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サイクル ロードレース コラム 2025年7月23日

「覚悟を決めた」ヴァランタン・パレパントルが“プロヴァンスの巨人”征服!フランスに今大会初勝利をもたらす|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第16ステージ

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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ヴァランタン・パレパントルがついにフランス人選手として今大会初のステージ優勝

ヴァランタン・パレパントルがついにフランス人選手として今大会初のステージ優勝

難攻不落の“巨人”は今回も微動だにせず、ただただ選手たちを苦しめた。魔の山、モン・ヴァントゥ。長く語り継がれる名勝負の宝庫に、またひとつ歴史が刻まれた。

ツール・ド・フランス2025第3週の初日、第16ステージは実質の山岳一発勝負。モン・ヴァントゥ頂上を目指した戦いは逃げメンバーによるステージ優勝争いになって、ヴァランタン・パレパントル(スーダル・クイックステップ)が一番登頂。自身初のツール勝利は、今大会のフランス勢最初の勝ち星にもなった。

「覚悟を決めて臨んでいた。そうでもしないと勝てないと思っていたからね。ツール・ド・フランスで勝つことを夢見ていたけど、実際に勝ってみたら不思議な感覚だよ。それもモン・ヴァントゥでね。限られた人しかできない経験を僕は果たしたんだ」(V・パレパントル)

数々の歴史が宿る“魔の山”

最後の1週間を迎える。ここからは南仏とアルプスをめぐり、最終目的地・パリへと到達する。第3週の最初、第16ステージは171.5kmに設定される。スタートから130kmは平坦。その後急激に趣きが変わって、上り基調に。最後の最後に試練が待っていて、“プロヴァンスの巨人”モン・ヴァントゥを上る。登坂距離にして15.7km、平均勾配は8.8%。頂上手前3kmは10%前後の急勾配で、風の強さも特徴的。木々がまったく存在しない光景は、異様としか言いようがない。

第16ステージの舞台はツールを語る上で外せない“魔の山”、モン・ヴァントゥ

第16ステージの舞台はツールを語る上で外せない“魔の山”、モン・ヴァントゥ

“魔の山”と言われるように、ツールにおけるモン・ヴァントゥは驚きの歴史とともにある。近年であれば、2016年大会の第12ステージで、クリストファー・フルーム(現イスラエル・プレミアテック)が壊れたバイクを置いてランで駆け上がった。

2021年大会の第11ステージでは、ヨナス・ヴィンゲゴーチーム ヴィスマ・リースアバイク)の攻撃にタデイ・ポガチャルUAEチームエミレーツ・XRG)が対応しきれず、一時リードを許した。今に続く2人のライバルストーリーは、あの日が大きなきっかけだったことは確かだ。

マチューが大会を離脱

2016年と同様に、モンペリエをスタート。マチュー・ファンデルプールアルペシン・ドゥクーニンク)が肺炎により、出走を断念。165人がモン・ヴァントゥを目指す。

マチュー無念の離脱。モン・ヴァントゥに挑む165人が出発

マチュー無念の離脱。モン・ヴァントゥに挑む165人が出発

ここ数ステージと同様、すぐには逃げが決まらない。10km地点で一時40人ほどが前に出たが、それも集団に引き戻されている。

そこから5kmほど進んだところで3人が抜け出すと、この選手たちをめがけてメイン集団からアタックが散発。完全に決まるところまではいかず、先頭3人と集団とが30秒程度のタイム差で長く続いた。

ようやくその状況が鎮まったのが、70km過ぎ。集団から飛び出した選手たちが前を行く3人に追いついた。それまでメイン集団の統率を図っていたUAEチームエミレーツ・XRGからもメンバーが送り込まれたことで、流れが変化。形成された先頭グループは、最大36人まで膨らんだ。

フィニッシュまで65kmを残すところで、大人数のグループから8人がリードを開始。新たな先頭パックとなった。中間スプリントポイントは、ヨナス・アブラハムセン(ウノエックス・モビリティ)が1位通過。ポイント付与の15位までは、逃げのメンバーが占めた。

V・パレパントル「モン・ヴァントゥで勝てたことは生涯の喜び」

先行する8選手は、モン・ヴァントゥを前に追走グループに対し約1分30秒のリード。メイン集団とは7分近く広がっており、前を行く選手たちからステージ優勝者が出る可能性が高まっていた。

迎えたモン・ヴァントゥ。第14ステージを勝ったテイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ)がペースを上げて先頭グループを崩すと、ジュリアン・アラフィリップ(チューダー・プロサイクリングチーム)やエンリク・マスモビスター チーム)、シモーネ・ヴェラスコ(XDS・アスタナ チーム)が続く。その後ろでは、V・パレパントルが追走グループから抜け出すことに成功。ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)らが追随し、前を走る選手たちとの差を着実に縮めていく。

