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ターナーが涙のグランツール初優勝!総合成績はタイム差なしでゴデュが逆転首位|ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第4ステージ
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸感動のスプリントフィニッシュ、ベン・ターナーが大会初勝利
第80回ブエルタ・ア・エスパーニャは大会4日目、8月26日にイタリアのスーザをスタートしてフランスのヴォワロンにゴールする第4ステージ(距離206.7km)が行われ、イネオス・グレナディアーズのベン・ターナー(英国)がゴールスプリント勝負を制して大会初優勝。総合成績ではグルパマ・FDJのダヴィド・ゴデュ(フランス)が、タイム差なしで並んでいたヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、チーム ヴィスマ・リースアバイク)を累計の着順差で逆転して初めて首位に立った。
開幕地イタリアに別れを告げて、アルプスを越えツール・ド・フランスの舞台へ
ツール・ド・フランスでおなじみのアルプスを走るプロトン
8月23日にイタリアのトリノで開幕したレースは、大会4日目にイタリア北西部ピエモンテ州にある山間部のスーザをスタート。37.8km地点にあるモンジュネーヴル峠が国境で、ブエルタ・ア・エスパーニャは13回目となるフランス入り。今回は、いきなりの本格アルプスへの突入という異例の設定だ。ツール・ド・フランスのマイヨ・ジョーヌがここを走るシーンはあったとしても、ブエルタ・ア・エスパーニャのマイヨ・ロホが見られるとは沿道の観客もイメージすることはなかったはずだ。
ツール・ド・フランスで有名なガリビエ峠直下のロータレ峠を76.8km地点で通過する。モンジュネーヴル峠とともにカテゴリー2級の山岳ポイントで、ステージの獲得標高は2919mに達する。高得点が設定されている山岳ポイントが前半に集まっているので、山岳賞をねらう選手が序盤からアタックするのは必至だ。
スタートしてすぐに上り始める。10.4km地点にカテゴリー3級の上りがあり、カハルラル・セグロスRGAのジョエル・ニコラウ(スペイン)、スーダル・クイックステップのルイス・フェルヴァーケ(ベルギー)、EFエデュケーション・イージーポストのショーン・クイン(米国)、アンテルマルシェ・ワンティのカミル・ボヌー(ベルギー)、ブルゴス・ブルペレットBHのマリオ・アパリシオ(スペイン)の5選手が抜け出した。元米国チャンピオンのクインは連日積極的走りを見せているが、この日もアタックを成功させた。
スタート直後にメイン集団から飛び出す注目の5人
第1集団では山岳賞ジャージをねらう戦いが始まった。ニコラウはカテゴリー3級の上りで1着通過し、続くモンジュネーヴル峠でフェルヴァーケに続く2着通過。この時点でニコラウは山岳賞ジャージを着用するアレッサンドロ・ヴェッレ(イタリア、アルケア・B&Bホテルズ)の8点と並ぶことになった。
ロータレ峠までは緩やかな上り坂で、峠を通過すればステージ後半は下り基調。今大会最長距離となる206.7kmという長さもあって、この日はスプリンターたちにも勝つチャンスがある。マッズ・ピーダスン(デンマーク)を有するリドル・トレックがメイン集団をペースアップして、ロータレ峠までの道のりで第1集団との差を4分から2分まで縮めた。
先行する第1集団では、前日に敢闘賞を獲得したクインがロータレ峠を1着で通過。ニコラウは2位で、山岳賞の3点を加算して合計11点に。2015年にオマール・フライレが最終的な山岳賞を獲得して以来、カハルラル・セグロスRGA所属選手として初めてブエルタ・ア・エスパーニャの表彰台に立ち、リーダージャージを受け取ることになる。
「初日から山岳賞ジャージを獲得するつもりでスタートしたけど、1つだけあった山岳ポイントで写真判定の結果ヴェッレに負けて、悔しい思いをした。昨日も山岳ポイントがあることは分かっていたが、今日のほうが獲得ポイントが多いと分かったので、今日まで待って挑戦しようと決めた。そして、その通りになった」と、ゴール後のニコラウ。
「スタートで3人が抜け出した。峠の途中で集団に追いつかれたが、私は限界まで自分を追い込み、最初の頂上に1人で到達した。そして、その後、他の4人の逃げ仲間が追いついてきた。本当に特別な経験だった。山岳賞ジャージを着るだけでも特別なことだが、今日のようなアルプスの長く険しい峠道のステージで獲得できたのだからさらに素晴らしい。明日、家族、友人、そして仲間たちに囲まれてスペインのフィゲレスに到着し、このジャージを着られるなんて。山岳賞のトップだと言われたときは、信じられなかった。このジャージを着てカタルーニャに到着し、みんなの前でブエルタ・ア・エスパーニャ山岳賞であることは私にとって夢のようだ。このジャージを着られるかどうか、この目で確かめるために参戦した。今の自分のレベルを見て、この状態を維持できるか、そして夢を達成することができるか、日々努力していきたい。結局のところ、これは長いレースでまだ始まったばかり。どうなるか見てみよう」(ニコラウ)
ブエルタ・ア・エスパーニャに出たかった。自分の可能性を見つけたかった(ターナー)
5選手はいったんばらばらになったが、ツール・ド・フランスで有名なラルプデュエズの上りはじめにある集落、ブールドワザンに向かう下り坂で再び集結。そしてメイン集団は残り91kmで第1集団に追いつく。アパリシオだけが再び攻撃を開始するが、それもすぐに終焉する。
