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フィリプセンが3度目のスプリント制覇!首位ヴィンゲゴーがボーナス4秒を獲得し最終決戦へ |ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第19ステージ
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸十八番のスプリントで今大会3勝目を挙げたフィリプセン
第80回ブエルタ・ア・エスパーニャは9月12日、ルエダ 〜 ギフエロ間の161.9kmで第19ステージが行われ、アルペシン・ドゥクーニンクのヤスペル・フィリプセン(ベルギー)がゴールスプリント勝負を制して、今大会3勝目、大会通算6勝目を挙げた。首位ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、チーム ヴィスマ・リースアバイク)は中間スプリントポイントを2着で通過してボーナスタイム4秒を獲得。総合2位ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ・XRG)との差を40秒から44秒に広げ、最後の山岳となる第20ステージに挑む。
ワインから生ハムへ。美食の平坦ステージを走る
最終山岳ステージの前哨戦となる平坦ステージ。スプリンターにとっては最後から2番目のチャンスとなり、ゴールラインに大集団のままなだれ込んでスプリントを確実にものにするためにチームのサポート役を奮い立たせる必要がある。一方で残された勝利の数は少なく、逃げ切りを狙って仕掛けるアタッカーもいる。第1集団の人数が多ければスプリンターを擁するチームは全力で追いかけなければならない。
第19ステージは首都マドリードまでもうすぐ、「美食」のステージだ。ルエダのブドウ畑で戦いが開始される。ルエダ原産地呼称ワインは、フレッシュでフルーティーな風味で知られている。主にベルデホ種のブドウから造られ、ハーブのニュアンスとほのかな苦味が特徴。この独特なテイストは、この地域の気候によるもので、ワインのアロマを凝縮させ、爽やかな酸味を際立たせているという。
山岳が一切無いピュアスプリンター向けの第19ステージ
ゴールのギフエロはスペイン語で「ハモン」と呼ばれるハムの産地。標高1000mを超える高地に位置する原産地呼称保護地域であるギフエロは、その冷涼な気候が特徴。ハムの熟成にはゆっくりとした特別なプロセスが適していて、この特性により塩分の使用量が抑えられ、非常にマイルドで独特なスペイン産ハモンが生まれるという。
この日は第1、第8ステージに続く平坦路だ。これまで行われたその2区間ではフィリプセンが優勝している。第19ステージに山岳ポイントはないが、それでも獲得標高は1117mもあり、一般のサイクリング愛好家ならかなり体力を消耗するはずだ。そしてこの地域の谷間では風が強いことが多く、レースの流れを変える可能性があることを各チームは警戒している。
この日の逃げは1人だった。今大会を通じての常連アタッカーとなっているカハルラル・セグロスRGAのヤコブ・オトルバ(チェコ)が0km地点でレース開始の旗が振られると単独で先行した。アルケア・B&Bホテルズのヴィクトール・ゲルナレック(フランス)が合流するが、途中で後退してしまう。ゴールまでまだ145kmもあるが、オトルバが単独で先頭に立つ。
これに対して、フィリプセン率いるアルペシン・ドゥクーニンクとエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)を擁するロットが集団を牽引する役割を担う。40km地点でその差は最大4分に達する。
0km地点から果敢にアタックしたオトルバ
中間ポイントでヴィンゲゴーがボーナスタイム獲得
オトルバは103km地点のサラマンカに設定された中間スプリントポイントをトップで通過したが、集団との差は1分に縮まっていた。首位のマイヨ・ロホを着用するヴィンゲゴーがここでスプリントに出てメイン集団のトップ、オトルバに続く2位で通過し、ボーナスタイム4秒を獲得。アルメイダとの差はこの時点で44秒に広がった。
横風によって走りにくい状況が続くが、メイン集団は残り52kmでオトルバを吸収。ブルゴス・ブルペレットBHのマリオ・アパリシオ(スペイン)とセルヒオ・チュミル(グアテマラ)がアタックをかけるが、アルペシン・ドゥクーニンクとチーム ヴィスマ・リースアバイクに牽引された集団がペースアップして、ゴールまで35kmの地点で2人は吸収された。
最後は予想通りに大集団によるスプリント勝負となった。前日の個人タイムトライアルで優勝したイネオス・グレナディアーズのフィリッポ・ガンナ(イタリア)が、第4ステージのゴール勝負で勝っているベン・ターナー(英国)を最後の1kmで牽引する。アルペシン・ドゥクーニンクがそのイネオス・グレナディアーズ隊列を追い抜く。エドワルト・プランカールト(ベルギー)がチームエースのフィリプセンを完璧な位置に送り込み、フィリプセンが勝利した。
今大会は4つの集団スプリント勝負があったが、山岳コースの第4ステージでターナーが勝った以外はフィリプセンが3勝。フィリプセンはその第4ステージでも2着に食い込んでいる。2020年にブエルタ・ア・エスパーニャ初参戦し、1勝を挙げているフィリプセン。2021年にさらに2勝。今回は3度目の参戦となり、3勝したことになる。
