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サイクル ロードレース コラム 2025年9月4日

ヴィスマがレースを制御するも無念の中断。ヴィンゲゴーは果敢な走りで総合リードを広げる|ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第11ステージ

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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選手らの奮闘もむなしく勝者なきまま終了した第11ステージ

選手らの奮闘もむなしく勝者なきまま終了した第11ステージ

勝者なき幕切れ。フィニッシュエリアに親パレスチナ派のデモ隊が大量に詰めかけ、収拾不能な状況が予想されたため、開催委員会は2025年ブエルタ・ア・エスパーニャ第11ステージを中断した。残り3km地点でタイムだけが計測された。ステージ優勝をかけた争いは、行われなかった。

すでに数日前から事故は繰り返されていた。第5ステージのチームタイムトライアルでは、デモ隊がイスラエル・プレミアテックの通過を妨害し、数人の選手が地面に足をついた。前日の第10ステージ中には、コース内に入り込んだデモ隊の影響で、アンテルマルシェ・ワンティ所属のシモーネ・ペティッリが落車している。

第11ステージの前にCPA(プロサイクリスト協会)が声明を発表し、「ブエルタ・ア・エスパーニャの選手たちを危険にさらした行為に対し、深い懸念と断固たる非難を表明」するとともに、「すべての関係者に対し、最大限の警戒を払い、このような行為が二度と起こらないよう」協力を求めたばかりだった。しかし、この日、パレード走行中にも、安全確保のためにプロトンは一時停止を余儀なくされていた。レース中断が決定される直前の残り27km地点では、横断幕を潜って進まざるを得ない選手さえいた。

ピーダスンが火をつけ、ヴィスマが消して回る

まるでワンデークラシックのようなコース設定に、多くの選手たちが野心をかき立てられ、欧州屈指の自転車人気を誇るバスクの沿道では、無数の観客が、プロトンの通過を楽しみに待っていた。

スタート直後から飛び出すピーダスン

スタート直後から飛び出すピーダスン

緑ジャージをまとうマッズ・ピーダスンが、真っ先に奮闘を見せた。「必ずしも得意なコースではないけれど、トライしてみる」との宣言通り、スタート直後に猛然と飛び出した。20km近くぎりぎりの奮闘を続け――まずは2人で、その後は1人で――、いったんはメイン集団に捕らえられたものの、すぐさま再び前へと突進した。

この時はマルク・ソレルとオールイス・アウラールが合流し、しばらくは3人で先を急いだ。40kmほど粘った先でようやくタイム差は1分半にまで広がったが、チーム ヴィスマ・リースアバイクが睨みを利かせるプロトンを、決定的に突き放すことは不可能だった。

ピーダスンや逃げトリオの背後では、五月雨のように無数の試みが巻き起こったが、ヴィスマが一つずつ執拗に握り潰した。今大会すでに区間を制したフアン・アユソは、何度加速を切っても、逃げを許されなかった。また1人が後を追い、2人が後を追い、3人目までくると……必ずと言っていいほどヴィスマの黄色いジャージが後輪に張り付き、ライバルたちのやる気をことごとく削いでまわったのだった。

ヴィスマによる徹底封鎖、すべての逃げは潰された

全部で7つ組み込まれた山岳のうち、4つ目に差し掛かると、今度はソレルが単独先行に切り替えた。3年前には、同じビルバオフィニッシュのステージを、15kmの独走で制している。残念ながら、今回フィニッシュまで80kmを残して始めた一人旅は、20km先で終止符が打たれた。背後から合流を試みた選手もすべて、ヴィスマのヴィクトル・カンペナールツに後方へと引きずりおろされた。

続く2級山岳ビベロの急勾配では、地元バスクの大ベテラン、ミケル・ランダが単独アタックに転じた。つい先ほども飛び出したサンティアゴ・ブイトラゴが、絶好機とばかり後に続いた。ヴィスマもこの2人のクライマーは泳がせた。

常にレースをコントロールし続けたヴィスマ

常にレースをコントロールし続けたヴィスマ

ただ、この2人を、4選手が追う形になると、またしてもカンペナールツが妨害工作を開始。メインプロトンの前方に7人が走っている状態を察知したピーダスンが、まるでロケットのように飛び出してきたおかげで、この追走集団は予想よりほんの少し長く生きながらえることになるのだけれど。

実は大会4日目以降ポイント賞首位を守り続けているピーダスンだが、前日の終了時点で、ヨナス・ヴィンゲゴーに15ポイント差にまで迫られていた。しかもヴィスマが並々ならぬ意欲を示す今ステージで、もしも現マイヨ・ロホに区間優勝をさらわれた場合、一気に30ポイントを上乗せされてしまう。だからこそ山を下り切った先の中間スプリントで、ピーダスンは少しでもポイントを積み上げておきたかった。本日3度目の逃げでも、合流した先で、まるで力を出し惜しみしなかった。前を行くコンビには追いつけなかったものの、追走集団内でトップ通過を果たし、3位15ポイントをきっちり獲得した。

