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タデイ・ポガチャルが2年連続4度目のツール個人総合優勝 初採用パリ・モンマルトル周回ではワウトが衝撃の独走劇!|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第21ステージ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ツールのラストステージでワウトが独走勝利
3週間のフランス旅を締めるパリ帰還はいつだってエモーショナル。だけど、2年ぶりのパリがここまでドラマティックになるとは誰も想像していなかったのではないだろうか。
ツール・ド・フランス2025最終・第21ステージ。パリでの閉幕は、シャンゼリゼ通りに加え、モンマルトルの丘を追加した新周回が採用された。最後のステージ優勝をかけた戦いは、さながらクラシックレースのよう。ワウト・ファンアールト(チーム ヴィスマ・リースアバイク)は雨に濡れる石畳を攻めに攻め、一番にシャンゼリゼへと還ってきた。
「チームが僕を信頼してくれたんだ。みんなが“今日はきっと勝てる”と言ってくれていたんだ。これこそ、一丸となって勝ち取ったステージ優勝だよ」(ワウト)
2年ぶりのパリ帰還
7月5日に北フランスのリールで開幕したツール2025は、ノルマンディ、ブルターニュ、中央山塊と進んで、第2週でピレネーへ。最終・第3週では“魔の山”モン・ヴァントゥ、そしてアルプスと、フランスを広く駆けめぐった。
2年ぶりにパリの街へツールが帰ってきた
いよいよ、残すミッションはパリへの到達だ。昨年は五輪開催を控えていたためパリを離れたけど、2年ぶりに帰還を実現させる。今回は、いつものシャンゼリゼ周回だけでなく、パリ五輪ロードレースでも駆け上がったモンマルトルの丘にも行く。これにより、スプリントで決まることがほとんどだった最終日のステージ優勝争いに、どんな化学反応が起こるのだろうか。
その新たなアプローチは、衝撃を起こすことになる。
祝賀ムードはほんのわずか
最終ステージの始まりは、いつものように祝賀ムードだった。個人総合優勝が濃厚のポガチャルはチームメートと並んで記念撮影。10km地点に設定された4級山岳では、第1ステージでポイントを争うあまりクラッシュしてしまったバンジャマン・トマ(コフィディス)とマッテオ・ヴェルシェ(トタルエネルジー)が再びポイントを争ってみせるなど、それぞれに3週間の終わりを楽しんだ。
今大会圧倒的な力を見せつけたポガチャルとUAE
ただ、今までと違うムードにすぐに気が付くこととなる。リアススタートから20kmもいかないうちに、リーダーチームのUAEチームエミレーツ・XRGがペーシングを開始。はじめのうちはポガチャルがおどけて先頭に出てみたりしていたけど、パリ市街地が近づくにつれて独特の緊張感が漂い始める。
モンマルトル周回を前に総合成績は確定
パリに達すると、まずは1周6.8kmのシャンゼリゼサーキットを3周回。3周目の入口に設定された中間スプリントポイントでは、ジョナタン・ミラン(リドル・トレック)が1位通過。この時点で、完走を条件にポイント賞のマイヨ・ヴェール獲得を決めた。
「プロになったときに、ツールでマイヨ・ヴェールを獲るという目標を設定したんだ。自分が成長した証と、チームが目標に向かって戦い抜いた成果を証明できた。この結果はすごく大きな自信になるよ!」(ミラン)
強まるばかりの雨と、この後に向かうモンマルトルの路面状況を受け、3周目終わりのコントロールライン通過時の計測タイムをもって個人総合成績と所要時間を決定する措置となった。フィニッシュまでの最終50kmは、ステージ優勝をかけたレースとなる。
ステージ狙いと完走目的とに二分したプロトン
モンマルトルサーキットは、16.8kmを3周回。シャンゼリゼサーキットの大部分を走ったのちに、モンマルトルの丘へと向かうルーティング。
それまでの逃げを捕まえて、プロトンはリセットされた状態で1回目の丘越えへ。沿道を大観衆が埋め尽くす中で、ジュリアン・アラフィリップ(チューダー・プロサイクリングチーム)がアタック。それを合図にポガチャルやワウトが追随すると、6人が先頭パックを形成。頂上からの下りで22人が追いついて、勢いのままに2周目へと移る。この段階で、ステージを狙う選手たちと完走狙いの選手たちとに二分されていて、それぞれの目的のもとで残り距離を走る。
ステージ狙いの選手たちは本気だ。2周目にはポガチャルが動き出した。