「11日間もここまで追い込めていなかったので、本当に厳しいフィニッシュラインだった。フィナーレは上り坂で、最後の250mは少し平坦になるという展開は分かっていた。チームが素晴らしいタイミングを計ってくれて、最後の1kmで全てが出し切れた。間違いなくチームの仕事だ」とフィリプセン。
「難しいスプリントだったので苦戦したが、フィニッシュラインが見えたので最後が突き抜けることができた。本当に素晴らしい経験で、このチームで勝利の喜びをずっと持ち続けたいと思っている。チームメートは本当に経験豊富で、この仕事では最高の布陣だ。最終日となる日曜日にも同じように勝利を収めたい。タフな3週間だったので、本当に楽しみにしている」(フィリプセン)
フィリプセンはチームの完璧なお膳立てを勝利に繋げてみせた
ライバルスプリンターのマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)は同タイムの2位。それでもポイント賞争いでさらに得点を積み重ね、同賞2位のヴィンゲゴーに100ポイントの差をつけ、グリーンジャージ獲得をほぼ確実にした。残り2ステージで獲得できる最大ポイントは110点だ。
「いや、特に驚きはしなかったよ。ヴィンゲゴーが中間スプリントを走ったことには。そうなることは分かっていたし、話し合ったんだ。あのスプリントには確かに意味があったし、今の僕がポイントを必要としている以上に、ヴィンゲゴーの方が秒数を必要としている。だから、中間スプリントで彼と競り合うことは僕にとってあまり意味がなかった」とピーダスン。
「最後は上り坂が続く厳しいゴールスプリントだったので、こうなることはある程度予想していた。もちろん勝てなかったのは残念だけど、ヤスパー(フィリプセン)と彼のチームは完璧なリードアウトを見せつけた。今日は僕たちより優れた選手たちに負けてしまった」(ピーダスン)
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「中間スプリントはアドリブだった」(ヴィンゲゴー)
ヴィンゲゴーは中間スプリントポイントを取りに行き、ここで4秒のボーナスを獲得。最後は総合成績のライバル選手たちとタイム差なしの集団の中でゴール。最終決戦のボラ・デル・ムンドでの厳しい対決を前に、総合成績でアルメイダとのリードを40秒から44秒に広げた。
「いい位置にいたので、中間スプリントに挑戦した。あれはアドリブだった。前にいるのが分かったので、やってみよう!と思ったんだ。4秒も縮められたなら、それだけの価値はあった。大差ではないけど、それでもトップを走っているので満足している」とヴィンゲゴー。
「楽な集団スプリントのステージだと思っていたが、精神的にそれ以上に厳しい1日だった。エシュロン(集団分断)ではなく、横風と緊張感にさいなまれ、最後の2時間半は精神的にかなりキツかった。比較的楽な時間帯に仕事をこなし、よりパワーを発揮できる大柄な選手たちを終盤まで温存し、明日、つまりマイヨ・ロホ獲得の最後のチャンスに向けて、自分の力を温存した」とUAEチームエミレーツ・XRGのジェイ・ヴァイン(オーストラリア)。
44秒差で首位のヴィンゲゴー。2025年のブエルタもいよいよ最終局面を迎える
「このレースの目的は、ジョアン・アルメイダとともにマイヨ・ロホを目指すこと。他の数チームも明日を厳しいレースにして総合順位を守りたいと考えていることは周知の事実」(ヴァイン)
ヤング・ライダー賞のジュリオ・ペリツァーリ(イタリア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)は「ここまで本当に素晴らしいブエルタ・ア・エスパーニャだった。チームメートととても楽しんでいる。今日はストレスの多い1日となったが、明日はいよいよ最後の山岳ステージ。チームとして戦うのが待ちきれない。今日は風が強くて、最後の30kmは誰もが先頭に立ちたいと思っていなかった。結局なにも起こらず、脚力も十分だったので、明日に向けて満足しているし、モチベーションも高くなっている。目標は明確。ジャイ(ヒンドレー)と一緒に表彰台に立ちたい。全力を尽くす。ボクは表彰台に立つには遠すぎるが、ジャイは本当に近いので頑張りたい」と語った。
最終日前日となる13日に行われる第20ステージ。ロブレド・デ・チャベラ〜ボラ・デル・ムンド プエルト・デ・ナバセラダ間の165.6kmで雌雄を決する難関山岳だ。総合1位はヴィンゲゴー。44秒遅れの2位アルメイダ。2分43秒遅れの3位トーマス・ピドコック(英国、Q36.5プロサイクリング チーム)、3分22秒遅れの4位ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)。ヤング・ライダー賞で争うジュリオ・ペリツァーリ(イタリア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)とマシュー・リッチテッロ(米国、イスラエル・プレミアテック)は58秒差。
運命の第20ステージでいよいよ今大会の決着が図られようとしている。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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