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サイクル ロードレース コラム 2025年8月28日

UAEが入念な準備の末、チームTTで最速タイムを叩き出す!マイヨ・ロホはヴィンゲゴーが奪還|ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第5ステージ

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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UAEが団結力とスピードでチームタイムトライアルを制し、総合も2位〜4位を独占

UAEが団結力とスピードでチームタイムトライアルを制し、総合も2位〜4位を独占

「塊」としての強さ。個々の高い能力。勝利への意欲。「チーム単位で戦う個人戦」の中で唯一の「チーム戦」、チームタイムトライアル(TTT)で、UAEチームエミレーツ・XRGが25分26秒41のトップタイムを叩き出した。総合でも2位から4位まで、見事に3選手を並べた。

「チームは完璧な仕事をやり切った。僕は常に後ろを振り返り、チームメイトの位置を確認し続けた。最後までチームが一丸となって走っていたから、あとはひたすら全力でペダルを踏み続けた」(ジョアン・アルメイダ

またチーム ヴィスマ・リース ア バイクが8秒差の区間2位に入り、前日フランスで失ったマイヨ・ロホを、ヨナス・ヴィンゲゴーはスペインであっさり取り戻した。翌日のアンドラ山頂フィニッシュへ、UAEトリオに対して8秒リードで臨む。

UAE、入念な準備の勝利

ほんの24時間までアルプスで走っていたブエルタ一行は、前日の夜に、大会の本国スペインへ到着した。いつもよりも遅い夕食とマッサージ。休息日を挟まず、なにごともなかったようにレースは続く。

たしかに第5ステージの本番自体は、夕方ゆっくりと幕を開けたが、各チームのメカニックたちは午前中に主催者による機材検査を済ませねばならなかったし、選手たちだって午後早い時間にコース下見を行う必要があった。それでもUAEは、全長24.1kmのコースを2回、たっぷり試走したという。

このステージに向けて入念な調整を行っていたUAE

このステージに向けて入念な調整を行っていたUAE

「1回目は満足のいく内容にならなかったから、もう1回やり直そうと決めた。この区間に向けては、イタリアにいた時点で取り組みを始めていたし、さらに2度の下見で小さな不具合を修正した」(フアン・アユソ

こうしてアルメイダ、TTスペシャリストのミッケル・ビョーグ、新人賞ジャージをまとうアユソ、さらにマルク・ソレルの4人が一緒に、どこよりも速いタイムでフィニッシュラインを越えた。走行時速は56.855km。UAEの名でTTTを制するのは、2024年パリ~ニースの同種目(特別ルールによりトップ通過選手のタイムが成績に反映された)に続き、2回目の快挙だった。

スペシャリストたちを苦しめる難コース

全23チーム中21番目に、8人全員でスタートしたUAEは、決して2つの中間計測地点で最速タイムを塗り替えたわけではない。スタートから7.8km地点の第1計測では、首位イネオス・グレナディアーズと0.01秒差(!)の2位につけ、16.6km地点の第2計測では首位リドル・トレックに対して5秒遅れの3位に後退していた。

しかし「個人」としては世界最速級であるフィリッポ・ガンナ率いるイネオスは、第2計測を終えると次々と牽引役が離脱していき……残り6.5kmの時点で、すでに前には4人しか残っていなかった。チームで4番目にフィニッシュラインを越えた選手のタイムが、チームタイムとして採用されるため、これ以上の脱落者は許されない。最終的にイネオスは、16遅れの5位でステージを終えた。

スタートから首位を守るも、9秒差で3位に甘んじたリドル

スタートから首位を守るも、9秒差で3位に甘んじたリドル

イネオスと同じく3人のTTナショナルチャンピオンを擁するリドルは、7番目に出走してからUAEがフィニッシュするまで、首位としてホットシートに座り続けた。ただ「予想以上に蛇行するコースでは、先頭交代が非常に厳しい」と下見後にマッズ・ピーダスンが恐れてたように、第2計測直後のうねるような道で、カルロス・ベローナが曲がり切れずに落車。開幕以来、平地でも山でも隊列を組んで作業に勤しんできたリドルだが、残り3kmで4人になり、9秒差の3位でフィニッシュ。

予測不能のコースとアクシデントの連鎖

誰もが予想以上に難しいコースだと、口を揃えた。午前中にアスファルトを濡らした雨は、すっかり上がり、幸いにも路面は乾いていた。ただスピードバンプの多さや、舗装状態の悪さは、相変わらず選手たちを苦しめた。

第1計測を5秒差で通過したレッドブル・ボーラ・ハンスグローエは、第2計測までの途中で、マッテオ・ソブレロが激しく地面に叩きつけられた。隊列が乱れ、チームメイトと車輪が接触してしまったのだ。ジロのTTステージを制したこともあるルーラーを欠いた上に、この落車の影響でジョヴァンニ・アレオッティさえメカトラブルで隊列を離れた。最終的に4位12秒遅れでまとめ上げたのだから、むしろ上出来と言える。

