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ジェイ・ヴァイン、区間2勝目で歓喜の咆哮!ヴィンゲゴーは3度目のマイヨ・ロホ奪還|ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第10ステージ
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかジェイ・ヴァインが再び山頂フィニッシュで区間2勝目を達成
逃げの、逃げの、そのまた逃げ。幾重ものセレクションを勝ち抜いたジェイ・ヴァインが、休息日明けの山頂フィニッシュで、区間2勝目の雄叫びを上げた。休息日前日には極めてアグレッシブに勝利を獲りに行ったヨナス・ヴィンゲゴーは、この日は、最大のライバルであるUAEチームエミレーツ・XRGの猛攻を危なげなく受け流した。2度失ったマイヨ・ロホを、三たび取り戻した。
「勝つというのは、すごく、すごく、難しいこと。それを成し遂げられた時には本当に信じられないような気持ちになる。僕がこれに慣れてしまうことはないと思う。勝つことに慣れてしまうなんてあり得ない。だって信じられないほどに難しいことなんだから」(ヴァイン)
アタック合戦はいつ終わるとも知れず
休息日明け、第10ステージのプロトンは超ハイペースとなった
一瞬も気を緩める余裕はなかった。休息日明けのプロトンは、文字通り全速力で走り始めた。序盤2時間にわたり、平均時速49.6kmという超高速のアタック合戦を繰り返し、100km以上も走った先でようやく、大きな逃げの一団が出来上がった。
ヴァインも予定通り逃げ出した。ただ、いつまでたっても決まらずに、一度は諦めかけたという。開始1時間半で前方へと躍り出るも、10kmほど粘った末にあえなくメイン集団に引きずりおろされた。その時ヴァインがつけた「20秒差」は、その後も長らく、このステージ最大のタイム差であり続けた。
絶え間なくアタックがかかり、プロトンはコントロール不能に陥っていた。なんということもない小さな起伏を越えるたびに、集団後方では脱落者が生まれた。集団落車も発生した。デモ隊にヒヤリとさせられることもあった。
皮肉にも、デモ隊の間をすり抜けるように突進した数人が、力尽きたタイミングだった。入れ替わるように、大きな塊が飛び出した。下り基調の平地で、しかも急速にプロトンとの距離を広げていく。危うく流れを逃しかけたヴァインは、チームメイトのミッケル・ビョーグの力を借りて、合流を成功させた。
「たしか2時間くらいたった頃、無線でこう伝えたんだ。『みんな、これは無理だ。明日のために安全に行こう』って。落車の後方で足止めも食らったし、そこからの45分はずっと戦いっぱなしだった。そしてミッケルが橋渡しをしてくれた。最後の上りにたどり着くまでは、これが今日のレースで一番キツイ部分だと思っていた」(ヴァイン)
逃げに乗ったのは、選ばれし30人。出場23チーム中16チームが前に出揃った。フィニッシュはすでに75km先に迫っていた。
独走力が逃げを選別していく
そもそも大きすぎるがゆえに、逃げはまとまりを欠いた。しかも背後のメイン集団では、トースタイン・トレーエンのマイヨ・ロホを守ろうと、バーレーン・ヴィクトリアスがチーム一丸となり厳しいコントロールを行っていた。思うようにタイム差は広がらなかった。
そんな中、大胆に動いたのは、最多3人が滑り込んだモビスター チームだった。今ステージは、スペイン唯一のワールドチームが本拠地を構える、ナバーラ州が舞台なのだ。残り52km、3級山岳コロナスに差し掛かると、ハビエル・ロモが単独で先を急ぎ始めた。この1月のダウンアンダー2日目に、約5kmの独走でプロ初勝利を飾った26歳だ。
慌てて追いかけることはしなかったものの、U23時代に世界選個人タイムトライアル3連覇を成し遂げたビョーグが、黙々と厳しいテンポを刻んだ。そして山頂まで1kmに迫ると、山岳ジャージ姿のヴァイン本人が、満を持してスピードを上げた。さすがに30秒差を一気に詰めることはできず、山頂は2位通過。2ポイントの回収に留まった。その後の下りで、悠々とロモを捕らえた。
残り20kmから独走を試みた22歳のアレック・セガールト
しばらく先で数人が追いついてきた。さらにはアレック・セガールトが、ジュニアからU23を通して欧州選個人TT4連覇中の驚異的な走行能力で、素早く単独ブリッジ。いつしか最初の逃げ集団から、より厳選された10人の逃げが出来上がる。
今度はセガールトが先行作戦を選んだ。残り20kmで大胆な独走へと打って出た。来季のバーレーン加入が決まっている22歳は、他の9人に45秒差をつけて、残り9.4km、1級山岳ベラガへと上り始めた。
ブラフからの一撃、ヴァインが最後の1人になる
誰もがヴァインを警戒していた。第6ステージに21kmもの独走でアンドラの山頂を制したルーラー・クライマーの、恐るべき加速装置を発動させまいと、周りは後輪に張り付き、厳重な監視体制を敷いた。
各チームにマークされたヴァイン
唯一、パブロ・カストリーリョだけは、むしろ自分から仕掛ける方を好んだ。昨大会で2ステージを勝ち取った――1勝目は10kmの独走――24歳のピュアクライマーは、すぐにセガールトも捕らえ、残り9.5km、単独先頭に立った。しかもヴァインは、ベテランのジュリアン・ベルナールと睨み合い、ペースを落としているうちに、アーチー・ライアンにも先に行かれてしまう。……ただ、これは、どうやら計算づくだった!
