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ヴァインが渾身の独走で区間勝利!総合争いはトレーエンが首位に|ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第6ステージ
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか今大会初の大逃げで勝利を掴んだジェイ・ヴァイン
2025年ブエルタ初の難関山岳ステージで、今大会初の大逃げ勝利が決まった。この日に狙いを定めてきたジェイ・ヴァインが、独走で歓喜を味わい、数少ないチャンスに懸けた選手たちの中から、トースタイン・トレーエンが新たなマイヨ・ロホ交代劇の主役となった。
山岳賞と新人賞もジャージの持ち主が変わった。開催国スペイン期待の星フアン・アユソは、アンドラの山の上で、総合優勝の望みを完全に断たれた。
「本当に素敵な気分だ。息子と妻の目の前で優勝できたなんて、信じられないようなことだった。ラスト5kmはとてつもなくモチベーションが上がった。とにかく、早くそこにたどり着きたいとばかり考えていた」(ヴァイン)
逃げたい者、逃がしたい者
スタートと同時にプロトンは3級山岳へと挑みかかり、7kmほど上った先で、10人が逃げ出した。すでにグランツールの難関山頂フィニッシュを制した過去を持つヴァイン、ロレンツォ・フォルトゥナート、パブロ・カストリーリョを中心に、本当に山に強い選手だけが前に揃った。前者2人はグランツール山岳賞経験者でもあった。
スタート直後の3級山岳で、逃げ集団をリードするカストリーリョ&フォルトゥナート
総合タイム差がそれほど大きくない選手も、複数加わった。前夜に改めて赤い衣をまとったヨナス・ヴィンゲゴーに対して、トレーエンの遅れはわずか58秒。逃げ出してすぐに暫定マイヨ・ロホのランプが灯った。TT巧者のブリュノ・アルミライユもまた、1分02秒差につけていた。
肝心のヴァインは、すでに20分45秒も遅れていた。初日の平坦ステージで早くも「あえて」プロトンから脱落している。その後も少しずつ遅れを積み重ねた。メインプロトンから逃げを容認してもらえる条件を整えた上で、ヴァインは晴れて待ち望んだ日を迎えたのだ。
序盤50kmほどは、2分前後しかタイム差をもらえなかった。それでもステージ半ばの1級山岳に差し掛かると、ようやくリードは拡大していく。
プロトンの制御権を握ったヴィスマ・リース ア バイクは、どうやら再びマイヨ・ロホを選ぶことを選んだ。チームエミレーツ・XRGの山岳アシストを無理にはとらえず、「前待ち」作戦の危険も回避した。ヴィンゲゴーの8秒差に3人、9秒差に1人が控える接戦状態だからこそ、残り21km地点やフィニッシュに設定されたボーナスタイムを、直接的なライバルたちが争うチャンスを潰す意味もあったはずだ。
残り35km、アンドラの国境検問所に差し掛かった時、10人の逃げは大量6分半のリードを有していた。
「もちろんステージ優勝のために逃げた。逃げが最後まで行かなかったとしたら、僕はプロトンに戻って仕事をすることだってあり得た。つまり『僕の逃げ』は常に手札としてある状態で、オプションのひとつとして、もしも集団がひとつに戻った場合には何かすることになっていた」(ヴァイン)
ヴァイン、自由な一人旅へ
アンドラに入ると、いよいよメインプロトンも緊迫感を帯びてきた。総合系チームがこぞって隊列を組み上げ、自ずと走行スピードは上がっていく。
一方、すでに130km以上も逃げ続けてきた先頭集団の、大多数にとっては、これ以上の加速は不可能に近かったはずだ。2級山岳コメリャに差し掛かると、標高1000mを超える山肌に、大粒の雨が降り注いだ。強い向かい風も吹き付けた。10人はリードを急速に失い、ついにタイム差は4分差を切った。
「このあたりの道はよく知ってる。僕はちょうどこの山を下りたところに住んでいるからね。コメリャはアンドラの中で一番好きな上り。いつもならもっとハードに攻めたいところだったけど、向かい風のせいで、逃げの仲間たちに交代で前を引いてもらうのが難しくて、本当に厳しい展開に持ち込むことはできなかった」(ヴァイン)
地の利を活かして独走劇を始めるヴァイン
