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ベルナルが急きょ距離短縮のレースを制す!ヴィンゲゴーら総合トップ4は変わらず|ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第16ステージ
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸事故を乗り越え、初のブエルタステージ勝利を飾ったベルナル
第80回ブエルタ・ア・エスパーニャは9月9日、ゴール地点の抗議活動により急きょ距離短縮の153.1kmとなった第16ステージが行われ、イネオス・グレナディアーズのエガン・ベルナル(コロンビア)がスーダル・クイックステップのミケル・ランダ(スペイン)をスプリント勝負で制して大会初優勝を飾った。最後の山岳がカットされたためメイン集団は首位ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、チーム ヴィスマ・リースアバイク)、48秒遅れの総合2位ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ・XRG)らが5分52秒遅れでゴールし、総合成績の上位4選手は変わらなかった。
第11ステージのビルバオに続いて2度目のコース短縮を余儀なくされる
いよいよ第3週、最後の6ステージが始まった。当初はポイオからモス・カストロ・デ・エルビリェまでの167.9kmで開催されるはずだったが、親パレスチナ活動家の抗議行動によりゴール地点の安全が確保できないとして、主催者はレース途中に無線により「ゴール地点を8km手前に移動する」と伝えた。
155選手がガリシア地方を舞台とする、起伏に富むコース向けてスタートした。4つの山岳ポイントがあり、獲得標高は約3500mあるはずだった。結局レースは最後のモス・カストロ・デ・エルビリェの距離8.2kmがほぼカットされたことになり、カテゴリー2級、平均勾配値5.2%の上りがレース途中でなくなった。一部の選手は最後の上りで勝負を仕掛けたいと思いながらレースを進めていたはずで、そういった意味ではなんともいえない結末となった。
ここまでステージ勝利のないアタッカーにとってはチャンスの1日でもある。翌日も山岳コースで、翌々日は個人タイムトライアル。総合成績の上位を争う選手とそのチームは無駄に動きたくない状況でもある。総合優勝に届かない選手らが第1集団を形成したら、ゴールまで逃してくれる可能性は高い。
そんな心理作戦を利用した逃げ切り争いが繰り広げられる。激しいアタックとカウンターアタックの後、リドル・トレックのアンドレア・バジオーリ(イタリア)、イネオス・グレナディアーズのボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)、バーレーン・ヴィクトリアスのフィンレー・ピカリング(イギリス)、アルケア・B&Bホテルズのヴィクトール・ゲルナレック(フランス)が50km地点で先行した。
激しいアタック合戦の末に形成された第1集団
それに13選手が追いつく。UAEチームエミレーツ・XRGのマルク・ソレル(スペイン)、モビスター チームのジェフェルソン・セペダ(エクアドル)、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのニコ・デンツ(ドイツ)、スーダル・クイックステップのランダとマウリ・ファンセヴェナント(ベルギー)、イネオス・グレナディアーズのベルナル、EFエデュケーション・イージーポストのショーン・クイン(アメリカ)、グルパマ・FDJのクレマン・ブラズアフォンソ(フランス)とルディ・モラール(フランス)とブリユー・ロラン(フランス)、アルケア・B&Bホテルズのルイ・ルーラン(フランス)、チーム ピクニック・ポストNLのケヴィン・ヴェルマーク(アメリカ)、イスラエル・プレミアテックのジェイク・スチュワート(イギリス)。第1集団は17選手になった。
第1集団のメンバーが決まると、総合1位のマイヨ・ロホを持つチーム ヴィスマ・リースアバイクはペースを落とした。この日最初の山岳であるアルト・デ・サン・アントニーノに向かう途中でその差は4分に広がる。第1集団に加わったベルナルは有力選手だが、第14ステージで21分45秒も遅れて優勝争いから脱落している。
この日は体力温存に動いたヴィスマ
2つ目の山岳でステージ優勝を争うバトルが始まった。アルト・ド・グラバの山頂手前3kmでステージ優勝を目指すランダがライバルを引き離す。山頂手前でベルナルとブラズアフォンソがそのランダに追いつく。下り坂でルーランとデンツが追いつく。ソレルはピカリングとともに先頭を猛追するが、その差を詰めきれない。デンツとルーランは最後から2番目の山岳アルト・デ・プラドで脱落。
そして大会運営側はラジオ・ブエルタと呼ばれる車載無線で、抗議活動のためフィニッシュ地点を当初の到着地点より8km手前に設定することを伝えた。チームカーから各選手が耳に装着した無線でその情報は伝えられたはずだ。
