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サイクル ロードレース コラム 2025年7月20日

テイメン・アレンスマンが夢舞台で会心の勝利「人生最高のコンディションだった!」 ポガチャルはヴィンゲゴーの攻撃に動じず|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第14ステージ

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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今大会最難関ステージで初出場のアレンスマンが勝利

今大会最難関ステージで初出場のアレンスマンが勝利

ピレネー3連戦のトリは、伝統の4峠総ざらい。ツール2025で一番厳しいコースとの評もあった難コースは、その見立てに違わずハードなレースを演出した。

25歳にしてグランツール実績が豊富なテイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ)は、夢のツール出場をかなえ胸がいっぱいだったという。「ツールを走れるだけで満足」という気持ちを少しばかり奮い立たせて、ピレネーの山々に挑んだ。逃げて、逃げて、逃げて。第14ステージのフィニッシュ地、シューペルバニエールの頂に一番にたどり着いてみせた。

「もううれしくて…何と言って良いのか分からないよ。ジロとブエルタで満足できるリザルトを残して、“次はツールだ”とずっと思っていたんだ。ツールを走れているだけで感動しているくらいなのに、ステージ優勝までしてしまった。しかもこのステージでね…クレイジーだよ!」(アレンスマン)

39年前の第13ステージと同じルート

ピレネー最終日。ツールではおなじみのポーの街を出発し、中盤まで平坦路を進んだら、まずは超級山岳トゥルマレ(登坂距離19km、平均勾配7.4%)へ。標高2115mまで駆け上がると、一度下って2級山岳アスパン(5km、7.6%)、1級ペイラスルド(7.1km、7.8%)を立て続けに上る。

そして最後は、超級山岳リュション・シューペルバニエール。登坂距離12.4km、平均勾配7.3%の上りは、大小のコーナーが連続。中腹とフィニッシュ前で10%超の急坂区間もあって、なかなかに登坂リズムを得るのが難しい。レース距離は182.6kmで、獲得標高は4950m。間違いなく、第2週のハイライトステージである。

ツールではおなじみのポーの街を出発し、シューペルバニエールへ向かうルートは、1986年大会の第13ステージと同じ。ローラン・フィニョンが出走を取りやめ、ざわつく中で勝利したのはグレッグ・レモンだった。その時点で個人総合首位を走っていたベルナール・イノーに迫る好走は、数日後のマイヨ・ジョーヌ奪取へとつながる。あれから39年、今度はどんなドラマが待っているだろうか。

レムコがマイヨ・ブランを着たままリタイア

スタート時の雨は、レースの進行とともに回復傾向に。それが関係しているかは分からないが、逃げがなかなか決まらない。次々とアタッカーが仕掛けて、そこにまぎれてマイヨ・ヴェールのジョナタン・ミランリドル・トレック)が動いてみたり。でも、どれも集団の容認を得るところまでは至らない。

逃げは決まらぬまま、70.1km地点に置かれた中間スプリントポイントが近づいてきた。こうなるとプロトンはスプリントに向けた態勢を整えて、ポイントゲットに集中する。逃げには失敗したミランだが、スプリントではきっちり1位通過。20点を加算した。ステージ優勝を繰り返すタデイ・ポガチャルUAEチームエミレーツ・XRG)が肉薄しているポイント賞争い。何とか勝って「スプリンターここにあり」といきたい。

超級トゥルマレでエヴェネプールが失速、無念のリタイア

超級トゥルマレでエヴェネプールが失速、無念のリタイア

すぐに山岳地帯へと入っていき、まずは超級トゥルマレへ。上り始めてすぐ、どうもレムコ・エヴェネプールスーダル・クイックステップ)の様子がおかしい。集団内のポジションを下げているばかりか、UAEチームエミレーツ・XRGのつくるペースに合わせられない。やがて集団から遅れ、今にも止まりそうなスピードになってしまった。チームカーが横について、何やら話し合っている。この直後、走るのをやめた。前日の山岳個人タイムトライアルでは、後にスタートしたヨナス・ヴィンゲゴーチーム ヴィスマ・リースアバイク)にパスされる衝撃の出来事があったけれど…コンディションが相当悪かったのだろうか。

