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悲劇の落車から再び示した最速の証明!フィリプセンが開幕勝利&マイヨ・ロホを獲得|ブエルタ・ア・エスパ-ニャ2025 レースレポート:第1ステージ
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかツールでリタイアに終わった無念をブエルタで晴らしてみせたフィリプセン
7週間前のツール・ド・フランス初日にやってのけた快挙を、鮮やかに繰り返した。不安も、疑念も、一気に吹き飛ばした。2025年ブエルタ・ア・エスパ-ニャの開幕ステージ、区間勝利とマイヨ・ロホとを一挙に獲得し、ヤスペル・フィリプセンが改めて最速の証明を果たした。
「今年の僕はたくさんの不運に見舞われたけど、素晴らしい勝利だっていくつも収めてきた。そして、こんな勝利こそが、シーズンを甘美なものにしてくれる」(フィリプセン)
逃げの運命は、プロトンが決める
歴史的な1日。スペイン一周が、創設90周年にして初めて、イタリアの大地を駆け抜けた。トリノ郊外のヴェナリア宮殿は、「情熱の赤」を掲げるレースにその壮麗なる門を開き、5月であれば「ばら色」に彩られる石畳の街角や、緑豊かな田園が、8月のプロトンの戦いの舞台となった。
史上初となるイタリアからスタートした2025年のブエルタ・ア・エスパ-ニャ
2つの国の選手は、幸いにも、この特別な機会を逃さなかった。スタート直後に飛び出した6人の集団の中から、唯一の山岳で、イタリア人のアレッサンドロ・ヴェッレが山岳ジャージを引き寄せた。スペイン人のウゴ・デラカジェは、生まれて初めてのグランツールの初日に、惜しみない走りで敢闘賞に輝いた。
そして6人が遠ざかっていった背後では、フィリプセン擁するアルペシン・ドゥクーニンクが、真っ先にタイム差制御に乗り出した。マッズ・ピーダスンとともに今ジロの再現――やはり初日ステージ勝利&マリア・ローザ――を目論むリドル・トレックもまた、すぐに牽引役を配置。両チームは黙々と作業を続けた。先頭集団には決して2分半以上のリードを与えなかった。
残り100kmを切ると、その時を待っていたかのように、リドルが全員隊列を組み上げた。10km先には今大会初の中間スプリントが迫っている。猛烈なテンポを刻んだ。タイム差は瞬く間に縮まった。……ところがリドルは、中間まであと5kmのところで、追走の脚を緩めてしまう。
中間ポイント手前に、道幅の狭い直角コーナーが、立て続けに3つも待ち構えていたせいかもしれない。上位通過者5名に与えられる中間ポイントを回収するためだけに、つまりは無茶を冒さなかった。減速の直前には、アルペシンとリドルが話し合う場面もあった。今夏のツール3日目には、中間スプリントを巡る熾烈なポジション取りの最中に、落車事故が発生している。右鎖骨を骨折し、即時リタイアを余儀なくされた選手こそが、あの日マイヨ・ヴェールを着ていたフィリプセンだった。
危険な中間ポイントを安全に抜け出すと、今度はアルペシンが追走の責任を一手に担った。中間ポイントから5km先で、逃げ6人のうち5人を、あっさり後方へ引きずりおろした。残る1人のデラカジェに関しては、生かさず殺さず、さらに1時間ほど前方を泳がせていたが、フィニッシュ手前38kmでとうとう回収を済ませた。
地元イタリアのアレッサンドロ・ヴェッレが山岳ジャージを獲得
エースを信じ、チームを信じる
逃げの終わりは、ナーバスな時間の始まりを意味した。アルペシンやリドルと競り合うように、総合系チームが道幅いっぱいに隊列を走らせた。グランツール序盤特有のアクシデントを避け、安全にチームリーダーをフィニッシュへと運び届けるべく、熾烈なポジション争いが繰り返された。
