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ヤングライダー新時代へ“学びの3週間”からマイヨ・ブランへ本気になるフロリアン・リポヴィッツ|ツール・ド・フランス2025
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介現在、ヤングライダー賞でトップに立つフロリアン・リポヴィッツ
「毎日が本当に楽しいんだ」と声を弾ませるのは、ツール・ド・フランス2025第17ステージを終えた時点で個人総合3位につけるフロリアン・リポヴィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)。タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)やレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)らが代々まとってきたヤングライダー賞の証「マイヨ・ブラン」に袖を通し、最終目的地・パリまで運ぼうとしている。今シーズンの活躍から、ツールでも上位入りの可能性が高いと目されていたが、当の本人は「学びの3週間」にするつもりだったという。大きく飛躍を遂げようとしている彼の強さ、そしてツールを通じて変化するマインドにフォーカスしてみる。
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実力で手にしたマイヨ・ブラン
昨年後半からここまでの勢いがすごい。特に今シーズンは、パリ~ニースの個人総合2位に始まり、イツリア・バスクカントリーで同4位、ツール前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネでも同3位に入った。リポヴィッツ本人はツールを前に「リーダーはあくまでプリモシュ(ログリッチ)。できるだけ彼のサポートに努める」と言っていたけど、これだけのハイアベレージを見れば、レースを追っている者であれば彼がエース格としてツールに臨むことは想像ができた。
初のツールもここまで順調だ。第1ステージこそ集団の分断で後方に取り残されてしまったが、以後のステージで着々とリカバリー。オタカムを上った第12ステージでは3位フィニッシュで、総合でも4番手まで上げた。山岳ステージでは、ときにポガチャルとヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ヴィスマ・リースアバイク)による争いに割って入ろうかという勢いも見せる。トップ2ほどの爆発的なアタックこそないけど、テンポで追って粘るスタイルはこのツールでも光っている。
第14ステージでレムコがリタイアしたことで、マイヨ・ブランが舞い込んでくる形になった。「こんな形で受け取るのは想像していなかったし、レムコに申し訳ない」と詫びたリポヴィッツだけど、実力で手にしたのも同然。大崩れすることなく、山岳ステージでは確実に上位フィニッシュを繰り返している。第13ステージの山岳個人タイムトライアルだって、レムコより43秒速くペイラギュードを上っていた。
ログリッチのアシストという役割を飛び越え、今やパリでの総合表彰台も射程圏内
ジュニア時代はバイアスロンのトップ選手
トップライダーの領域に足を踏み入れたリポヴィッツだけど、ロードレーサーとしてのキャリアはまだ6年ほど。ジュニア時代はバイアスロンの選手として強豪ドイツのトップ選手だったバックボーンを持つ。
バイアスロン時代から、ロードバイクは身近な存在だった。夏場のトレーニングには必須アイテムで、コーチでもあった父とピレネーでトレーニングするのが毎年の恒例行事だった。16歳の頃には1週間で800kmを走るまでになり、翌年もピレネーの山道で同程度の距離を走破。「そんなに走れるなら」と父に勧められるがままに参加したグランフォンドでは、「4時間も走る羽目になって散々だった。今でもどうやって走り切ったのか思い出せないくらいだよ」と本人談。
転機は世界的なパンデミックだった。日々の生活にも制限がある中で、バイアスロンに特化したトレーニングに限界を感じた。タイミングを同じくして、自転車競技やトライアスロンのコーチとして活動するルクセンブルク人ダン・ロランの目に留まり、ロードレーサーへの転身を勧められることとなる。
オーストリア籍のUCIコンチネンタルチーム、チロルKTMサイクリングチームで走った3年間では、レース経験の浅さもあって主だったリザルトは残せなかった。それでも、身体能力の高さやテストの数値は常に高い評価。提携関係にあったボーラ・ハンスグローエ(当時)が、将来性を買って採用した。
「心拍数が190まで上がった状態でライフルを撃っていたバイアスロンで培った能力は魅力的だった」とは、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのスポーツディレクターであるロルフ・アルタグ氏。レーサーキャリア最初の数年はよく風邪をひくなど、すぐに体調を崩してはレースの走りに影響させていたというが、高い身体能力は磨けば光る原石だった。
日を追うごとに注目度が高まるリポヴィッツはアルプスでどんな走りを見せてくれるのか?
真価が問われるアルプス決戦
現チームに入って3シーズン目。その能力が本物であることを証明する日々が続いている。ツールで3番手を走っているのだ。チーム首脳陣の見立ては正しかった。
アルタグ氏は、「これから経験を積んでいく段階。ツールに関してはあえて具体的な目標設定はしていなかった」と当初の方針を説明する。それでも、「この状況にはまったく驚いていない」とも。「初のツールで総合表彰台に上がれるとしたら、夢のような話。ただ、私たちの想像をはるか上を進み続けているのがフロリアンなんだ。アルプスでの走りを楽しみにしてほしい」と期待を持たせている。
この活躍に、身の回りの変化が著しい。朝になれば15件近くの取材依頼がチームに届き、レースが終わってもリラックスできる時間はなかなか持てない。大会前には「学びの3週間にしたい」と口にしていた。こうした慌ただしさも、将来への糧とする。
アルプス決戦を前にして「タデイ(ポガチャル)やヨナス(ヴィンゲゴー)と肩を並べる走りがしたい。僕に何ができるかを試すつもりだ」とコメント。そして、「ここまでの成果を誇りに思っている。パリまでこの調子を維持したい」とも。
総合表彰台とマイヨ・ブランへの意志は固まっている。24歳の壮大な挑戦は、あと数日で結びのときを迎える。
文:福光 俊介 from Valence, France
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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