予想外の邪魔が入ったこともあった。イスラエル・プレミアテックの行く手を、デモ隊が封鎖した。数人の選手はスムーズに突破できたが、数人は足止めを喰らった。そのせいで実際のタイムは首位UAEに対して約54秒も遅れたが、審判団の裁定により、「邪魔が入った瞬間」のタイム差が成績として採用された。つまり39秒遅れの14位に。

ラスト1kmの手前で、最終23番滑走のグルパマ・FDJも、やはり路上に出ていた人物を咄嗟に避けざるを得なかった。マイヨ・ロホ姿のダヴィド・ゴデュをできる限り早くフィニッシュラインに送り届けるべく、減速せず突き進んだため、こちらは救済措置はなし。24秒差の9位で1日を終え、ゴデュは生まれて初めてのグランツール総合リーダージャージを脱いだ。たったの24.1km、わずか25分50秒の、赤く幸せな時間だった。

9位フィニッシュのグルパマ・FDJ、ゴデュは惜しくもマイヨ・ロホを手放す

9位フィニッシュのグルパマ・FDJ、ゴデュは惜しくもマイヨ・ロホを手放す

「マイヨを失うだろうことは、あらかじめ分かっていた。正直に言って、楽しかった。今朝、このジャージに袖を通してからというもの、ただただ喜びいっぱいだった。昨日の表彰式からの24時間は、僕のキャリアの中でも最も美しい時間だった」(ゴデュ)

ヴィスマ、計算ミスも帳尻を合わせる

1人欠ける7人でスタートしたヴィスマにとって、序盤は、想定内の走りだった。4分前にスタートしたUAEに、ほんの3秒遅れで第1計測を通過。ところが第2計測で、遅れは18秒に拡大してしまう。大会スポンサーの提供スーツではなく、チームジャージを着てTTに臨むために、マイヨ・ロホをあえて失った――との見解もある――ほど、この団体種目に懸けていたはずのヴィスマにとって、これは失態か、それとも失策か。

「今日のチームは素晴らしい仕事をしたし、僕らは全速力で走った。ただ、他のチームに比べると、もしかしたら中盤のスピードが少し足りなかったかもしれない。もっと早く走るべきだったのかもしれない」(ヴィンゲゴー)

マイヨ・ロホを取り戻し笑顔を見せるヴィンゲゴー

マイヨ・ロホを取り戻し笑顔を見せるヴィンゲゴー

長らく牽引役を務めたマッテオ・ジョーゲンソンは、「風を読み違えた」とも語っている。どうやら「コース終盤の追い風を利用して、後半にスピードを全開にするため」、序盤から中盤を少し控え目に走ったようだ。計画的に速度を抑えていたからこそ、終盤のスピードアップが実現できた。第2計測からフィニッシュまでの7.5kmだけに限定すれば、UAEより4.92秒も速かった。「ただ勝つためには十分ではなかった」とジョーゲンソン。

それでもマイヨ・ロホの権利だけは、ライバルに譲らなかった。2日にわたり同タイムで並び、単純に「区間順位の総計の違い」でジャージを1日ずつ分け合ったゴデュとは、ついに差が16秒に開いた。もしも第2計測のタイム差のままであれば、前日の段階で16秒遅れで並んでいたUAEのアユソ、アルメイダ、さらにはマルク・ソレルの誰かに、ジャージを奪われてしまうところだった。最終盤を全開で走ったおかげで、総合では8秒のリードを保つことに成功した。

「この美しいジャージを取り戻すことができて、最高に嬉しい。昨日は失ったけれど、もちろん総合リーダーの証である赤いジャージで毎日を過ごせたら、本当に素敵だ」(ヴィンゲゴー)

いよいよ本物のブエルタが始まる

2位から4位まで8秒差でUAEが並び、トレック全員の奮闘が実り、5位には9秒差でジュリオ・チッコーネがつけた。ゴデュも6位16秒差で、「いまだ僕は総合争いに留まっている」と胸を張る。

チームの出来が直接個人の成績に反映される種目だからこそ、レッドブルのジャイ・ヒンドレーは20秒差の8位に、イネオスのエガン・ベルナルは22秒差の10位に、それぞれわずかながらも後退を余儀なくされた。昨年総合2位のベン・オコーナーにいたっては、前日の16秒遅れから、一気に52秒遅れへと突き放された。

ただチームタイムトライアルでできたタイムは、ほんの参考程度でしかない。誰もがこう語る。「本当のブエルタは明日から始まる」と。明日――つまり第6ステージのアンドラから、本格的な難関山岳バトルの幕が開ける。この先には、いまだ8つの山頂フィニッシュが待っている。

「僕はマイヨ・ロホを着たい。美しいジャージだし、僕はいまだに着たことがないから、初めて袖を通せたら最高だよね。それはいつだって構わない。僕らはどんどん近づいている。つかみとれるかどうかトライしていく。とにかく僕らは持てるすべてを尽くす」(アルメイダ)

文:宮本 あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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