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サイクル ロードレース コラム 2025年7月24日

脱落しかけたミランが我慢の復帰で2勝目…ポイント賞の得点をさらに積み重ねることに成功|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第17ステージ

サイクルロードレースレポート by 山口 和幸
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ミランが今大会2勝目&マイヨ・ヴェールをキープ

ミランが今大会2勝目&マイヨ・ヴェールをキープ

第112回ツール・ド・フランスは7月23日、ボレーヌ〜ヴァランス間の160.4kmで第17ステージが行なわれ、リドル・トレックジョナタン・ミラン(イタリア)がゴール前の落車を回避してスプリント優勝。今大会2勝目で、緑色のリーダージャージ「マイヨ・ヴェール」を争うポイント賞でも得点をさらに積み重ねてトップを守った。UAEチームエミレーツ・XRGタデイ・ポガチャル(スロベニア)はライバル選手と同タイムでゴールし、総合成績の首位を守り、翌日からの2連続アルプス山岳ステージで2年連続4度目の総合優勝をかけて走る。

アタッカーが逃げるか、集団スプリントに持ち込まれるか?

翌日からアルプスの超難関ステージが2つ待ち構えているだけに、この日は総合成績の上位を争う選手らは動かない可能性がある。だからまだステージ勝利していない選手らはチャンスだ。起伏がちなコースだけにどこでアタックするか、そこからゴールまでどんな走りをすれば勝利をものにできるかが試される。47.9km地点に中間スプリントポイントが設定され、66.3km地点と117km地点にカテゴリー4級の丘陵がある。

最終日を除くと今大会最後のスプリンター向けコースとなった第17ステージ

最終日を除くと今大会最後のスプリンター向けコースとなった第17ステージ

一方でスプリンターがねらう集団ゴールスプリントのステージ優勝と、ポイント賞のマイヨ・ヴェール争いも興味深い。ヴァランスは大会で5回目のゴールとなるが2015年はアンドレ・グライペル、2018年はペテル・サガン、2018年はマーク・カヴェンディッシュが優勝。いずれもスーパースプリンターだ。最終ステージのパリがモンマルトルの激坂をコースに加えたことで、選手はバラバラになってゴールすることが想定される。スプリンターが勝てるのはもしかしたらこの日しかない。

今日のステージはミランにとって極めて重要だ。ミランはポイント賞ランキングで251点の1位、ポガチャルが240点で2位、ビニアム・ギルマイが169点で3位。この日は、中間スプリントで20点、フィニッシュで50点、最大で70点が獲得できる。大量点をゲットできるチャンスなのである。

この日はレッドブル・ボーラ・ハンスグローエのダニー・ファンポッペル(オランダ)が出走せず。あと数日でパパになる予定で帰宅することを選択した。スタートしてすぐにEFエデュケーション・イージーポストのヴィンチェンツォ・アルバネーゼ(イタリア)、ウノエックス・モビリティのヨナス・アブラハムセン(ノルウェー)、トタルエネルジーのマチュー・ビュルゴドー(フランス)、グルパマ・FDJのカンタン・パシェ(フランス)がアタック。10km地点で1分30秒差がつくと、リドル・トレック勢がメイン集団の先頭に集まって、ペースメークを始めた。

4選手は47.9km地点の中間スプリントポイントもそのまま突入し、アブラハムセンがビュルゴドーに競り勝って1着通過。アルバネーゼは3着、パシェが4着でこれに続いた。2分後にミランを先頭としたメイン集団が中間スプリントポイントを通過。ミランはここで5着通過の11点を獲得するにとどまった。

ミランを脱落させたいチームがメイン集団をペースアップ

この日最初の山岳ポイントの上りに入ると、イネオス・グレナディアーズのコナー・スウィフト(英国)、さらにはゲラント・トーマス(英国)がメイン集団をハイペースで引き始めた。先頭の4人との差は一気に縮まり30秒に。このスピードの変化についていけない選手がメイン集団からたまらず脱落。ミランもここでマイヨジョーヌのメイン集団から1分以上遅れた2つ目の大集団に残された。しかしここで分断されてしまったらゴール勝負にからめないので、他選手に声がけして全力で前の集団を目指し、なんとか合流する。

一方、ゴール勝負にミランが加わることを望まないチームがメイン集団の先頭に立ってペースアップし、再びミランをメイン集団から脱落させようと試みる。アルペシン・ドゥクーニンクはスプリンターのカーデン・グローブス(オーストラリア)で勝ちを取りに行く作戦。ティム・メルリール(ベルギー)がいるスーダル・クイックステップビニヤム・ギルマイ(エリトリア)がいるアンテルマルシェ・ワンティも同様だ。さらにチューダー・プロサイクリングチームも同調した。ミランとしては頑張りどころで、なんとか食らいついていく。チームメイトのアシストもあってミランはメイン集団にとどまることができたのが、この日のポイントだ。

