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「明日キャリアを終えたって満足できる」タデイ・ポガチャルの充実した3週間とこの先も続くヴィンゲゴーとのライバル関係|ツール・ド・フランス2025
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介2025年大会はポガチャルが現役最多タイとなる4度目のツール総合優勝を果たした
とどまることを知らない成功の数々。タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)は、もはや義務ともいえるツール・ド・フランスでの勝利に安堵の表情を浮かべた。欲しいものはすべて手に入ったのではないかと思うほどに充実のキャリアを送っているが、4度目のツール制覇に「言葉にならない」と大喜び。戦いを終えて口にした偽らざる思いとともに、走りを振り返ってみる。
「今年は別次元のツールだった」
「もう明日キャリアを終えたって満足できる」。4度目のツール制覇を果たしたポガチャルは、集まった多くの報道陣の前でそう答えた。
実情として2030年までのチームとの契約があり、少しおいて「引退の話は冗談」と述べたところを見る限り、まだまだ走り続ける意思はある様子。それでも、引退なんて口にするくらいにこのツールの満足度は高かったようだ。
ツール制覇に王手をかけた第20ステージのレース後、プレスカンファレンス(記者会見)で「毎年、僕たちは“これまでで最も厳しいツールだ”と言っている。すべてがクレイジー。今年は特に別次元だった」と戦いを振り返った。
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やはりヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ヴィスマ・リースアバイク)は「ライバルの中では一歩上を行く存在」といい、彼との対決やレースを通してのハイスピード、大会後半に集中した悪天候には神経をすり減らしたと打ち明けている。
それでも、ポガチャルは3週間を通して目立ったミスはなかった。ヴィンゲゴーは個人タイムトライアル(第5ステージ)やオタカム(第12ステージ…ステージ2位ではあるのだが)で取りこぼしたが、逆にポガチャルはその2ステージで強さを示した。「体調がよく、脚もよく動いた。何よりレースを楽しめた」あたりを勝因として挙げている。
閉幕2日前に見せた不機嫌さに現場は困惑
ポガチャルにして「最も厳しいツール」を象徴したのは、アルプス山岳最終決戦となった第19ステージだったのではないか。
標高2000m超のラ・プラーニュは冷たい雨に濡れた。ステージを3位で終え、ここまで守ってきたマイヨ・ジョーヌを固いものとしたポガチャルだったけど、とても山岳最終決戦を戦い終えた王者の顔ではなかった。確かに雨と寒さは体力を奪っていた。しかし、あまりにも「晴れやか」とは遠い表情に、実のところ現場は困惑していた。
王者の明らかな不機嫌は、本人に言わせれば「冷雨の山岳コースと連日のポディウム、レース後のテレビ対応、そしてプレスカンファレンスにある」という。そのどれもが、ステージを勝ち、またマイヨ・ジョーヌを着ている以上はいわば順守せねばならない“責務”である。
それらを「疲れる」と表現し、あからさまに不快感を示した姿に、フランスのメディアは怒りとも受け取れる論評を展開。「まるで喜びを嘆いている印象を人々に与えて、ファンは熱狂できるだろうか」と。
また、そんなポガチャルの表情や態度の根底にあるのは「常軌を逸したレベルにあるから」との見方も。今シーズン、パリ~ルーベに挑戦したように「新しい取り組み」を好む彼にとって、ツールはもはや慣れ切ったレースというわけか。クラシックでマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)らと激戦を演じるように、ツールでもヴィンゲゴーらともっともっと熱い戦いがしたかったのではないか…と見る向きもある。
第19ステージ終了後、憔悴した表情を見せるポガチャル
ただ単純に、第19ステージはステージ優勝ができず少々苛立っていたという話もある。個人総合での逆転をあきらめ、ステージ獲りに切り替えていたヴィンゲゴーがピタリと背後につけ、終盤にかけてはポガチャルがみずから牽く場面が多くなった。そのあたりもモヤモヤする要因となっていたよう。ちなみに、ヴィンゲゴーに対し総合リードを4分以上としたことで、大会後半は無理に攻めずディフェンシブに走ったことはポガチャル自身が認めている。
全21ステージを終えて、改めて疲れや不機嫌だった理由を問われたが、「疲れていたのは確かだけど、具体的な理由を言うつもりはない」と明言は避けた。いずれにしても、閉幕2日前のポガチャルの表情には「らしさ」がなかったのは確かだ。
パフォーマンスに自問自答するときも
そんなポガチャルだけれど、ねらい通りに4度目のツール制覇を果たした。
最大のライバルであるヴィンゲゴーとは、最終・第21ステージのスタート時に話をしたのだという。「この5年間、互いに競い合う中で僕たちはどれだけ変わったのだろうとね。お互いのレベルを高め合い、限界まで追い込んで戦い続けてきたんだ。この時代に一緒にレースができて本当に感謝している」。
これだけ強さを見せる彼でさえも、「自分のパフォーマンスに自問自答するときがある」という。特にヴィンゲゴーら強力なライバルとの対峙によって、本当に自分は大丈夫なのかとの思いに駆られるとか。
ポガチャルの活躍を語るうえで欠かせないUAEの強力なチームメイトたち
そんなときに助けになるのがチーム。「いつだって安心させてくれる。レースへのモチベーションを高めてくれるし、それによって僕は全力で走ることができる。全力を出せれば、僕はどんな結果になったって後悔はないんだ」。
ツール期間中は常に気を張りっぱなしだった。全21ステージを走り終えてすぐに次のレースについての質問が飛び交ったけど、現状では何もない状況だという。ツールのことだけに集中し、この3週間を走り続けてきた。
「いったん落ち着いて、すべてがクリアになってから次のレースについては考えるよ。次はいつバイクにまたがるかって? 月曜日(7月28日)は移動して、火曜日(29日)には乗るかもしれないね。ゆっくり走って、コーヒーを飲んで、家で夏を満喫するよ」
ツールを戦い終え、「早く家に帰りたい」と口にしたポガチャル。次のフェーズは、ゆっくりと、時間をかけながら決めていく。
文:福光 俊介 from Paris, France
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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