「モンマルトルへ行く前に総合成績が確定したのはありがたかった。あとはトライしたい選手たちだけのレースになったので、僕も何ができるか試してみたんだ」(ポガチャル)
反応できたのは、ワウト、マッテオ・ジョーゲンソン(チーム ヴィスマ・リースアバイク)、マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)、マッテオ・トレンティン(チューダー・プロサイクリングチーム)、ダヴィデ・バッレリーニ(XDS・アスタナ チーム)の5人。最前線に残った6選手は後続ライダーとの差を着実に広げながら、最終周回へと入った。
最後のモンマルトルへ向かう間、ジョーゲンソンが数回アタック。これをモホリッチやポガチャルが追う。6人の形勢そのまま、最後の上りに突入する。
ワウト「信念を持ち続けることが大変だった」
モンマルトル3回目の登坂で、そのときはやってきた。
ポガチャルを置き去りにし、シャンゼリゼを独り占めしたワウト
前の周回と同様にポガチャルがスピードを上げ、石畳の急坂で他選手を引き離しにかかる。しかし、番手につけたワウトが頂上目前で先頭に立つと、猛然とアタック。最初こそ反応したポガチャルだったが、やがてついていけなくなる。雨に濡れるモンマルトルの石畳は、ワウトに味方をしていた。
「いろんな感情が渦巻いていた。ポガチャルを追い抜いた瞬間は、わずかな隙間が見えたんだ。行くしかなかった。ただ、その後に無線の調子が悪くなってしまって、ポガチャルたちとどの程度差が広がっているのかが分からなくなったんだ。信じられるものは自分の走りだけだった」(ワウト)
下りも攻めたワウトに対し、ポガチャルには残り3kmで後続が追いついた。ジョーゲンソンが抑え役に徹して、ワウトへの追撃の芽を摘み取っていく。
ワウトはひとりでシャンゼリゼ通りへ。大歓声を独り占めしながら、スタンディングでのウイニングセレブレーション。
「僕にとって一番大変だったのが、信念を持ち続けることだった。ツールが始まってからずっと調子が悪くて、実を言うと今日もイマイチだったんだ。でも、チームのみんなが励ましてくれたおかげで最後まで集中して走ることができた。特別な1日になったことを心から感謝したい」(ワウト)
総合トップ3の思いはさまざま
総合成績が確定してからも、モンマルトルで攻め続けたポガチャル。結果的にステージは4位だったけど、マイヨ・ジョーヌはどうしたって揺るがない。2年連続4回目のツール・ド・フランス制覇だ。
総合トップ3のポガチャル、ヴィンゲゴー、リポヴィッツ
「ワウトには脱帽だよ。本当にびっくりしている。良いレースができて僕も満足しているよ。そしてマイヨ・ジョーヌだよね…うれしくて言葉が出ないよ。6年連続で表彰台に立っているけど、今回は特にうれしいよ」(ポガチャル)
勝因を問われると、「うーん…」と一瞬悩んで口を開いた。
「どのステージ優勝が一番良かったかの判断は難しいのだけれど、マイヨ・ジョーヌを狙えると確信したのは第7ステージ(ミュール・ド・ブルターニュで勝利)。あとはみなさんのご覧の通り。第2週で勝つことができ、第3週は少し楽をさせてもらったね(笑)」(ポガチャル)
笑顔のポガチャルとは対照的に、2年連続の2位で終えるヴィンゲゴーは悔しさを隠さない。やはり、取りこぼしたステージが痛かった。
「去年より悔しい2位だ。残念でならないよ。やっぱりあの2日間(第5・第12ステージ)で僕は負けたと思っている。取り返しのつかない結果だった」(ヴィンゲゴー)
3位の表彰台に上ったフロリアン・リポヴィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)は、これからトップ2との距離をどこまで縮めるだろう。いや、追い抜く可能性だって十分にある。
「イメージは何年も前からしていたんだ。表彰台に上がる自分の姿をね。グランツール2回目で、たくさんの学びがあった。今はタデイとヨナスは別次元だけど、いつか彼らのようになれると良いね」(リポヴィッツ)
さまざまな思いが交錯した総合表彰台。ポガチャルは「早く家に帰りたい」と言えば、敗れたヴィンゲゴーは早速ブエルタ・ア・エスパーニャ出場を宣言。戦い抜いた男たちの、ツール閉幕のコントラストはあまりにはっきりとしていた。
これもまた、世界最大の自転車ロードレースが演出するエンディングの形。第112回ツール・ド・フランスは、華やかに幕を閉じた。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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