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アルメイダが最難関アングリル制覇!首位ヴィンゲゴーとの差は46秒に|ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第13ステージ
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸チームに今大会6勝目をもたらしたアルメイダ
第80回ブエルタ・ア・エスパーニャは9月5日、カベソン・デ・ラ・サル〜アングリル間の202.7kmで第13ステージが行われ、50秒遅れの総合2位につけていたUAEチームエミレーツ・XRGのジョアン・アルメイダ(ポルトガル)が、首位ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、チーム ヴィスマ・リースアバイク)とともにゴールして初優勝。アルメイダは1位のボーナスタイム10秒、ヴィンゲゴーは2位の6秒を獲得し、総合成績でその差は46秒とわずかに縮まった。
歴代の王者が制してきたアングリル
翌13ステージはいよいよ今大会で最も注目されるコースが舞台となった。距離202.7kmのルートはカンタブリア州のカベソン・デ・ラ・サルからスタートして前半戦は平坦路。153.6km地点にカテゴリー1級山岳のラ・モスケタがあり、181.6km地点にカテゴリー1級山岳のエル・コルダルがある。そして最後はアストゥリアス山頂の難関斜面、恐ろしいアングリルにゴールする。
アングリルはスペイン語の定冠詞・女性単数形のlaがついて、さらにアングリルが母音で始まることからl’となって「ラングリル」とカナ表記されることもあるが、通称として日本でもアングリルという地名で定着している。
アストゥリアス地方にあって、岩肌が露出した急峻な壁沿いを曲がりくねりながら進む登山道で、1997年に舗装されるまではヤギの道と呼ばれていた。狭くて急な道が舗装されたことによってようやくクルマやロードバイクが上れるようになり、1999年にブエルタ・ア・エスパーニャにコースとして導入された。以来、この登坂区間は9回使用され、2025年で10回目となる。
「自転車界のオリンポス」アングリルの山頂を目指す第13ステージ
想像を絶するレベルの急坂の誕生はスペインならではの法規制のユルさか。いずれにしてもブエルタ・ア・エスパーニャの名峰が登場したわけである。ちなみにゴールとなる地点には狭い駐車場があるだけで、ふだんは観光客がクルマを止めて記念写真を撮るだけの大自然のまっただ中だ。
麓から頂上までの全長は12.4km、平均勾配は9.7%。これだけを見るとツール・ド・フランスなどでよく登場する山岳だと思ってしまうが、山頂までの3kmほどの区間では勾配値が20%まで上昇し、一部は23%にも達する。最終ステージとなることが多い首都マドリードから遠く離れたスペイン最北部に位置するため、23日間の大会の第2週に組み込まれることが多いという特徴もある。
初代制覇者はスペインのホセマリア・ヒメネス。アングリルを2度制覇した唯一の選手はスペインのアルベルト・コンタドール。イタリアのジルベルト・シモーニや、大会最多勝利記録を持つロベルト・エラス(スペイン)とプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)もアングリルで勝っている。つまりこのアングリルで勝った選手こそブエルタ・ア・エスパーニャの王者にふさわしい存在であるとだれもが評価するのである。
この日も中間スプリント1着通過はピーダスン
161選手がカンタブリア州のカベソン・デ・ラ・サルの町を出発し、ラ・モスケタ山とコルダル山頂を越え、最終難関のアングリルに挑んだ。平均時速51km以上のスピードで最初の1時間を突っ走り、UAEチームエミレーツ・XRGのイヴォ・オリヴェイラ(ポルトガル)、リドル・トレックのマッズ・ピーダスン(デンマーク)、モビスター チームのジェフェルソン・セペダ(エクアドル)とミハエル・ヘスマン(ドイツ)、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのティム・ファンダイケ(オランダ)、スーダル・クイックステップのジャンマルコ・ガロフォリ(イタリア)、イネオス・グレナディアーズのボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)らが逃げた。
さらにアルペシン・ドゥクーニンクのエドワルト・プランカールト(ベルギー)、バーレーン・ヴィクトリアスのアントニオ・ティベーリ(イタリア)とロマン・エルマコフ(ロシア)、Q36.5プロサイクリング チームのニコラス・ズコウスキー(カナダ)とダビド・ゴンサレス(スペイン)、XDS・アスタナ チームのニコラス・ヴィノクロフ(カザフスタン)、グルパマ・FDJのクレマン・ブラズアフォンソ(フランス)とレミ・カヴァニャ(フランス)、カハルラル・セグロスRGAのギリェルモ・シルバ(ウルグアイ)とジョエル・ニコラウ(スペイン)、チーム ジェイコ・アルウラーのアナス・フォレーヤ(デンマーク)、アルケア・B&Bホテルズのレアンドル・ロズエ(フランス)とピエール・ティエリー(フランス)、アンテルマルシェ・ワンティのフープ・アルツ(オランダ)とカミル・ボヌー(ベルギー)、ロットのヨナス・グレゴー(デンマーク)、ブルゴス・ブルペレットBHのホセルイス・ファウラ(スペイン)、イスラエル・プレミアテックのイーサン・ヴァーノン(英国)が加わった。
順調にポイントを積み重ねるピーダスン
ラ・モスケタの麓で25人の逃げ集団とチーム ヴィスマ・リースアバイクが牽引するメイン集団との差は最大となる3分45秒。そこからQ36.5プロサイクリング チームがメイン集団の先頭に集まって主導権を握った。逃げた選手は総合成績で大きく遅れていたため、メイン集団は175km地点の中間スプリントポイントまで縮めようとしなかった。中間スプリントポイントではピーダスンがトップ通過してポイント賞の得点を加算した。
