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サイクル ロードレース コラム 2025年8月30日

前日絶不調のアユソが独走初勝利でチーム3連勝!トレーエンはマイヨ・ロホをがっちりキープ|ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第7ステージ

サイクルロードレースレポート by 山口 和幸
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前日の遅れから一転、独走で勝利を手にしたアユソ

前日の遅れから一転、独走で勝利を手にしたアユソ

第80回ブエルタ・ア・エスパーニャは8月29日、ピレネー山中の小国アンドラのアンドラ・ラ・ベリャからスペインのセルレル ウエスカ・ラ・マヒアまでの188kmで第7ステージが行われ、前日に8秒遅れの総合2位から10分13秒遅れの総合43位に陥落したフアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ・XRG)が独走勝利した。前日に一躍首位に立ったバーレーン・ヴィクトリアスのトースタイン・トレーエン(ノルウェー)がその座を守り、優勝候補のヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、チーム ヴィスマ・リースアバイク)が2分33秒遅れの総合2位と再び順位を上げてきた。

1週間の国際レースを終えたプロトンは
最後の訪問国アンドラからいよいよスペインへ

イタリアで開幕から3日半を過ごしたブエルタ・ア・エスパーニャは、4日目にフランスへ越境。5日目にスペイン入りして6日目に隣国アンドラのスキーリゾートにゴールした。この日はアンドラの首都、ラテン語で「アンドラの町」という意味のアンドラ・ラ・ベリャを出発。ニュートラル区間のうちに国境を越えてしまい、スペインに入ってからレースが正式にスタートした。

連日厳しい山岳バトルが続く「クライマーズ・ブエルタ」はこの日も4つの難峠が待ち受ける

連日厳しい山岳バトルが続く「クライマーズ・ブエルタ」はこの日も4つの難峠が待ち受ける

この第7ステージも本格的なピレネー山脈を舞台とする山岳ステージだ。37.9km地点にカテゴリー1級のポルト・デル・カント、107.7km地点にカテゴリー2級のクルー・ド・ペルヴェ、141.5km地点にカテゴリー2級のレスピーナという峠があり、ゴールのセルレル ウエスカ・ラ・マヒアもカテゴリー1級の山岳ポイントとなる。その獲得標高は今大会で2番目に高い4211mだ。

ステージ優勝を狙うアタッカーたちは、正式スタートからの下り坂でいくつかの動きが見られるものの、真の戦いはポルト・デル・カント(全長24.7km、勾配値4.4%)の上りで始まった。頂上までまだ22kmもある地点でいきなり総合優勝の可能性が絶望的となったアユソが飛び出した。6日目に総合43位に落ちた大ブレーキは、ジロ・デ・イタリアでの失意から完全に復活していなかったからで、その不甲斐なさのリベンジを狙った。

「チーム ヴィスマ・リースアバイクは私を逃がそうとしなかったので、レースの最初の1時間は1人でアタックし続ける必要があった。逃げようとすれば、絶対に逃がさないだろうと分かっていた。だから全力で1時間苦しまなければならなかった。逃げ集団に入るにはポルト・デル・カントを他の選手より先に通過しなければならないと覚悟していた」とアユソ。

アユソの後ろでは、前日に優勝し、山岳賞ランキングのリーダーとなったチームメートのジェイ・ヴァイン(オーストラリア)、1点差で山岳賞2位につけるルイス・フェルヴァーケ(ベルギー、スーダル・クイックステップ)など多くのライダーがアタックを仕掛ける。フェルヴァーケは総合4位でもあるので、首位のトレーエンを守ろうとバーレーン・ヴィクトリアスがつぶしにかかった。

アユソは37.9km地点のポルト・デル・カント頂上を単独で通過。ダウンヒルではヴァイン、リドル・トレックマッズ・ピーダスン(デンマーク)、EFエデュケーション・イージーポストのショーン・クイン(米国)、Q36.5プロサイクリング チームのダミアン・ホーゾン(オーストラリア)、XDS・アスタナ チームのアロルド・テハダ(コロンビア)、グルパマ・FDJのブリユー・ロラン(フランス)、山岳賞ジャージをねらうカハルラル・セグロスRGAのジョエル・ニコラウ(スペイン)、アルケア・B&Bホテルズのラウル・ガルシア(スペイン)、チーム ピクニック・ポストNLのケヴィン・ヴェルマーク(米国)、ロットのエドゥアルド・セプルベダ(アルゼンチン)、イスラエル・プレミアテックのマルコ・フリーゴ(イタリア)の11人のライダーと合流する。