蛇行する道や、突如として現れる中央分離帯は、集団を長くいびつな形に変えた。特にラスト8kmはロータリーだらけ。それでも今大会優勝大本命ヨナス・ヴィンゲゴーを守るチーム ヴィスマ・リースアバイクは、危なげなく最前列を独占。極めて高いチーム力を発揮した。
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アルペシンもまた、圧倒的な結束力を示した。スプリントも総合も……と二兎を追い、ピーダスンが区間4勝と大暴れしたジロに比べ、短めのスプリント列車でブエルタに乗り込んだリドルは、混沌の中で、肝心のエースを見失った。一方で、怪我からの復帰戦となった前週のツアー・オブ・デンマークで、ピーダスン相手にまったく太刀打ちできなかったフィリプセンを、アシストたちは信じた。まさに100%の献身。
「準備期間が十分ではなかったし、復帰後の実戦も少なかったから、自分に対する自信はあまりなかった。でも僕はチームを心から信頼していたし、みんなは素晴らしい仕事をしてくれた。互いが互いを最大限に高め合い、理想的なリードアウトへと持ち込んでくれた」(フィリプセン)
ラスト500m、アルペシンの発射台2人が、すべてを背後に抑え先頭を突き進んだ。フィリプセンは、ただ冷静に、その後輪に身を潜めていた。あとは「チームメイトたちの完璧な仕事」を、完璧な勝利で締めくくるだけ。自らが加速する合図=残り175mの表示板が目に入った瞬間、スプリントを切った。ゆるやかに右へと流れる道で、右のフェンスすれすれのラインを選択し、ラインまでの最短距離を突っ走った。
アルペシンはチーム一丸となってフィリプセンをサポート
チャンスは一度きり
「今回のブエルタでは、スプリンターの僕にとって、チャンスはたった1度きりだと分かっていた」(フィリプセン)
2025年ブエルタは、全日程の半分が山頂フィニッシュで、さっそく2日目から山に突入する。「ピュア」スプリンターがマイヨ・ロホに袖を通せるのは、間違いなくこの第1ステージが唯一絶対の機会だった。しかも例年タイムトライアルで幕を開けるブエルタで、そもそも「ピュア」スプリンターが初日にリーダージャージを着たのは、2010年大会のマーク・カヴェンディッシュ以来だ(ただし、この時のカヴは、チームタイムトライアルの結果にて)。
それほどまでに貴重な勝機を、フィリプセンは逃さなかった。「ブエルタに出たかった。『ブエルタを戦うという挑戦』をしたかった」と、急ピッチで、集中的に準備を重ねてきた。
「ツールでの落車は本当にがっかりさせられた。ずっと長い間そこに向けて努力をしてきたし、大きな目標だったから。辛い挫折だった。新しい目標を見つけなきゃならなかった」(フィリプセン)
フィリプセンは開幕戦勝利と共にマイヨ・ロホにも袖を通した
賭けは成功した。フィリプセンはブエルタ区間4勝目・グランツール通算14勝目と、今年2枚目のグランツールリーダージャージを手に入れた。しかもジロにはいまだ出場経験がないものの……今回めでたく「イタリアでグランツール区間勝利」!また所属チームのアルペシンは、あらゆるチームに先駆けて、2025年3大ツール全ステージ優勝一番乗りだ(ジロ1勝、ツール3勝)。
区間2位には24歳のイーサン・ヴァーノンが飛び込み、新人賞で首位に立った。今春のジロで3位2回、4位2回と奮闘を続けたオールイス・アウラールは、今回も安定の区間3位。ピーダスンは14位と振るわなかった。
出走した全184選手は、誰1人として欠けることなく、今シーズン最後のグランツール初日を切り抜けた。実に179選手がフィリプセンと同集団でステージを終えた。総合系選手たちも、みな危なげなく、翌日からいきなり始まる山岳大戦へと駒を進めた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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