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サイクル ロードレース コラム 2025年7月25日

ベン・オコーナーがアルプス2連戦初日を勝利「ツールでもっともっと勝ちたい」 ポガチャルは総合リード拡大|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第18ステージ

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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4年ぶりのステージ優勝で歓喜のベン・オコーナー

4年ぶりのステージ優勝で歓喜のベン・オコーナー

ツール・ド・フランス2025は最終局面を迎えた。この3週間のすべてを決めるのは、アルプス山脈。ここから2日間はともに、山頂フィニッシュが設定される。2連戦の初日、第18ステージは逃げメンバーの中から抜け出したベン・オコーナー(チーム ジェイコ・アルウラー)が勝利。ツールでは4年ぶりとなるステージ優勝に、身も心も満たされた。

「またこの喜びを味わえるのがたまらないよ! 本当にうれしい! 今日はレースをすべて楽しむことができた。最高の1日になったよ。ツールでもっともっと勝ちたいし、この喜びをたくさん味わいたいんだ」(ベン・オコーナー)

獲得標高5450mのクイーンステージ

プロトンはアルプスまでやってきた。山岳2連戦の初日は、標高2000m級の山々を3つ上る最難関コース。クイーンステージとの呼び声も高く、総合争いは正念場を迎える。

ツール・ド・フランス2025、運命を決するアルプス2連戦の初日がスタート

ツール・ド・フランス2025、運命を決するアルプス2連戦の初日がスタート

獲得標高が今大会最高の5450m。スタートから40kmを過ぎたところから本格的に山道に入り、1つ目の超級山岳グランドン峠(登坂距離21.7km、平均勾配5.1%)へ。頂上からは22kmに及ぶダウンヒルで、下り終えたらすぐに2つ目の超級山岳マドレーヌ峠(19.2km、7.9%)を登坂。今度は25kmのテクニカルな下りが控えていて、その後しばしの平坦路を走ったら最後の砦、ロズ峠である。

ロズ峠の頂上に向かっては、26.4kmを上る。平均勾配は6.5%だが、部分的に10%近い急勾配が待つ。とりわけ、フィニッシュ前4kmでは11%を数える。ロズ峠といえば、ツールで上った直近2回、2020年と2023年ともにタデイ・ポガチャルUAEチームエミレーツ・XRG)が苦戦。特に後者は、ヨナス・ヴィンゲゴーチーム ヴィスマ・リースアバイク)との勝負に敗れ、マイヨ・ジョーヌが遠のいた。"I'm gone, I'm dead"と仲間に無線で伝えたシーンは、衝撃とともに観る者は受け止めた。あれから2年、今回は登坂路が異なるが、果たしてどんなレースとなるだろうか。

マドレーヌ峠でヴィンゲゴーがアタック

レース序盤は、リドル・トレックがプロトンを徹底してコントロール。23.7km地点に設置される中間スプリントポイントで、ジョナタン・ミランを1位通過させるのがねらいだ。ポイント賞のマイヨ・ヴェールが近づいている。ここでポイントを加算し、ジャージの行方を確かなものとしたい。ねらい通りに、ミランは1位通過をしてみせた。

リドルがミッションを終えると、集団からはアタックが頻発。ティム・ウェレンス(UAEチームエミレーツ・XRG)のアクションをきっかけに、先頭グループが形成される。グランドン峠に入ると先頭ライダーのシャッフルがあって、やがてウェレンスとアレクセイ・ルツェンコ(イスラエル・プレミアテック)が先行。個人総合5位につけるプリモシュ・ログリッチレッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がメイン集団からアタックし、その後も数人が追随。中腹で先頭グループは12人まで膨らんだ。頂上では、ポガチャルに代わってマイヨ・アポワを着るレニー・マルティネスバーレーン・ヴィクトリアス)が1位通過している。

ダウンヒルでマッテオ・ジョーゲンソン(チーム ヴィスマ・リースアバイク)とテイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ)が先頭へ。マドレーヌ峠に入ってから6選手が合流すると、メンバーはログリッチやオコーナーのほか、個人総合7位のフェリックス・ガル(デカトロン・AG2Rラモンディアール チーム)と強力に。

ヴィンゲゴー vs ポガチャル、総合上位2人が激突

ヴィンゲゴー vs ポガチャル、総合上位2人が激突

3分程度の差で続いていたメイン集団では、チーム ヴィスマ・リースアバイクがペースを上げ、先頭グループとの差を縮めていく。頂上まで5kmを残して、ヴィンゲゴーが1回目のアタック。ポガチャルがすぐにチェックし、個人総合3位につけるフロリアン・リポヴィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)もテンポで追いかける。ヴィンゲゴーとポガチャルはあっという間に先頭グループまで達して、流れのまま頂上を通過した。

オコーナー「真の強さを証明できた」

マドレーヌ頂上からの下りを終えたところで、オコーナーとエイネル・ルビオ(モビスター チーム)がアタック。少しおいてジョーゲンソンも追いついた。3人を見送ったポガチャルやヴィンゲゴーらは牽制状態になり、合流したばかりのリポヴィッツが単独でアタック。後方ではマドレーヌ登坂後に大きめの集団が形成され、個人総合4位のオスカー・オンリーを押し上げようとチーム ピクニック・ポストNLがペースメイク。猛烈な勢いで、ポガチャルやヴィンゲゴーを飲み込んだ。