谷間に入ると第1集団とメイン集団の差は広がって4分10秒になる。トレーエンのチームメートはメイン集団の中でペースをコントロールし、第1集団のアタッカーたちが総合上位に脅威を与えないように走り続ける。第1集団の中ではラウル・ガルシアが最上位の4分57秒遅れだ。そのためバーレーン・ヴィクトリアス勢の頑張りがあって、バーチャルリーダーにもなれなかった。

山岳を得意とするアタッカーに混じってスプリンターのピーダスンが加わったのは、中間スプリント賞でポイントを獲得する目的があった。中間スプリントポイントは3つの峠を超えた先、ゴールまで残り14km地点と遠かったが、ポイント賞争いは大混戦で、ピーダスンはどうしても中間スプリントポイントで1着通過しなければいけないわけがあった。

「最初の峠では、先頭集団の中で苦しい思いをした。集団についていくのに必死だった。頭の中は中間スプリントのことばかりだった。今日は山頂フィニッシュだったので、目標はただ一つ、最後の峠の麓でポイントを獲得することだけだった」とピーダスン。

ポイント賞トップを走るピーダスン

ポイント賞トップを走るピーダスン

ジロ・デ・イタリアでリタイアしたアユソ
復活をアピールする初のステージ優勝

ヴァインは107.7km地点のクルー・ド・ペルヴェと141.5km地点のレスピーナの2つの山岳ポイントを先頭で制覇。山岳賞の得点を上積みして、この日終わっても山岳賞ジャージを守った。

174km地点の中間スプリントポイントでは、ピーダスン以外に得点を欲しがる選手はいなかったため、ピーダスンが先頭で通過して20ポイントを獲得した。この日の目標を達成してメイン集団に追い抜かれた時、「チッコ(チッコーネ)を少しでも助けられるか考えた。でもチッコはなにも必要としていなかったので、私は前傾姿勢を取るのをやめてフィニッシュまで楽に走った」という。

セルレルスキーリゾートへの最後の上りは距離21.1kmで、平均勾配5.8%。上り坂に突入した時点で先頭の12人はまだ3分半リードしていた。序盤はヴァインがペースを握る。ピーダスンとニコラウは急速に離されていった。残り11kmでアユソがアタック。フリーゴがなんとか追いついたが残り10kmを切ったところでアユソが再び加速すると離されてしまう。

こうして、前日のアンドラで大きなタイムロスを喫したアユソが、わずか1日でいい走りを見せつけてブエルタ・ア・エスパーニャ初となるステージ優勝を飾った。フリーゴが1分15秒遅れの2位、ガルシアが1分21秒遅れの3位になった。

2025年5月16日、カステル・ディ・サングロ〜タリアコッツォ間の168kmで行われたジロ・デ・イタリア第7ステージで、アユソはグランツール初優勝を果たした。しかしアユソはチームメートのイサーク・デルトロが総合1位のリーダージャージを着用するかたわらで、第14ステージで総合優勝争いから後退。第16ステージで大きく陥落。第18ステージでレースを去った。

その不名誉を一掃するかのように初のブエルタ・ア・エスパーニャ優勝を果たした。総合優勝の望みが絶たれた翌日、アユソが根性とスキルを発揮し、見事な単独優勝を果たしたのである。UAEチームエミレーツXRGにとっては、チームタイムトライアル、アンドラでのヴァインの勝利に続く3連勝となる。

アユソの勝利でUAEはチーム3連勝を飾った

アユソの勝利でUAEはチーム3連勝を飾った

「今日は本当のフアン・アユソの姿が見せられたと思う。とても難しかったので、最高の勝利の一つとなった。最終的に、ジェイ(・ヴァイン)が素晴らしい仕事をしてくれたおかげで、私は最後まで走りきることができた」とアユソは勝利者インタビューで語った。