「上りでみんなを連れて行きたくなかったんだ。だから麓で少し『たぬき寝入り』をして、それから僕のやり方で、他の選手たちへの攻撃に転じた」(ヴァイン)
最も勾配の厳しいゾーンを待って、ヴァインは一気にペースを上げた。先頭を行くカストリーリョは楽々とらえた。そのままスピードは落とさなかった。何度も後方を確認する羽目にはなった。独特の苦しげなフォームで、しかし粘り強く、ライバルが後輪に張り付いていたからだ。最後はサドルから腰を上げると、ヴァインは立ち漕ぎで大きく加速を切った。残り5.2km、ついに逃げの最後の1人となった。
「最後のヘアピンカーブで、パブロを振り落とすことができた。そこからは、歯を食いしばって、最後まで走り続けた」(ヴァイン)
3年前のブエルタでも、嬉しい初勝利の2日後に2勝目を立て続けに手にしたが、今回は休息日を挟んで4日後のステージ2勝目。また山岳ポイントをこの日だけで12pt積み重ね、2年連続の山岳ジャージ獲得へ向け、着実に前進した。もちろん所属チームのUAEにとっては、区間4勝目。チーム総合首位の座も危なげなく守った。
UAEは一枚岩をアピール、ヴィスマは盤石
前日の休息日に、レース外で少々ざわついたUAE――ジョアン・アルメイダがフアン・アユソに対する不満を爆発させ、一方で今季限りでの契約解消が予定より2週間も早く発表され、アユソはチームを『独裁政権』と批判etc――ではあったが、前方ではヴァインが勝利を挙げ、後方ではチームメイトの連帯感を披露した。
最終山岳に突入すると同時に、メイン集団の主導権をバーレーンから奪い取ると、まずは第7ステージ覇者アユソが凄まじい牽引を見せた。すでに逃げでたっぷりヴァインのために働いたビョーグも、仲間たちの合流を待ち、最後の力を振り絞った。瞬く間に集団を小さく削った。必死にしがみついたトレーエンの、マイヨ・ロホ保守の望みも、残り7km前後で完全に打ち砕いた。
ラスト6km、いよいよアルメイダが、自ら突進する番だった。総合エースの誇りにかけて、何度も加速を強いた。ヴィンゲゴーとマッテオ・ジョーゲンソンを残すヴィスマ・リース ア バイクが、数的有利を用いて状況制御を試みようとも、残り5km、改めてアルメイは攻撃姿勢を示した。
「調子は良かったし、僕には失うものは何もなかった。持てるすべてを尽くした。ただ山道はそれほど険しくなかったから、差をつけるには十分ではなかった。だから最後は他の選手とともにフィニッシュラインを目指すことにした」(アルメイダ)
総合上位の強豪エースたち……ヴィンゲゴー、アルメイダ、トーマス・ピドコック、ジュリオ・チッコーネ、ジョーゲンソン、ジャイ・ヒンドレー、ジュリオ・ペリツァーリ、マシュー・リッチテッロは、揃って1分05秒遅れで山頂へ到着した。フィニッシュラインへ向けたスプリントも巻き起こったが、ぎりぎり直前に上位3人目がステージを終えていたため、もはやボーナスタイムは残っていなかった。
UAEの猛攻をかわし、3度目のマイヨ・ロホ奪還に成功したヴィンゲゴー
つまりヴィンゲゴーとアルメイダのタイム差は、38秒のまま動かなかった。ただトレーエンが1つ順位を下げ、2人の間に挟まったことで、結果的にヴィンゲゴーがマイヨ・ロホに返り咲いた。第2ステージで赤を勝ち取り、第4ステージの終わりに手放し、再び第5ステージでもぎ取るも、翌日すぐに譲り渡し……。暫定的なジャージにはここまでこだわらずにきたヴィンゲゴーだが、大会も2週目に入り、「守り」を意識したコメントを残している。
「またしてもレッドジャージを取り戻せて、最高に嬉しい。自転車界でも指折りの美しいジャージだから、着られることが本当に嬉しい。願わくば、今度は、マドリードまで守りたい」(ヴィンゲゴー)
文:宮本 あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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