「中間スプリントでの1着通過は勝利とは呼べないけど、ポイントを獲得できたのはうれしい。ステージ優勝はもちろん、グリーンジャージ獲得も目指していることは明らかで、そのためにはほぼ毎日序盤からレースに参戦しなければならない」と作戦を明かしたピーダスン。
「ヨナス(ヴィンゲゴー)もグリーンジャージ獲得のチャンスは高く、ジョアン(アルメイダ)も同様なので、できる限りポイントを獲得しなければならない。4日前よりも差が開いたね。アングリルは長い上り坂なので、そんな激坂で優勝争いをしなくて済んだことがうれしい。のんびりと走ってゴールすることができた。たくさんのファンが見守ってくれて、本当によかった」と、中間スプリント地点後はお役御免となったピーダスンがゴール後に語っている。
アルメイダが先頭を譲らず今大会初勝利
レースはエル・コルダルでヴィノクロフ、ユンゲルス、セペダが第1集団から先行した。UAEチームエミレーツ・XRGがメイン集団の先頭に立ってそれを吸収しにかかる。アングリルの激坂に突入し、ユンゲルスが最後まで抵抗したが、残り5.5kmで捕らえられた。ここからアルメイダがペースアップしてメイン集団から先行。残り4.5kmでヴィンゲゴーと2人きりになった。アルメイダは常に先行し、マイヨ・ロホを着るヴィンゲゴーを前に出すことなくゴールを目指す。
最後の1kmは2人とも限界ギリギリだった。ヴィンゲゴーがいつアタックしてくるかをアルメイダは警戒し、フィニッシュ手前で追い抜かれないようにペースを持続する。アルメイダは2年前からアングリルのフィニッシュラインを知っていて、最終コーナーから追い抜くのは難しいと把握していた。そのためヴィンゲゴーを前に出さずに先頭を走り、そのままの位置でステージ勝利を獲得した。しかし総合成績ではその差は50秒から46秒になっただけだった。
この日の勝利でアルメイダは首位ヴィンゲゴーとの差を僅かだが縮めることに成功した
「特別な勝利で、まだ信じられない。チームメートのおかげだ。彼らは今日、鍵となる存在だった。信じられないほど素晴らしいステージになった」とアルメイダ。
「世界で最も難しい上り坂だと思った。クレイジーだ。もちろんブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝したいというモチベーションも高まっている。ヨナスに総合成績で追いつくにはまだ時間がかかりそうだ。彼は絶好調で、逆転は難しい課題だけど決してあきらめない」(アルメイダ)
UAEチームエミレーツ・XRGでアシスト役を務めた山岳王のジェイ・ヴァイン(オーストラリア)は次のように語った。
「開幕前からモチベーションは高かった。私の大きな目標の一つはグランツールで総合優勝者を輩出するチームの一員になること。ジョアン(アルメイダ)がツール・ド・フランスを完走できずにブエルタ・ア・エスパーニャに来たのを見て、彼が絶好調だと確信した。このタイプのステージは彼にとって得意分野。一日中ハードに走り、最後はパワーだけでフィニッシュする。彼の活躍に携われたことをとても誇りに思う。アングリルでの勝利は信じられないくらい素晴らしい。彼はたとえ絶好調でも、決して調子がいいとは言わない。最後から2番目の峠で少し早めにスタートを切るのは計画の一部だった。その後、テクニカルな下りがトリッキーだった。そして、アングリルの最も急な部分に向けて、彼に要求する限りのプレッシャーをかけた。個人的には、水玉模様の山岳賞ジャージを獲得できたら最高だが、最終的な目標はマイヨ・ロホ。ジョアンのために山岳で勝つことを忘れなければならないとしても、それは喜びでしかない」
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この日終わっての総合成績で、ヴィンゲゴーはアルメイダに46秒、Q36.5プロサイクリング チームのトーマス・ピドコック(英国)に2分18秒差で総合1位を維持した。ピドコックはこの日予想以上に苦しみ、1分16秒遅れの区間7位。レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)が28秒遅れの区間3位。ボーナスタイムも4秒獲得し、総合成績で3分00秒遅れの4位に浮上してきた。
「今日は勝ちたかったので、チャンスを得るために全力を尽くした。でも正直に言うと、ジョアン(アルメイダ)が勝利に値したと思う。彼は本当に強かった。私もできることを全てやり尽くした。彼の走りは勝利に値するが、もちろんここで勝てなかったのは少し残念」とヴィンゲゴー。
「残り2つ前の峠で、彼のチームが先頭を走ってくれて本当によかったので、自分も勝ちにいきたいと思っていた。私のチームも1日中プッシュしてくれて、本当によかった。でもチームメートと家族のためにも今日は勝ちたかった。アングリルは特別な上りで、誰もがここで勝ちたいと願うはずだから」(ヴィンゲゴー)
レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのジュリオ・ペリツァーリ(イタリア)は新人賞2位につけるイスラエル・プレミアテックのマシュー・リッチテッロ(米国)とバトルし、純白のジャージを守り抜いた。
直接のライバル、リッチテッロとの差を広げた新人賞首位のペリツァーリ
「初めてのアングリルで、予想以上に難しかったけど、全力を尽くした。私にとってもいい1日になったし、総合順位で表彰台に迫っているジャイ(ヒンドレー)にとってもいい1日だった。私は安定したペースで走れる。最後の3~4kmでリッチテッロに追いつき、彼を引き離すために全力を尽くしたが、なかなか厳しい結果に。でも満足している。明日は脚の状態を見たい。ホワイトジャージは私とチームの目標」
9月6日の第14ステージ、アビレス〜ラ・ファラポナ ラゴス・デ・ソミエド間の135.9kmもこの日に負けないほどの山岳コース。アングリルで脚を使い果たしてしまった選手にとっては地獄になる。2連続ステージをどう乗り切るかで総合優勝の行方が決まってくるかもしれない。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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