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スペインで覚醒の時を待つゴデュ。自身初の総合ジャージ獲得で浮上のキッカケを掴めるか?|ブエルタ・ア・エスパーニャ2025
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸常にフランス国民の期待に苦しんできたゴデュ
愛らしい近眼メガネのクライマー、フランスのダヴィド・ゴデュ(グルパマ・FDJ)が覚醒の時を迎えた。1996年生まれの28歳。2016年に現チームの前身FDJの研修生となり、いきなりU23版ツール・ド・フランスと呼ばれるツール・ド・ラヴニール総合優勝。このレースを1年後に制したエガン・ベルナル(コロンビア)、2年後のタデイ・ポガチャル(スロベニア)と早熟な若手がツール・ド・フランスを制していくが、ゴデュはなかなかフランス国民の過度な期待に応えられないでいた。
ゴデュが生まれたのはフランスの北西部にあるブルターニュ半島にあって、「地の果て」という意味のフィニステール県だ。父親がマウンテンバイク好きで、幼少期からサイクリングとアウトドアの世界に親しんだ。6歳で最初の自転車クラブに入り、夏休みにはアルプスの峠を体験。ここで自分の天職を見つけた。クライマーになることだ。目標は大好きなアルベルト・コンタドールの偉業に並ぶこと。このスペインのクライマーはグランツールを全制覇した7選手の一人だ。
2018年にゴデュはツール・ド・フランスデビュー。2019年のツール・ド・ロマンディでは、ワールドツアー初となるステージ優勝。続くツール・ド・フランスではチームエースであるティボー・ピノのアシスト役を務め、ピレネーのツールマレー峠にフィニッシュするステージでピノの優勝に貢献した。
2020年にはブエルタ・ア・エスパーニャで2つのステージ優勝を果たし、総合8位に。2021年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでポガチャルと、ロードレース世界チャンピオンのジュリアン・アラフィリップに続いて3位になった。2022年のツール・ド・フランスは大きく沈んだピノに代わって、自己最高の総合4位に食い込んだ。
相性の良いブエルタで飛躍のキッカケを掴めるか
2023年末にピノが引退することになり、ゴデュはツール・ド・フランスでいよいよエースとして大きな責任と期待を背負わねばならない状況になった。しかしエースナンバーで出場した2023年は総合9位、2024年は総合65位。フランスファンの多くが落胆した。
そんなゴデュだが、ブエルタ・ア・エスパーニャとの相性はいい。前述しているが、2020年はコロナ禍で大会が3ステージ減となったものの、ログリッチとカラパスの激闘のかたわら、超級難度の第11ステージと第17ステージで優勝し、総合8位に。2度目の参戦となった2024年も総合6位に食い込んでいる。過酷な山岳ステージが連続するタフなブエルタ・ア・エスパーニャでこそクライマーであるゴデュの真価が発揮されるのだ。
そして2025年、ゴデュは初めてジロ・デ・イタリアに出場した。しかしシーズン前半に4回も落車し、ティレーノ~アドリアティコでは手首を骨折。レース参加スケジュールが乱れて、ジロ・デ・イタリアでは完全に疲れ果て、結果は総合66位と低迷。さらにデビュー以来7年連続で出場していたツール・ド・フランスも、「自分のコンディションをチームに正直に伝えて参加しないことを決断した」という。生まれ育ったブルターニューがコースの一部だっただけに苦渋の選択だった。
自身初のグランツール総合ジャージに袖を通すゴデュ
そんなゴデュを救ったのはブエルタ・ア・エスパーニャだ。第2ステージでダブルエースのギヨーム・マルタン選手が下り坂で落車し脊椎2カ所を骨折していたため、ゴデュはその穴埋めをする使命をもってステージ3位を確保した。いけるんじゃないかという思いが脳裏に浮かび、チームからも「お前はパンチ力があるから勝てると」言われ、第3ステージでマッズ・ピーダスンを追い抜いてステージ優勝。
「本当に難しい一年だった。ワールドツアーで長い間勝てず、最後に勝ったのは2022年のドーフィネで、スプリントでワウト・ファンアールトに勝利したとき。そして今、ピーダスンに勝利したのだから感慨深い」
さらなる快進撃はブエルタ・ア・エスパーニャが母国フランスにゴールした第4ステージ。ここでゴデュは自身初めてとなるグランツールでのリーダージャージを獲得する。「チームは素晴らしい仕事をしてくれた。このジャージは彼らのために獲得したんだ」
翌ステージでゴデュはリーダージャージを失うのだが、ゴデュが得意とする山岳ステージはこれから連日続く。2025ブエルタ・ア・エスパーニャ、自信を取り戻したクライマーに注目していきたい。
最後に、ゴデュがレースで着用しているのは度付きアイウエア。必要な保護性能と適切な視力矯正を兼ね備えたものが見つからなかったので、ジュラ地方にあるジュルボというスキー用ゴーグル&ヘルメットメーカーと共同開発したという。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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