゴー
その赤いジャージは、2日目に初めて身にまとったあと、4日目の終わりにいったん脱いだ。TTTの結果、5日目に改めてまとったが、翌日再び手放している。そして2週目の初日、第10ステージの終わりに改めて手に入れると、今度こそ最後まで守り抜いた。
総合首位からは何度か降りたものの、2日目以降、直接的ライバルに順位を抜かれることは一度もなかった。2位アルメイダに対しては、タイムトライアル(第5ステージ8秒、第18ステージ10秒)とボーナスタイムを除いて、タイムを失ったことはない。ボーナスタイムに関しても、アルメイダが3週間でトータル20秒を収集したのに対して、ヴィンゲゴーは54秒。つまり総合タイム差は1分16秒だが、実際にペダルでつけた差は42秒だった。
アルメイダは、2023年ジロの総合3位から、ひとつステップを上がったことになる。また、全21ステージ中19ステージにしか勝者(もしくは優勝チーム)が存在しないという、ひどく歪な大会で、アルメイダ率いるUAEチームエミレーツ・XRGが7ステージを独占した。チーム総合成績でも2位ヴィスマに23分01秒もの大差をつけたほど。
チームとして7度のステージ勝利で強さを示したUAEチームエミレーツ・XRG
そもそも2025年の3つのグランツールの、総合トップ2は、ヴィスマとUAEが分け合った。ジロとブエルタはヴィスマが取り、ツールはUAEが制した。うちヴィンゲゴーだけが、2つのグランツールで表彰台に上っている(ツール2位、ブエルタ1位)。
人生初のグランツール表彰台乗りとなったピドコックは、「僕にとってこれは勝利に等しい。とてつもない快挙だ」と繰り返した。もちろん創設わずか3シーズン目のQ36.5プロサイクリングチームにとっても、初めてのグランツール総合表彰台。さらに「第2ディビジョン」(現在であればUCIワールドチームよりひとつ下のUCIプロチーム)の所属選手が総合表彰台に上がるのは、2009年ジロでカルロス・サストレが2位に上がって以来だ。だからこそマドリードでの式典を経験できないことが、残念でならない。
今大会を通しておそらく最も逃げに乗り、スーパー敢闘賞に選ばれたジョエル・ニコラウの、晴れ舞台も奪われてしまった。
文:宮本 あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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