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グローブスが13人の逃げから単独で抜け出して初優勝。ポガチャルの2年連続4度目の総合優勝がほぼ確実に|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第20ステージ
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸自身初の逃げ切り&ツール区間勝利をあげたグローブス
第112回ツール・ド・フランスは7月26日、ナンチュア〜ポンタルリエ間の184.2kmで第20ステージが行なわれ、レース前半で形成された13人の第1集団に加わったアルペシン・ドゥクーニンクのカーデン・グローブス(オーストラリア)が、残り16.5km地点から単独で抜け出して初優勝した。UAEチームエミレーツ・XRGのタデイ・ポガチャル(スロベニア)は7分04秒遅れのメイン集団の中でゴールし、総合2位以下のライバルとの差を守り抜き、翌日の最終日に2年連続4度目の総合優勝をかけて走る。
特殊なパリを除けば多くの選手にとってラストチャンス
中央山塊、ピレネー、そしてアルプスの難所を越えた選手たちは最終日前日、スイス国境に近いジュラ県を北上。前半に2つの山岳ポイント、ほぼ中間にスプリントポイント、後半にジュラ山系に属する2つの山岳ポイントが設定された。中程度の山岳ステージであり、アタッカーが残り少ない勝利を求めて激しく動いてくることが予想された。
スタートしてしばらくは気温21度の好天だったが、すぐに雨粒が落ちてきた。気温も低下したが、防寒具を用意するほどでなく、選手たちは濡れた路面から跳ね上がる水に顔をしかめながらのレースとなった。
スタート直後、EFエデュケーション・イージーポストのカスパー・アスグリーン(デンマーク)が攻撃に出た。しかし集団を揺さぶる数々のアタックとカウンターアタックに阻まれ、抜け出すことはできなかった。
65km地点でスーダル・クイックステップのパスカル・エインコールン(オランダ)、EFエデュケーション・イージーポストのハリー・スウェニー(オーストラリア)、グルパマ・FDJのロマン・グレゴワール(フランス)、アルペシン・ドゥクーニンクのカーデン・グローブス(オーストラリア)、チューダー・プロサイクリングチームのマッテオ・トレンティン(イタリア)、モビスター チームのイバン・ロメオ(スペイン)、XDS・アスタナ チームのシモーネ・ヴェラスコ(イタリア)、トタルエネルジーのジョルダン・ジェガット(フランス)、チーム ピクニック・ポストNLのフランク・ファンデンブルーク(オランダ)、イスラエル・プレミアテックのジェイク・スチュワート(英国)、UAEチームエミレーツ・XRGのティム・ウェレンス(ベルギー)、チーム ヴィスマ・リースアバイクのマッテオ・ジョーゲンソン(米国)、アルケア・B&Bホテルズのエウェン・コステュー(フランス)の13選手が抜け出し、メイン集団に25秒差をつけた。
荒天のアタックは先頭13人の勝負へ
このうちジェガットは38分42秒遅れの総合順位11位につけるクライマー。同10位ベン・オコーナー(オーストラリア、チーム ジェイコ・アルウラー)から4分08秒遅れている。オコーナーの順位を守るためにチーム ジェイコ・アルウラーのマウロ・シュミット(スイス)がメイン集団を引っ張り始めた。100km地点での差は2分だ。13人の第1集団とメイン集団の差は残り75kmで2分20秒。
残り62.6km地点を頂点とする山岳ポイントでは、ジェガットがアタックして後続との差を広げた。グローブスとスウェニーがこれを追う。ここから13人の勝負が始まった。ポガチャルなどの有力選手が所属するメイン集団は、第1集団がステージ勝利争いの目的で飛び出していると判断し、静観の構えでレースを進めていく。
残り54kmでスウェニーがジェガットを抜き去って先頭に。残された第1集団は15秒差で必死に追いかける。スウェニーが40秒差で残り45kmを切ると再び土砂降りが始まった。スウェニーはラスト30kmでエインコールン、グレゴワール、ファンデンブルーク、グローブス、スチュワートに15秒差。ジェガット、ヴェラスコ、ロメオ、トレンティンは25秒、ジョーゲンソンとウェレンスは45秒で追う。
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レースはグレゴワール、ロメオ、ヴェラスコ、グローブス、スチュワート、ファンデンブルークの6選手が先頭集団として再結成して、最後の勝負へ。残り20kmの下りコーナーでグレゴワールが濡れた路面にスリップして落車、脱落した。隊列が乱れたことをきっかけにグローブス、スチュワート、ファンデンブルークの3人が先頭に。さらにグローブスが残り16.5km地点で単独に。残り10kmで40秒差をつけてゴールを目指す。追いかける選手もバラバラになり、ファンデンブルーク、スチュワート、さらにその後方からヴェラスコ、ジェガットが1人ずつ走るが、単独走行だけになかなかその差が詰まらない。その後ろからは第1集団にいながら取り残された8人が追うものの、グローブスとは50秒の差。
そして独走のグローブスが最後は後方を確認してガッツポーズをしながらステージ優勝。ファンデンブルークは54秒遅れの2位だった。
グローブスがグランツールすべてでステージ優勝