だったら1人で行こう。ストップウォッチ相手の孤独な戦いを得意とするヴァインに、恐れる理由などなかった。毅然とペダルを踏み込んだ。急な加速に苦しむライバルたちを尻目に、残り21km、先頭でコメリャ山頂を越えた。そして、下りに転じた直後、すべてを大胆に振り払った。
「濡れた下りを利用して仕掛けることに決めた。この道を知り尽くしていたからこそ、抜け出すチャンスだと思ったし、そうすれば不毛な駆け引きもなくなる。真っ向勝負だった」(ヴァイン)
6日間で4人目のマイヨ・ロホ
置き去りにされた逃げの残党は、ヴァインの言う通り、「不毛な駆け引き」に終始した。
残り9.6km、約1分遅れで最終山岳パルへの上りに突入した後、カストリーリョはアタックを繰り返しすぎた。トレーエンとアルミライユは、区間勝利のために奮闘するよりも、「マイヨ・ロホ争いを優先」した。互いを厳しく監視し合った果てに、残り6kmでトレーエンが上手く抜け出した。その後のアルミライユは、なぜかフォルトゥナートに翻弄されたと主張している。とにかくマリア・ローザを2日間着用した2023年ジロの再現は、ならなかった。
唯一、トレーエンだけは、念願を叶えた。ヴァインから54秒遅れ、アルミライユに21秒先んじてフィニッシュ。おかげでグランツールはもちろん、ステージレース全般を通じて、プロ生活で初めて総合リーダーの座についた。
キャリア初のマイヨ・ロホ獲得したトレーエン
「正直に言って、とてもハードだった。逃げに乗るのも大変だったし、最初の50kmは集団に厳しく抑えられていた。ある時点で行けると確信たけど、総合に関してはアルミライユとほんの僅差だったし、最後の山岳もかなり難しかった。ジェイが下りで仕掛けて……僕もある時点で全力を尽くしたけど、あの5kmは途方もなく長く感じられた」(トレーエン)
また、はるか後方のメイン集団では総合バトルが勃発したが、ヴァインは最後まで4分19秒ものリードを守り抜いた。最終山岳パルの山頂では、両手でハートを作り、フィニッシュへ応援に駆け付けていた妻と息子にあふれる愛を送り届けた。それから、力強く、天に拳を突き上げた。
2022年ブエルタ6日目にプロ初勝利を、その2日後に早くも2勝目をもぎとったヴァインにとって、今回の勝利が記念すべきプロ10勝目。前日第5ステージのチームタイムトライアルを圧倒したUAEにとっては、2日連続のステージ優勝となった。チーム総合順位でも2日連続で首位を堅持。また1年前に山岳賞を持ち帰ったヴァインは、この日の終わりに、白地に青玉の山岳ジャージと再会を果たした。
UAE、悲喜こもごも
こと個人総合に関しては、2位から4位を独占していた前日とは、UAEの状況は大きく異なる。最後の山で、アユソが、抵抗もせずメイン集団から脱落していったのだ。
今区間だけで、アユソは、主要なライバルに対して約7分半を失った。3年前に19歳の若さでブエルタ表彰台に上がった早熟な才能は、あくまでジロで負った怪我からいまだ復帰途上であり、今後は「チームを助けることを優先しつつ、自分向きのステージでなにかトライしたい」と前を向く。
UAEのもう1人のリーダー、ジョアン・アルメイダは、ステージを力強い走りで締めくくった。コメリャでメカトラの犠牲となり、集団復帰にかなりの努力を要したせいだろうか。最終山岳パルで、ジュリオ・チッコーネとヴィンゲゴーが飛び出して行くと、一瞬ながら出遅れる場面も。ただ持ち味の粘り強さで2人に追いつき、それどころか1ダースほどのエース集団を強烈な加速で引きずり回し、総合勢としてはトップでフィニッシュラインを越えている。
アユソに代わり新人賞リーダーに立ったペリツァーリ
同集団でステージを終えたジュリオ・ペリツァーリが、1つ年上のアユソに代わり、新人賞の首位に立った。この5月のジロでは、やはりUAEのイサク・デルトロの「おさがり」を着て走ったが、自身が正式にグランツールのホワイトジャージを授与されるのは初めて。
2日間着用して一度手放し、翌日すぐに取り戻したヴィンゲゴーは、再びわずか1日でマイヨ・ロホを脱いだ。総合では2分33秒差の5位に後退したが、直接的ライバルとの関係性だけを見れば、ツール総合2勝の王者が変わらず一番手につけている。
文:宮本 あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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