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サイクル ロードレース コラム 2025年9月14日

ヴィンゲゴーが今大会3勝目!総合首位を確定させる1番登頂|ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第20ステージ

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ヴィンゲゴーが最難関ステージをトップでフィニッシュ

ヴィンゲゴーが最難関ステージをトップでフィニッシュ

真紅のジャージが、美しく輝いた。最後の山頂フィニッシュにふさわしい激闘の果てに、ヨナス・ヴィンゲゴーが今大会3勝目を挙げ――、マイヨ・ロホ姿で初めての勝利を手に入れた。2025年ブエルタ・ア・エスパーニャの総合優勝をほぼ確実なものとし、マドリードでの凱旋行進に向かう。

「今日は調子が良かったし、自分の出来にすごく満足している。チームのこの3週間の働きにも感謝したい。みんな本当に素晴らしかった。彼らなしでは絶対に成し遂げられなかったことだ」(ヴィンゲゴー)

総合逆転のために、ステージ優勝を追い求めた

道の終わりに待つボラ・デル・ムンドへ、誰もが我先に突き進んだ。大会最後の逃げ切りチャンスであり、大会最後の、総合逆転のチャンスでもあった。

スタートと同時に、長く熾烈なアタック合戦が勃発した。2つの3級山岳を登り終えるころ、ようやく37選手が逃げを作り上げる。リドル・トレックが4人を送り込んだ巨大な先頭集団は、しかし、メイン集団から十分な余裕を与えられなかった。タイム差が2分に至ることはなく、たいていは1分半ほどに留め置かれた。

今大会の雌雄を決する舞台「超級ボラ・デル・ムンド」

今大会の雌雄を決する舞台「超級ボラ・デル・ムンド」

すべては逃げの後方で、UAEチームエミレーツ・XRGが素早く集団制御に乗り出したせいだった。総合首位までの44秒差をひっくり返したいジョアン・アルメイダのために……ブエルタでは10年前にファビオ・アルが成功して以来、一度も繰り返されていない「最終日前日の逆転優勝」を達成するために、チーム全員で凄まじいリズムを刻んだ。

レッドブル・ボーラ・ハンスグローエもまた、勢力的に牽引作業に協力した。狙いはもちろん、39秒前を行くトーマス・ピドコックを引きずり下ろし、ジャイ・ヒンドレーを表彰台に乗せること。

ヴィンゲゴーを守るチーム ヴィスマ・リース ア バイクがそうであったように、UAEとレッドブルもまた、逃げには1人も選手を潜り込ませなかった。ときに大きなタイム差を許す必要がある「前待ち」作戦には頼らず、正攻法を選んだ。ステージ優勝が必要だった。今大会すでに異なる4選手で区間7勝を誇るUAEが、この日、求めていたのは、チームマネージャーのマウロ・ジャネッティ曰く「ステージ勝者に与えられるボーナスタイム10秒」だった。

逃げた2人の共闘、最後に力尽きる

ジュリオ・チッコーネとミケル・ランダは、前線で最後まで粘った。「逃げ切りの可能性が限りなく少ないことは分かっていたけれど、僕にとってはそれが唯一の選択肢だったから」(ランダ)と。

緑ジャージのマッズ・ピーダスンは、ひたすら逃げの形成のためだけに猛烈な加速を繰り出し、役目を果たすと静かに後退した(ちなみに残り37.2km地点の中間ポイントは、デモ隊を理由に迂回されたため、ステージ終了を待たずにポイント賞首位が確定した)。1級山岳ナバセラダでは、2人のチームメイトが強烈なテンポを強い、集団を小さく絞り込んでくれた。そんなリドルの仲間たちの献身に応えるべく、残り20km、チッコーネが真っ先にアタックを放った。

カウンターを打ったのはランダだ。デモ隊の影響で「ノーコンテスト」となった第11ステージでも果敢に飛び出しながら、背中の痛みで足が止まった。やはりステージ短縮措置が取られた第16ステージは、得意の登り勝負に持ち込めぬまま2位に泣いた。この日もまた残り19km、道路を塞いだデモ隊に、ヒヤリとさせられた。それでもランダがいったんは独走態勢に持ち込んだ。

残り3km地点まで逃げ続けたランダとチッコーネ

残り3km地点まで逃げ続けたランダとチッコーネ

ただナバセラダの復路に入ると、チッコーネに先に行かれてしまう。残り9kmのアーチの手前では、今度はランダがチッコーネをとらえた。メイン集団との差は約1分。早い段階で総合争いの望みを失い、なにより5月のジロでは落車リタイアを強いられた2人のピュアクライマーは、どうやら、これ以上のいがみ合いは得策ではないことを悟った。共闘体制を組み、必死に逃げ続けた。

無念にも、2人の努力は、志半ばで断ち切られる。残り3.2km――ナバセラダ山頂からさらに上へと伸びる、ボラ・デル・ムンドへの荒れた激坂ゾーンに入った瞬間だった。

ヴァインが猛牽引、白いジャージの行方が変わった

文字通りスタート直後から働いてきたUAEは、残り7km、いよいよ最終アシストに牽引のバトンを渡した。1級ナバセラダを終えた時点で2年連続の山岳賞を確定させたジェイ・ヴァインが、「開幕前から第20ステージには狙いをつけていた」……というステージ3勝目への個人的な野望を抑えて、チームリーダーのために最後の力を振り絞る。

先頭を引き継いだ時点で45秒近くあったタイム差を、ヴァインはわずか4km弱で「0」に変えてしまった。その常軌を逸したスピードは、当然ながら集団を急速に削り、ある部分で、総合争いに直接的な影響を及ぼした。