「信じられない気持ちだ。ジロ・デ・イタリアでグランツール初ステージ優勝を果たした後、私にとって一番好きなレースであるブエルタ・ア・エスパーニャでステージ優勝を果たした。特に今日の勝ち方は、一生忘れられない思い出になるし、本当に誇りに思う。チームとして3ステージ連続優勝できたのは本当にうれしい。チームタイムトライアルでは全員が平等に勝利を分かち合ったことも最高だった。そして昨日、ジェイが素晴らしいステージを走り、奥さんと子どもの前で優勝したのも特別なことだった。そして今日、私が…」

アユソとともに第1集団に加わったヴァインは「今日は逃げ集団に2人のライダーがいることが非常に重要だった。彼らは最初の上りで非常に厳しい駆け引きを見せて、1人だけを先頭に立たせたいように見えた。メイン集団との差を守るためにチームとしてプレーする必要があった」と証言した。

「幸運なことに中間スプリント地点は最後の上りの手前だったので、マッズ(ピーダスン)にそこまでの多くを引っ張ってもらった。もし先頭集団にチームから1人しか送り込んでいなかったら、最後の上りで捕まらないために必要なタイムを出すのは非常に難しかった。UAEチームエミレーツ・XRGの3連勝は信じられないくらい素晴らしい。本当にうれしい」(ヴァイン)

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チームメートがアシストしてくれた
明日もマイヨ・ロホを守りたい(トレーエン)

メイン集団では、チーム ヴィスマ・リースアバイクとUAEチームエミレーツ・XRGが力強いペースを刻む。UAEチームエミレーツ・XRGの中で総合上位を争う単独エースとなったジョアン・アルメイダ(ポルトガル)は残り5kmでアタック。ヴィンゲゴーがすぐ後ろに続き、リドル・トレックのジュリオ・チッコーネ(イタリア)も反応した。総合成績でタイムを稼ぎたいというアルメイダの目標は達成することができず、総合優勝を狙う選手たちはゴールまでに再びグループとなってアユソから2分35秒遅れでゴール。トレーエンが総合首位をキープする。

「リーダージャージのマイヨ・ロホのおかげか、自分自身に課したプレッシャーのおかげかわからないけど、翼が生えてくれたように走ることができた。一日中みんなが応援してくれたおかげで、『ジャージを守らなきゃ!』って感じだった」とマイヨ・ロホを着用して初日のレースを無事に走り切ったトレーエン。

危なげない走りでマイヨ・ロホをキープしたトレーエン

危なげない走りでマイヨ・ロホをキープしたトレーエン

「正直に言って、こんなに素晴らしいチームメートに恵まれたことに本当に感謝している。僕も彼らに応援を頼んだし、スポーツディレクターも頼んだ。みんな喜んでサポートしてくれた。ジャック・ヘイグはバスの中でこう言っていた。『リーダージャージを着た選手をアシストできるなんて、人生でそうそうあることじゃない』ってね。ジャックは足首の怪我でこのブエルタ・ア・エスパーニャで調子があまりよくなかったけど、今日は上りも下りもモーターサイクルのように猛スピードで走っていた。他の選手たちも彼と同じようにプッシュしていた。明日もマイヨ・ロホを守れたら最高だよ」(トレーエン)

ヴィンゲゴーは「まずまずの1日だった。楽ではなかったし、最後の上りはきつかったけど、体力を温存したかったので今日はなにもしないことにした。もちろん、優勝争いに加わることもできたけど、チームとして体力を温存したかったので、最後の2週間に備えることが優先だった。これから十分に厳しい戦いになるからね」とゴール後に語った。

第8ステージは一転して平坦ステージ。UAEチームエミレーツ・XRGが勝てば4連勝となるが、「スプリンターがいないチームなので、明日は勝てないと思うけど、ボクはこの調子で続けていきたいと思っている」とアユソ。

ヴァインも「今日もチームにとっていい1日となった。路上での作業が多く、脚にかなり負担の大きい2日間だったので、休息を楽しみにしている。明日は楽な1日になり、次の目標に向けて前進したい。次の第10、12ステージが勝負だ」とコメント。

第8ステージは平坦路でポイント賞が絡んだステージ優勝争いとなる見方もあるが、アタッカーも火が着いているだけに激しい展開となる可能性もある。距離が短い高速レースは一瞬も見逃せない。

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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