先頭の4選手は一時30秒差まで迫られたが、再び1分差に。そして2つ目の山岳の上りが始まるとメイン集団からチーム ヴィスマ・リースアバイクワウト・ファンアールト(ベルギー)が単独アタックした。ファンアールトはメカトラブルによる自転車交換で一時は1人で脱落していたが、集団に復帰し、さらに残り46km地点から先行し、先頭の4選手を追いかけ始めた。

レース終盤はわずかな雨で路面が濡れた状態。メイン集団は実力のあるファンアールトに逃げられると勝利をさらわれる可能性が高くなるので、リドル・トレックとスーダル・クイックステップが協力してファンアールトを吸収。先頭で逃げ続ける4選手も残り30kmで1分07秒差として、メイン集団は残り距離を考えながらその差を詰めていく。

残り20kmで30秒差となり、メイン集団としてはいつでも捉えられる距離に詰めた。各チームのエーススプリンターはこのメイン集団にいる。この日はアタッカーの努力もむなしく、やはり集団スプリント勝負だ。残り11.5kmで集団が近づいていることを察知した4選手はここで協調態勢を終わらせ、アタック合戦で逃げを試みる。

アブラハムセンは単独になりながらもラスト4.3kmまで逃げ続けた

アブラハムセンは単独になりながらもラスト4.3kmまで逃げ続けた

アブラハムセンが単独になり、残り10kmを残されたパワーで走り切ろうと試みる。後続集団はアルバネーゼ、ビュルゴドー、パシェの3選手を吸収し、アブラハムセンも計ったように残り4.3kmで吸収した。ステージ優勝争いはゴール勝負と思われた残り1km地点で、集団の先頭から20人ほど後ろで大落車が発生。ミランは難を逃れたが、ギルマイがアスファルトに叩きつけられた。最後はわずか10人ほどしかスプリントに加わることができず、ミランがトップフィニッシュした。

ゴールまで規定の距離を切ってから発生した不可抗力の遅れは、その発生時にいた集団と同じタイムが与えられるため、立ち往生を余儀なくされた選手らはゆっくりしたペースでゴール。このステージでミランのためにアシストした選手らは誇らしそうにウイニングランをしてゴールラインを切った。

とても楽しく走れている。まだ上りもあるけどね(ミラン)

ミランは第8ステージに続く2勝目。ポイント賞争いでは中間スプリントポイントで11点、ゴールの1位で50点を獲得し、この日までの合計で312点。ポガチャルはこの日の獲得がなく、2人の差は72点となった。

ゴールラインを越えた瞬間、笑顔がはじけたミラン

ゴールラインを越えた瞬間、笑顔がはじけたミラン

「言葉では言い表せないくらいにうれしい。1人でメイン集団に追いついたわけではなく、チームメイトの助けがあって生き延びたので、本当に感謝している。今日は本当にタフなステージだった」とミラン。

ゴールスプリントの直前にクラッシュがあったことは知らかなったという。チームメイトがベストポジションに誘導してくれて、ミランは集中して前を向いて走るだけだった。

「まだ厳しい日々が続き、登りもたくさんある。でも、とても楽しく走ることができて、今の調子には本当に満足している。中間スプリントと最終ステージに向けて、毎日のように戦い続けるつもりだ。ポイントランキングの差は少し広がって、少しリラックスできている。これからも戦い続けて、できるだけ多くのポイントを獲得できるように頑張る」(ミラン)

マイヨ・ジョーヌを守ったポガチャルは、かなり静かなステージであったとはいえ、レースは高速で、最後は悪天候に見舞われたので楽ではなかったという。

マイヨ・ジョーヌを守ったポガチャル

マイヨ・ジョーヌを守ったポガチャル

「目標はマイヨ・ジョーヌを守ることだけ。明日はヴィスマが逃げに加わろうとし、全ての登りを全力で攻めてくる。勝負どころの最後のラ・ロズ峠ではあらゆる手段を使って差をつけようとしてくるだろう。ボクはあらゆる事態に備えている。ラ・ロズ峠はよく知っている。美しく、これまで上った中で最も難しいヒルクライムの一つ」(ポガチャル)

翌日の第18ステージはヴィフからクーシュベルまでの171.5km山岳コース。62.3km地点に標高1924mのグランドン峠、104.6km地点に標高2000mのマドレーヌ峠、そしてゴールは標高2304mのスキーリゾート、クーシュベル。すべてカテゴリー超級の山岳ポイントだ。総合成績とともに山岳賞も激しい戦いが繰り広げられるはず。2025ツール・ド・フランスはいよいよ大詰めだ。

文:山口 和幸

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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