大会6日目から純白のジャージをまとい、総合5位につけていた21歳ジュリオ・ペリッツァーリが、たまらず後方へと吹き飛ばされてしまったのだ。ステージ終了後には、大切な新人賞首位を、23歳マシュー・リッチテッロに譲り渡すことになる。

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そのリッチテッロもまた、最終3.2kmの平均勾配12.2%の激坂に差し掛かると、ひどく苦しい時間を味わった。それでもエースたちの真剣勝負を少し離れた背後から眺めつつ、決して折れず、決して崩れず。人生3度目のグランツールで、初めて総合トップ5の座を射止めた。

「僕がやるべきことは、ひたすら後輪を追いかけて、できる限り長く粘ることだけだった。この3週間、特に最後の1週間の脚の調子には、本当に満足している。白いジャージを着ることができて嬉しいし、総合5位だなんて、これ以上ないほど良い結果を出すことができた」(リッチテッロ)

一撃必殺、最難関パートからヴィンゲゴーが勝利へ飛び立つ

激勾配への突入とともにヴァインが作業を終えると、いよいよ今大会最後の、エースたちによる直接対決の時間がやってきた。最前線に残るのは5人だけ。総合上位4人は全員揃っていた。

総合2位アルメイダが真っ先に責任を担った。約1週間前にアングリルを制した勇者は、まるでこの世の果てのようなボラ・デル・ムンドでも、毅然として先頭を爆走した。勾配19%を超えるヘアピンカーブを利用して、残り2.2km、総合4位ヒンドレーが最前列を奪った。3年前のジロで最終日前日に大逆転優勝を成し遂げた張本人は、畳み掛けるように幾度も加速を仕掛け、総合3位ピドコックを大いに苦しめた。

アルメイダの高速テンポにも、ヒンドレーの波状攻撃にも、総合首位ヴィンゲゴーは冷静かつ完璧に対処した。いずれの後輪にもしっかりと入り込み、一部の隙すら見せない。

「ジョアンとジャイの刻んでいたペースは、『快適』とは言えなかったけれど、少なくともいまだ自分の限界には達していないと感じていたし、ステージ優勝を狙うチャンスがあると分かっていた。そして、ある時点で、『今だ、トライしよう』と決めたんだ」(ヴィンゲゴー)

自身初となるブエルタ総合優勝を事実上確定させたヴィンゲゴー

自身初となるブエルタ総合優勝を事実上確定させたヴィンゲゴー

あとは、ただ1度、大きく加速するだけで十分だった。残り1.2km、最大勾配20%に至る右カーブを利用して一気に距離を開くと、マイヨ・ロホは栄光へと飛び立った。

すでにさんざん力を尽くしてきたライバルたちに、もはや追いすがる脚は残っていなかった。逆にUAEとレッドブルがせっせと作業に勤しんでくれたおかげで、ヴィンゲゴーはアシストを疲弊させることなく、常に数的優位を保ってきた。勝負に出た瞬間にも、2年前のブエルタ覇者セップ・クスが、ヴィスマが誇る優勝請負人としてそこにいた。ヴィンゲゴーが遠ざかっていく背後で、アルメイダとヒンドレーの間で、クスは「スピードを削ぐ」ためにうまく立ち回った。

ヴィンゲゴー、赤いジャージで咆哮。初のブエルタ制覇へ

「ラスト100mは信じられないほど厳しくて、フェンスに突っ込みそうになったほどだった」(ヴィンゲゴー)

約3週間前に、今大会最初の山頂フィニッシュを少集団スプリントで制したヴィンゲゴーは、観客の立ち入りが禁じられた最後の山頂フィニッシュへ、孤独に突き進んだ。山頂では最愛の妻と子どもたちを想いながら、右手の薬指にたっぷりとキスをして、それから勝利の雄叫びを上げた。

ヴィンゲゴーが1つのグランツールで区間3勝目を挙げるのは、自身初の快挙であり、マイヨ・ロホ姿でつかんだ、記念すべき初めてのステージ勝利でもあった。

最後までヴィンゲゴーを献身的にサポートしたセップ・クス

最後までヴィンゲゴーを献身的にサポートしたセップ・クス

区間2位には11秒遅れでクスが滑り込み、ヴィスマがワンツーフィニッシュを決めた。ヒンドレーは13秒遅れの3位。「限界を越えてしまわぬよう、自己をコントロールし続けた」というピドコックは、そのわずか5秒後にフィニッシュラインに飛び込んだ。結果として、五輪2連覇のマウンテンバイクチャンピオンは、30秒差で総合3位の座を守りきった。

アルメイダはヴィンゲゴーから22秒遅れで走り終えた。本人は「後悔など一切ない」と胸を張り、UAEのチームマネージャーは「アルメイダは新しい次元に突入した」と健闘を褒め称えた。

つまりボーナスタイム10秒を加えたヴィンゲゴーは、アルメイダとの総合差を1分16秒に開いた。過去2度のブエルタ(2020年、2023年)では、2度ともにチームメイトの総合優勝を支えてきたが、ついに3度目の正直。ツール・ド・フランス総合2勝の王者が、翌日のマドリード入りを前に、生まれて初めてのブエルタ総合制覇に王手をかけた。

「明日もこのまま変わりなく、今の状態を保ちたい。そして、赤いジャージ姿で、フィニッシュラインを越えたいと願っている」(ヴィンゲゴー)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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