目的を果たしたピーダスンらの奮闘は静かに終わりを告げ、残す逃げはランダ&ブイトラゴだけとなった。ところが不運にもランダは、突然、体調の異変を訴え減速。そして、1人で前に残されたブイトラゴも、残り25km、2度目のビベロ登坂の半ばで、いよいよ勃発した総合エースたちのアタック合戦の波に飲み込まれて行くのだった。

あらゆる努力も、あらゆる想いも、無に帰した

レッドブル・ボーラ・ハンスグローエは、全員で隊列を引いていたヴィスマから、2度目のビベロで主導権をむしり取った。総合トップ10に2人が名を連ねる唯一のチームは、厳しいテンポを刻み、メイン集団を小さく絞り込んでいく。

真っ先にアタックを打ったのは、UAEチームエミレーツ・XRGジョアン・アルメイダだった。前日もチームメイトの献身に応えるかのように、幾度も加速を試みた総合3位は、この日も急坂で2度、攻撃に転じた。

スタート直後からあらゆる謀反をことごとく封じ込めてきたヴィスマは、ここでも完璧にライバルの企てを退けた。赤いジャージのヴィンゲゴーは一瞬たりとも敵に隙を見せず、ひとたび加速の波が落ち着くと、アシストたちは揃って集団先頭に戻ってきた。ビベロの下りに入っても、いまだヴィスマは5人を残していた。数的な圧倒は揺るがなかった。

……その下りの途中だった。上述のステージ中断の決定が告げられた。ステージ優勝を目指して1日中コントロールを続けてきたヴィスマの努力は、すべて無に帰した。その後はひたすら淡々とテンポを刻むに留まった。他チームも攻撃を控えた。静かに最終山岳ピケへと差し掛かった。本来であれば巻き起こったであろうポジション争いをすることもなく。

峠の下りで突然のステージ中断、悔しさをにじませるヴィンゲゴー

峠の下りで突然のステージ中断、悔しさをにじませるヴィンゲゴー

「今日は息子の1歳の誕生日だったから、彼のためにステージを勝ちたかった。1日中チーム一丸となって働いてきたのに、そのチャンスが不意になったのは、本当に残念だ」(ヴィンゲゴー)

ステージ優勝(順位)の争いが中止され、自ずとフィニッシュラインで発生するはずのボーナスタイムとポイントは消滅したが――つまりピーダスンにとってはヴィンゲゴーにポイントを獲られる機会が1回減ったことになる――、ピケの山頂にかけられたボーナスタイム(6秒、4秒、2秒)は変わらず存在した。だからこそ、総合を巡る争いは、最後まで気を抜いてはならなかった。

消化不良の結末、それでも総合争いは動いた

ピケの最終盤でトーマス・ピドコックが打ったアタックは、強いフラストレーションの表れに違いなかった。キャリアを通しての目標である「グランツール総合表彰台」が実現できそうな手応えを感じつつも、自分の脚質に相応しいこのステージだけは、積極的に優勝を取りに行くつもりだった。

「僕がどれほど失望したのか、言葉で言い表すことはできない。今日は僕の日。そう感じていた。心底がっかりしている……」(ピドコック)

山頂手前700m、勾配が15%にも達する激坂パートで、ピドコックは全力を振り絞った。苛立ちをぶつけるように、何度も何度も、ペダルを踏み込んだ。後輪に留まれたのは、もはやヴィンゲゴーしかいなかった。そのヴィンゲゴーさえも、山頂間際で、ついには距離をあけられてしまった!

山頂で6秒のボーナスタイムをむしり取ったピドコックは、下りでもスピードを緩めなかった。ヴィンゲゴーも2位4秒を手にすると、マウンテンバイク世界&五輪王者に追いつき、共に「残り3km」を目指した。そして、残り距離を示すアーチもなにもない道を猛進している最中に、気が付かぬまま3kmのラインを越えた。終わってみれば、アルメイダ(ボーナス2秒収集)には10秒差をつけていた。

「新たなフィニッシュラインが残り3kmの地点だということは分かっていたけど、どこが3kmのラインなのかまったく分からなかった。ヨナスとの下りに、あまりにも集中していたから……」(ピドコック)

グランツールで自身初の総合トップ3入りのピドコック

グランツールで自身初の総合トップ3入りのピドコック

ひどく後味が悪かった。全力疾走を突如として打ち切られたピドコックは、たった1人で、デモ隊と警官隊とが睨み合うフィニッシュラインまで走り続けた。他の選手たちは、迂回路を通り、チームバス駐車場へと直接帰った。突然すぎる終わりであり、ぼんやりとしたフェードアウトでもあった。

ステージ順位はつかなかったが、タイム差は生まれた。ヴィンゲゴーはアルメイダに12秒を押し付け、総合では38秒差から50秒差へとリードを広げた。ただトースタイン・トレーエンがタイムを失い総合4位に後退したことで、アルメイダは2位へと順位を上げた。消化できない悔しさを抱えるピドコックも、人生で初めて、グランツールの総合表彰台圏内に浮上している。

文:宮本 あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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