グローブスは単なるスプリンターではないことを証明した。これまでのキャリアで何度もその実力を証明してきたが、ツール・ド・フランスでは初優勝。ブエルタ・ア・エスパーニャでステージ7勝、ジロ・デ・イタリアでステージ2勝を果たしているので、これでグランツールすべてで勝利した選手として114人目になった。
グローブスはチームのスーパースプリンター、ヤスペル・フィリプセン(ベルギー)のリードマン(牽引役)として、ツール・ド・フランスに初めて起用された。そのフィリプセンが初日にスプリント勝利してマイヨ・ジョーヌとポイント賞のマイヨ・ヴェールを獲得。さらに2日目にはチームメートのマチュー・ファンデルプール(オランダ)が優勝して、マイヨ・ジョーヌはファンデルプール、マイヨ・ヴェールはフィリプセンと最高のスタートとなった。
ところが3日目にフィリプセンが落車リタイア。ファンデルプールも3週目の初めに病気のためリタイアした。グローブスにとってはそれを含めてチャンスとなった。この日は得意の平坦ステージではなかったが、逃げ切りを成功させ、アグレッシブな走りでその多才さを証明した。
「グランツールすべてで優勝することは、すべての選手の夢だが、その中でもツール・ド・フランスのステージ優勝は格別。私にとっても初の独走優勝であり、本当に感慨深い」とグローブス。
リードマンで起用されたグローブスがチャンスを掴む
この日は逃げ切りで勝つチャンスだと考えていたという。戦略も考えたとおりにいき、脚力も勝つためのパワーが残っていた。それでも、最後の数kmは思うように楽しめなかったという。
「こんな状況は初めてで、観客の大声援で無線の音が聞き取りにくかった。アドバンテージは30~40秒くらいしかないことが分かっていたので、とにかくできるだけ早くフィニッシュラインに着きたいと思っていた」
今シーズンはグローブスにとってクラシックレースを欠場するなど、浮き沈みの激しいシーズンインだった。だからこそ、ジロ・デ・イタリアで巻き返すことが重要で、第6ステージを制して結果を残した。
「ヤスペルをサポートするためにここに来たけど、彼がリタイアしてしまったので、マチューに焦点を移した。ツール・ド・フランスは序盤から素晴らしい成功を収め、チームは3人で3ステージを制覇することができた。ツール・ド・フランスに出場する機会を与えられたことに心から感謝していて、今回の勝利でその恩返しができた。これを祝って明日はシャンゼリゼ通りを楽しむつもりだ」(グローブス)
ポガチャルの2年連続4度目の総合優勝はほぼ確実
難なく総合1位を守ったようなポガチャルだったが、ゴール後は「今日は全開のレースだった。特に最初の1時間は激しい雨の中、上下左右に走り回った。かなり危険で、マイヨ・ジョーヌさえ危うい状況だったかもしれない」とゴール後にコメントした。
「総合優勝はほぼ確信しているけど、まだなにも言いたくない。チームとともに、パリの最後のフィニッシュラインを越えるまで集中力を保ちたい。パリのような大きく美しい街を走るのはいつも楽しい。それがこのスポーツの最も素晴らしい部分の一つだから。180人の選手たちが何週間も山岳地帯を走り、そして最後には、突如として世界有数の大都市の街路に出るんだから」とマイヨ・ジョーヌを守ったポガチャル。
「迷信深いと言われるかもしれないけど、マイヨ・ヴェールを獲得したというのは明日まで待とうと思う。これは私にとってもチームにとっても、年初からの大きな目標だった。この達成感をゆっくりと味わいたい。ここ数日は私にとって素晴らしい日々だった。むしろ、本当に楽しかった。明日のステージがどうなるかは大きな疑問符が付く。もし集団フィニッシュになったとしたら、混戦に加わってベストスプリントを尽くすつもりだ」と闘志を見せた。
総合3位とヤング・ライダー賞はレッドブル・ボーラ・ハンスグローエのフロリアン・リポヴィッツ(ドイツ)で「大きな安堵」だと一息をついた。
「とても厳しい1日になるだろうと思っていたので、最悪の事態を想定して準備していた。攻撃が多く、本当に厳しい1日だった。今日はチーム全員でいい走りができた。チームは全力を尽くしてくれたし、今日を終えることができて本当にホッとしている。明日はどうなるか分からないけど、厳しい1日になる。スプリント戦にはならないと思うけど、モンマルトルでは激しい展開になる。総合順位でなにも起こらず、最後まで全力で走りきりたいと思っている」
マイヨ・ヴェールを守ったミラン、ヤング・ライダー賞にはリポヴィッツ
7月5日に開幕した大会も27日が最終日。2024年は直後にパリ五輪が開催されたため、史上初めて首都パリにゴールしなかった。今回はパリのシャンゼリゼ通りがゴールとなって50周年。いつものシャンゼリゼの周回コースを3周した後に、パリ五輪で採用されたモンマルトルの丘を回るパリ市街地サーキットを3周してゴールする。そのため通常のスプリント争いではなく、逃げ切り勝ちの可能性が高い。
「最終ステージがどうなるかはまだ分からない。コースも比較的短いので、クラシックレースとはいかない。かなりパンチの効いた走りになると思う。最終サーキットに入ったときの脚の調子と、リスクを考えながら最後の計画を立てたい。私やジョナタン・ナルバエスのように、優勝を狙える選手がチームにはいるよ」とポガチャル。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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