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サイクル ロードレース コラム 2025年9月3日

【輪生相談】他のスポーツでは、連覇やグランドスラムといった偉業は称賛され、その記録や数字が競技全体を盛り上げる要素になりますが、ロードレースではなぜか批判的に捉えられることがあるのはなぜなのでしょうか?

輪生相談 by 栗村 修
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こんにちは、栗村さん。私はスポーツ観戦が大好きで、2013年頃からツール・ド・フランスも楽しんでいます。ロードレースには、特別な才能を持って生まれた選手たちが節制と努力を重ね文字通り命懸けで戦うという魅力があり、また戦術的な駆け引きやチームごとの思惑など非常に奥深くて夢中で観戦しています。そんな中、今年のポガチャル選手のように圧倒的な強さを見せる選手に対して、「勝ちすぎ」や「独り占め」といった声が上がり、ネガティブな雰囲気が漂っているように感じました。さらに、選手に「独り占めするな」と言うのは、堂々と八百長を推奨していることにならないかと戸惑ってしまいました。他のスポーツでは、連覇やグランドスラムといった偉業は称賛され、その記録や数字が競技全体を盛り上げる要素になりますが、ロードレースではなぜか批判的に捉えられることがあるのはなぜなのでしょうか?見る専として、このような批判的な空気をどう理解すれば、もっと楽しく、より深く観戦できるでしょうか。栗村さんのご意見をぜひお聞かせください。

(女性 会社員)

 

おっしゃることはよくわかります。「勝ちすぎるな」という圧力は、スポーツの根幹を揺るがしかねないものですからね。

ただし、自転車ロードレースに限らず、人間社会全般でも、圧倒的に強い者に対して微妙な感情が生まれるのは、ごく自然なことでもあります。弱い方に肩入れしたくなる判官びいきは誰にでもありますし、レースの視聴者としては、やっぱり予想外の展開を楽しみたいですよね。いつも同じ選手が勝つばかりでは飽きてしまうひともいます。

それと、ロードレース特有の事情もあるように思います。たとえば、最終的には個人戦ではありますが、基本的にはチーム戦ですから、成績はチーム力の影響を大きく受けます。だから、強い選手が強いチームに所属していたら、個人の実力以上のパフォーマンス差が生まれてしまいますよね。要するに、強い個人が圧倒的になりえる競技特性があるんです。

また、悲しいことに、この競技は過去にずっと、不正と戦ってきた事実があります。それも、「勝ちすぎ」を素直に称賛しづらい雰囲気につながっているかもしれません。

しかし、少なくとも僕は、勝ちまくっているポガチャルに対してはかなりポジティブな感情を持っています。なぜなら、勝ち方が意外性に満ちているからです。石畳のクラシックからツール・ド・フランスの最終ステージまで貪欲に勝ちを狙い、勝ち方も規格外。だから、どれだけ勝ってもマンネリをあまり感じないのです。

これはポガチャルに限らず、最近の選手に広く見られる傾向です。マチューもワウトもよく勝ってきましたが、勝ち方がいちいち凄くて笑顔になってしまいます。いや、さらに書くと、負け方まで面白い。新時代のチャンピオンたちの特徴です。

さらに付け加えると、まあ好き嫌いはありますが、彼らのキャラクターはどこか愛らしいですよね。過去は珍しくなかった、周囲を威圧する、カリスマタイプの選手は明らかに減っています。それは今どきの若者らしさなのかもしれませんが、うがった見方をすると、SNS時代にアンチを増やさずに勝ちまくるための処世術なのかもしれません。

というわけで、圧倒的に強い選手に対してのネガティブな雰囲気があることは否定できませんが、それでもかなり減っている印象です。もう少しストレートに書くと、誰が勝とうと、このスポーツは前よりも面白くなっている気がします。もちろん、落車多発などの対策は必須なのですが。

そして、「誰が勝つか」に注目するのは当然ですが、それ以外に「どう勝ったか」にも目を向けていただければ、100年に一度の変革期を迎えているこのスポーツを、もっと楽しめることは間違いありません。

絶対的王者は強さの基準を引き上げ、次の挑戦者はそこに挑む。それを取り巻くファンも、泣いたり笑ったりしながら価値観を更新していく。こうしてスポーツは進化します。まさに、人間社会を映す鏡ですね。

絶対的王者によりファンの価値観も更新されスポーツは進化する。

文:栗村 修・佐藤 喬

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栗村 修

中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。

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