先頭ではマスが独走態勢に入ったが、残り10kmを切ったあたりからV・パレパントルやヒーリーがアタックを打ち合い、マスに迫っていく。サンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)も加わって、フィニッシュ前4kmで4人がまとまった。

ステージ優勝をかけた駆け引きは、残り3kmでのV・パレパントルのアタックから本格化。すかさずヒーリーがチェックする。

「僕もヒーリーもアタックで勝負を決める脚が残っていなかった。だから、スプリントに賭けることにしたんだ」(V・パレパントル)

2人にブイトラゴが追いつき、3人で最後の1kmを迎えた。この山特有の強風が彼らに襲い掛かる。仕掛けどころを探る最中に、V・パレパントルに強力な援軍が合流した。

「イラン(ファンウィルデル)が戻ってきてくれて、すごく勇気が出た。最後の1kmは風が強くて、誰も前に出たがらなかったんだ。でも、彼が進んで前に出てくれたおかげで、僕は最後に集中することができた」(V・パレパントル)

ファンウィルデルが「ついてこい」との合図でV・パレパントルらを引き上げると、いよいよ残りは200m。先に腰を上げたのはヒーリーだった。

「フィニッシュ前は急勾配だと分かっていたので、ヒーリーが先に仕掛けるのを待っていた。彼の動きが僕にとっての合図。最終コーナーを抜けたら前に出る…そのイメージはできていたよ」(V・パレパントル)

最後のスプリントでヒーリーを抜き去り、喜びのフィニッシュを飾ったパレパントル

最後のスプリントでヒーリーを抜き去り、喜びのフィニッシュを飾ったパレパントル

ねらい通りに、モン・ヴァントゥ頂上へ一番に到達。ツール初勝利、そして今大会のフランス勢最初のステージ優勝だ。

「今までツールで勝つフランス人選手を何人も見てきたけど、ただただすごいと思うばかりだった。彼らに並んだとまでは言わないけど、僕も同じように勝つことができたんだ。モン・ヴァントゥは自転車に乗っている人なら誰もが知っている伝説的な場所。そこで勝てたことは、生涯の喜びになると思う」(V・パレパントル)

スーダル・クイックステップは、絶対的な総合エースのレムコ・エヴェネプールが第14ステージでリタイア。方針転換を余儀なくされていた中で、起死回生の一撃。当初はツールの出場予定はなかったという24歳が、大会後半戦で大きな仕事を果たしてみせた。

ヴィンゲゴーとポガチャルは最後まで譲らず山頂へ

メイン集団は、チーム ヴィスマ・リースアバイクの牽引でモン・ヴァントゥへ。アシスト陣がペースを上げて人数を絞り込むと、残り8kmでヴィンゲゴーが先手を打った。

「チームメートが全力で働いてくれた。それに応えるのが僕の仕事だと思ってアタックしたんだ」(ヴィンゲゴー)

ポガチャルがすかさずチェックし、そこからはトップ2のマッチアップ。ヴィンゲゴーは、前待ちのティシュ・ベノートとヴィクトル・カンペナールツのペーシングを受けると、残り4kmから数回のアタック。ポガチャルも応戦しカウンターを仕掛けたが、お互い譲らず。状勢そのままに、フィニッシュ前までやってきた。

互いにカウンターを繰り出し、最後まで激しい攻防を続けたヴィンゲゴーとポガチャル

互いにカウンターを繰り出し、最後まで激しい攻防を続けたヴィンゲゴーとポガチャル

「今日もヨナスは強かった。もちろんヴィスマもね。幸い、僕は2021年より力が向上していて、彼らの攻撃にも対処できるようになったんだ。今日の目標はマイヨ・ジョーヌをキープすることだったから、その通りに走り終えられて満足しているよ」(ポガチャル)

ポガチャルはフィニッシュ前200mからのスプリントで、ヴィンゲゴーに2秒差をつけてレース完了。このステージを終えた時点での総合タイム差を4分15秒とした。

終わってみれば、ポガチャルは勝ったV・パレパントルから43秒差のフィニッシュ。モン・ヴァントゥの入口では7分近い差があったことを思うと、改めてトップ2の駆け引きがすさまじいことを思わせる。レース後には「ステージ優勝も狙えたんじゃない?」なんて報道陣からのツッコミも。

「いやいや、さすがに無理だったよ(笑)。残り1kmで初めてトップを走る選手たちが見えたのだけれど、あの差を追いつくのは難しかった。僕としては“これ以上は速く走れない”という領域で上っていたつもりだよ」(ポガチャル)

ポガチャルは山岳賞争いでも再び首位浮上。マイヨ・アポワへ本気のレニー・マルティネス(バーレーン・ヴィクトリアス)は、残りのステージをどう戦うだろう。

次、第17ステージは久々の平坦区間。とはいっても、丘越えやミストラルといった要素が絡んできそうで、セオリー通りにスプリントとなるかは未知数。アルプスを前に、スピードマンやアタッカーが大急ぎで勝負を試みる1日になる。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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