この日の中間スプリントポイントは174.4kmにあるノヤレイで、選手らは大集団で突入。1着通過は6秒、2着4秒、3着2秒のボーナスタイムが設定されている。ここでは地力に優るピーダスンが先頭で通過した。リドル・トレックのジュリオ・チッコーネ(イタリア)と、1秒でもタイムを稼いだら首位になる可能性が高くなるゴデュもスプリント争いに加わったが、それぞれ4位と5位に甘んじてボーナスタイム獲得に失敗した。この地点を通過してすぐにデカトロン・AG2Rラモンディアール チームのブリュノ・アルミライユ(フランス)がアタックし、40秒のギャップを築く。しかしゴールまで残り15kmで捕らえられた。
中程度の山岳コースだったが、後半部分が下り基調だったため、ステージ優勝の行方はゴールスプリント勝負となった。リドル・トレックとヤスペル・フィリプセン(ベルギー)を擁するアルペシン・ドゥクーニンクがスプリントを制しようと試みるが、ここで躍り出たのがターナーだ。
勝利の後、感激のあまりチームメイトのフィリッポ・ガンナを抱きしめたベン・ターナー
イネオス・グレナディアーズのルーカス・ハミルトンがレース前日に欠場を余儀なくされたことで、ブエルタ・ア・エスパーニャに急きょ招集されたターナー。土壇場で参加を要請された若いターナーだが、3週間前のツール・ド・ポーランドでUCIワールドツアー初優勝していた。ツール・ド・ポーランドではポイント賞も獲得しているが、アップヒルをものともしないオールラウンダーで、2023年のムルシア優勝を含めて今回でプロ3勝目となる。急な起用にも十分応えられる才能があることを証明した。
「正直に言って、なんと言っていいか分からない! クレイジーな1週間だった。本当にクレイジー!」とインタビューで涙ぐむターナー。
「ブエルタ・ア・エスパーニャに出たかった。チームには僕が必要だと言われた。もちろん、このレースに出るためにはなんでもすると答えた。最初のスプリントでチェーンが外れて本当にショックだった。でも今日は自分の可能性を本当に信じていた。一日中、本当にいい気分だった。なんと言っていいか分からないけど、チームメイトには感謝しかない。このレースの雰囲気は最高で、チームは本当に素晴らしかった」
ターナーにとってポーランドを含めたここ数週間は信じられないくらい楽しかったという。まずはポーランドで優勝して、そしてグランツールでも優勝できた。「最高の仲間たちが周りにいて、みんな僕のやるべきことを本当に信じてくれていた。すべてが完璧だった。最後の数mは本当に長く感じたけどね」(ターナー)
中間ボーナスタイムを逸したので、危険を承知でゴールの着順争いに(ゴデュ)
ゴデュはタイム差なしの25位、ヴィンゲゴーもタイム差なしの42位。両選手ともボーナスタイムは獲得していないので、前日と同様に個人総合時間は同タイムで並んだ。同タイムとなった場合、通常は切り捨てられる個人タイムトライアルでのコンマ以下の所要時間で優劣をつけるのだが、この大会はここまで個人タイムトライアルの実施がない。
その場合は3番目の規定として、これまでのステージ順位を合計して少ない選手が上位となる。第3ステージではヴィンゲゴーが45、ゴデュが53。この結果、ヴィンゲゴーが総合1位となり、マイヨ・ロホを守った。そしてこの日終わってゴデュが78、ヴィンゲゴーが87。歓喜に沸くフランスの観衆の前で、ゴデュは自身初となるグランツールでのリーダージャージを獲得した。
ヴィンゲゴーから首位を奪ったゴデュが初のマイヨ・ロホを獲得
フランスの観客はブルターニュ出身のクライマーであるゴデュがマイヨ・ロホを着用する姿を目撃できたのだから感動だ。フランス選手がリーダージャージを着用するのは、1955年にブエルタ・ア・エスパーニャが初めてフランスを訪れた際に首位となったジルベール・ボーヴァン、2023年に首位に躍り出たレニー・マルティネスに続く27人目。
「今朝は確かに総合1位のことを考えていたけど、集団スプリントでポジションを争えるかどうかは正直分からなかった。本当に危険な状況かもしれなかった。でも、とにかくフィニッシュラインまで行き、やっとのことでゴールした」とゴデュ。
中間スプリントでは3着までの通過を目指して先行する選手のタイヤを追いかけたが、ボーナスタイムは稼げなかった。その後、ゴデュは無線で「フィニッシュで勝負したい」と伝えている。
「チームは素晴らしい仕事をしてくれた。このジャージは彼らのために着た。第5ステージとして設定されているタイムトライアルでは強いチームなので、ここでリーダージャージを獲得しなかったとしても、同じ結果になったかもしれない。明日はただひたすらプッシュして、ベストを尽くすだけ。いい結果が出るかどうかはゴール後に分かる」
4賞ジャージは、個人総合がゴデュに、山岳賞がニコラウに、ポイント賞がヴィンゲゴーからピーダスンに移ったが、ヤング・ライダー賞だけはUAEチームエミレーツ・XRGのフアン・アユソ(スペイン)が守った。総合成績でもチームのトップとなる16秒遅れの10位。
「明日に向けてチーム全員の調子はいいと思う。チームタイムトライアルは我々が得意としているので、明日はいい1日になることを願っている。チームのだれかがマイヨ・ロホを獲得できれば最高。総合成績の差はそれほど大きくないので、明日は何が起こるか分からない」
大会は5日目にいよいよスペインへ。選手は空路で、車両を担うチームスタッフなどは陸路でスペインの最もフランスに近いエリア、フィゲレスへ。第5ステージはチームタイムトライアル。距離24.1kmで大差はつかないかもしれないが、わずかなミスで勝利の女神に見放される可能性もある。いよいよ熱き・暑きスペインでの戦いが始まる!
文:山口 和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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