「お互いに見合ってしまっていて、誰とも協調できるムードではなかった。僕としてもタデイ(ポガチャル)とは協調できないと思っていたから、集団を待つことにしたんだ」(ヴィンゲゴー)

ロズ峠を上り始めた先頭3人。早々にジョーゲンソンが後退し、それから10kmほどはオコーナーとルビオが先頭交代を繰り返しながら進む。流れが変わったのは、フィニッシュまで16km。オコーナーが一瞬のアタックで、ルビオに対応する隙を与えなかった。

一撃アタックで勝負を決め、勝利へ独走開始のオコーナー

一撃アタックで勝負を決め、勝利へ独走開始のオコーナー

「2年前にチームメートだったフェリックス・ガルがロズ峠で勝っていて、僕にも良いイメージがあった。自分のリズムを保って走りたかったので、少し早いかなと思ったけどアタックしてみたんだ」(オコーナー)

その頃、メイン集団では長く単独追走していたリポヴィッツをキャッチ。そこからはヴィスマ、UAEとが入れ替わって集団を牽引し、着々と人数を絞り込んでいく。すると、残り5kmでリポヴィッツが後退。

「調子は良かった。その分思い切って行き過ぎたのかもしれない。最後の上りで空っぽになってしまったよ」(リポヴィッツ)

アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ・XRG)の牽きで残ったのは、ポガチャル、ヴィンゲゴー、オンリー、ログリッチだけ。

後方での激しい展開をよそに、オコーナーはひとりでロズ峠の頂上へとやってきた。厚い雲と強い雨を切り裂くように、そして沿道の大観衆の声を背に受けて。雄たけびを上げながら、両こぶしを突き上げた。

ツールを勝つのは2021年大会の第9ステージ以来。そのときも山岳でひとり逃げを決めてのものだった。得意の展開に持ち込んで、山頂の熱気を独り占めしてみせた。

「ティーニュで勝った時(2021年大会第9ステージ)は僕の中でも衝撃的だった。必死だったし、勝ってうれしかったんだけどどう言葉に表したらよいのか分からない感情だったんだ。でも今日は本当に楽しかった。これが本来の自分の姿だよ」(オコーナー)

大会初日、第1ステージでは終盤に落車。負傷した膝は、今もまだ痛い。耐えてつかんだ勝利は、興奮よりもホッとする気持ちが一番に来る。

「自分を信じて走り続けてきたのは間違いじゃなかったよ。僕もチームも、真の強さを証明できたと思う」(オコーナー)

ポガチャルはラストスパートでヴィンゲゴー引き離す

緊張感が高まるマイヨ・ジョーヌグループ。残り2kmでヴィンゲゴーが再び動いた。ここもポガチャルが反応。オンリーも粘って、3人で最後の1kmへ。すると、今度はポガチャルがカウンターで仕掛けて、食らいつくヴィンゲゴーを引き離した。最後の500mは単独で駆け上がって、ヴィンゲゴーに9秒差をつけてレースをクローズ。それぞれ、ステージ2位と3位で終えた。

山岳賞でも得点を重ね、2冠の可能性が高まるポガチャル

山岳賞でも得点を重ね、2冠の可能性が高まるポガチャル

「マイヨ・ジョーヌのキープが最優先だった。ヴィスマがマドレーヌ峠からペースを上げていたので、このままついていけば“ステージ優勝ができるかも!”と思ったりもしたけど、今日はベン(オコーナー)が強かったよ。それでも、ジャージをキープできてうれしい。ここまでは順調だよ」(ポガチャル)

ヴィスマはマドレーヌ峠から集団を率い、ヴィンゲゴーを盛り立てた。ロズ峠でもサイモン・イェーツセップ・クスが牽いたが、ポガチャルを崩すところまでは至らず。

「大きな計画を立ててこのステージに臨んでいたのは見ての通りだよ。早めにペースアップすることは予定通りだった。ポガチャルとのタイム差を埋めるところまではいかなかったけど、やれるだけのことはやったんだ。タデイと互角に走れていると思うから、明日またチャレンジしてみるよ」(ヴィンゲゴー)

この結果、ポガチャルとヴィンゲゴーの総合タイム差は4分26秒まで拡大。ポガチャルは山岳賞でも得点を重ね、個人総合との2冠の可能性も膨らんでいる。

また、このステージではオンリーがステージ4位にまとめた一方で、リポヴィッツが遅れ、両選手の総合タイム差が22秒まで近づいた。総合表彰台の残り一枠、そしてマイヨ・ブランをかけた駆け引きは、再び激化しそうだ。

「ポガチャルとヴィンゲゴーに少しでもついていけたことは自信になる。好調を維持できているのが実感できたよ。22秒? 決して大きな差ではないね。明日は全力を尽くすよ」(オンリー)

第19ステージは、当初通過を予定していた1級山岳コル・デ・セジエ周辺で牛の感染症発生にともない、コースを短縮。129.9kmから95kmに変更となる。それでも、“真の山岳最終決戦”には変わりない。最後に上る超級山岳ラ・プラーニュで、マイヨ・ジョーヌ争いの大勢が決する。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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