ベルナルは前ステージでも逃げ集団に加わってステージ優勝を目指しているが、この日も終始積極的に先頭を走っていた。突然の変更でも冷静さを失わなかった。この日の戦術について、ベルナルは次のようにコメントした。
「今日は序盤から積極的に動こうと決めていた。ライバルたちがどこで仕掛けてくるかを予測し、チームと綿密に戦術を練っていた。仲間たちが集団のコントロールをしてくれていたので、自分は決定的な瞬間に全てを賭けることができた。ライバルたちも強かったけれど、今日は自分が一番いい走りができた。最終的に自分の得意とする登坂区間でアタックを仕掛け、集団を引き離すことができたのが勝因となった」
総合優勝争いから脱落したベルナル、この日も冷静さを失わなかった
急きょ設定されたゴールラインでもランダとの一騎打ちとなったスプリントを制した。プロ通算58勝目だが、ブエルタ・ア・エスパーニャでは初勝利。3番目を走っていたブラズアフォンソはパンクし、ルーランが3位でゴールした。
最後までベルナルとの勝負を演じたランダ
大きく遅れたメイン集団ではバーレーン・ヴィクトリアスが力強いペースメークを見せ、総合10位のトースタイン・トレーエン(ノルウェー)のポジションを守り抜いた。一方、3分30秒遅れの総合5位につけていたデカトロン・AG2Rラモンディアルのフェリックス・ガル(オーストリア)はメイン集団から54秒遅れ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのジュリオ・ペリツァーリ(イタリア)に抜かれて総合6位に落ちた。
コロンビアのナショナルチャンピオンであるベルナルは、2021年以来となるグランツールのステージ優勝だった。2022年に選手生命を脅かす事故に遭い、復帰して以来最大の成功となった勝利を収めた。第1集団の中にチームメートのユンゲルスがいてサポートを受けたこともベルナルの勝利につなかった。ユンゲルスは最終的に1分10秒遅れのステージ6位でゴールしている。
「往年のカフェ・ド・コロンビアデザイン風のナショナルチャンピオンジャージを着てこのブエルタ・ア・エスパーニャで勝つことはとても誇りに思う」とベルナル。その表情には安堵と誇りが浮かび、集まった観衆と世界中のファンに向けて大きく手を挙げた。その後、メディアのインタビューで今回の勝利に対する率直な感情を語った。
「今日のステージ優勝は私にとって特別な瞬間。これまでの困難を乗り越えてきたチームと、支えてくれたすべての人々に心から感謝したい」と語った。ブエルタ・ア・エスパーニャの厳しいコースと、連日の激しい戦いにおいて、チームメートとの連携がいかに重要だったかを強調した。
「このステージは非常にタフだった。最後まで力を出し切ることができたのは、チームのサポートがあったからこそ。僕一人ではこの結果を得ることはできなかった」と述べ、スタッフやメカニック、コーチ、そして家族への感謝を何度も口にした。
ツール・ド・フランス優勝も悪天候で短縮されたアルプスステージだった
総合トップ4は変わらず、マイヨ・ロホ堅守のヴィンゲゴー
すでにツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアを制しているベルナル。2019年のツール・ド・フランスで首位に立つことになる第19ステージも、悪天候により短縮されたステージだった。そして2022年1月に人生を変えるような事故に遭う。過去の故障や怪我から復帰するプロセスについてもベルナルはブエルタ・ア・エスパーニャ初勝利後に言及した。
「数年前の事故のあと、再びトップレベルで戦えるようになるとは思っていなかった。今日の勝利はリハビリを支えてくれた医療スタッフ、家族、そして自分自身の忍耐の証だ。再びレースで勝つ喜びを味わえたことは、本当に夢のよう」と語った。
レース中、精神的な支えとなったものについてベルナルは、「厳しいトレーニング期間や怪我からの復帰を乗り越える上で、一番のモチベーションは家族とファンの存在だった。苦しい時こそ、みんなの応援を思い出して頑張れた」と述べた。
レース復帰後の2025シーズン初めにコロンビア国内選手権で勝利。そして国際レースでの最初の勝利がこの日だった。
「私がレースを続けることに決めたのは、人々にインスピレーションを与えたかったからだ。困難があっても諦めないこと、そして前を向いて努力し続けることが、今日のような結果につながるのだと思う。この勝利が、困難に直面している全ての人へ勇気を与えるものであればうれしい」と意欲的に語った。
ベルナルは、勝利の喜びとともに今後への抱負も語っている。「今日の勝利は大きな自信となったが、まだ大会は終わっていない。次のステージでもベストを尽くし、総合争いでも存在感を示したい。自分自身も多くの人たちから力をもらってここまで来た。ブエルタ・ア・エスパーニャは独特の雰囲気がある。スペインのファンはとても熱狂的で、沿道からの声援は本当に力になる。彼らの情熱に応えるためにも、今後も全力でレースに臨み、高い目標に向かって挑戦し続けたい。これからも応援よろしくお願いします」と未来への意気込みを見せた。
文:山口 和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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