レムコが集団から遅れた段階で、他のメンバーにはチームカーから「自分たちのレースをするように」との指示が無線でなされていたという。

フィニッシュまで36kmを残してアレンスマンが独走

こうしている間にもレースは動いていて、アレンスマンのペースアップをきっかけに数人が集団から抜け出した。そのまま逃げの構えになって、メンバーの増減やシャッフルをしながらメイン集団との差を広げていく。トゥルマレの頂上まで9kmを残す段階で、先頭グループは20人。そこからレニー・マルティネスバーレーン・ヴィクトリアス)が飛び出した。

山岳賞2番手につけていて、現況では首位のポガチャルの代役としてマイヨ・アポワを着る。実際にトップに立とうと、山岳ポイントめがけてハイペースで上っていく。積極性が奏功して、トゥルマレでは1位通過の「ジャック・ゴデ賞」、続く2級アスパンではマイヨ・アポワ50周年記念の賞金5000ユーロをそれぞれ獲得。このステージを終えた時点で、山岳賞首位に立った。

「スタート前のプランを実行したんだ。今日のところは大成功。もっと得点を稼げたら良かったのだけれど、トゥルマレとアスパンの2カ所で1位通過できたことは喜びたい。マイヨ・アポワを着続けられそうかって? 山岳ステージでトライを繰り返すつもりだよ!」(マルティネス)

山岳賞とジャック・ゴデ賞を獲得したレニー・マルティネス

山岳賞とジャック・ゴデ賞を獲得したレニー・マルティネス

アスパンからの下りで、セップ・クス(チーム ヴィスマ・リースアバイク)とヴァランタン・パレパントル(スーダル・クイックステップ)がマルティネスに合流。さらに、個人総合8位でスタートしたトビアス・ヨハンネセン(ウノエックス・モビリティ)が、アレンスマンとカルロス・ロドリゲスのイネオス勢と追走。1級ペイラスルドを前に追いついた。

すると、アレンスマンが上りの入口でスピードアップ。逃げのメンバーを引き離し、独走態勢を固める。ペイラスルド頂上を1位で通過し、ダウンヒルも無難にクリア。好ペースを刻み続け、シューペルバニエールに入る頃にはヨハンネセンやマルティネスらのパックに2分近いタイム差をつけた。メイン集団は、その1分後ろを走る。

「ペイラスルドを上る段階で、このままだとタデイやヨナスに追いつかれてしまうと感じたんだ。残り距離を考えるとアタックするには早すぎる気はしていたけど、勝つことを思ったらやるしかないなと。そこからは、沿道からの声援を力に変えて必死に上ったよ」(アレンスマン)

初のツール出場で大きな勝利

大観衆が待つシューペルバニエールをトップで駆け上がった。追走メンバーはすべてメイン集団に捕まったものの、アレンスマンは十分なタイム差をキープし続ける。

「フィニッシュが見えてきたとき、自分がやり遂げたことにただただ驚いたよ。初めてのツールで勝てるなんて」(アレンスマン)

濃い霧が立ち込めるシューペルバニエールの頂上。鮮やかに逃げ切ったアレンスマンの姿ばかりは、陰ることなくはっきりと誰の目にも届いた。

不調から一転、人生最高のコンディションでフィニッシュしたアレンスマン

不調から一転、人生最高のコンディションでフィニッシュしたアレンスマン

ブエルタ・ア・エスパーニャでは2022年に個人総合5位、ジロ・デ・イタリアでは2023年・2024年と同6位の実績を持つ。総合力の高さに定評がありながら、ツール出場は意外にもこれが初めて。今年もジロに出場したがいまひとつ走りがかみ合わず、ツールまでの間には体調を崩していた。それでも、今大会に入ると第10ステージで2位。そのあたりから、調子が上向いていたという。

「勝ったから言うわけじゃないけど、今日は人生最高のコンディションだったと思う。脚の状態が今までにないくらい良かったんだ。フィニッシュの手前でものすごく苦しくなったんだけど、それでも脚は止まらなかった。調子の良い日に勝つことができて最高の気分だよ」(アレンスマン)

ポガチャルとヴィンゲゴーがマッチスプリントで競る

メイン集団は主にUAEがコントロールを担って、シューペルバニエールまでは淡々と進行。残り8kmを切ったところで個人総合9位のフェリックス・ガル(デカトロン・AG2Rラモンディアール チーム)がアタックし、それを機に勝負ムードが高まった。

フィニッシュまで4km、ヴィンゲゴーが先手を打った。スッと前に出ると、それをポガチャルがシッティングで追う。少しおいて個人総合4位のフロリアン・リポヴィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)も追いついた。残り2.5kmで、今度はポガチャルがアタック。追随したヴィンゲゴーは直後にカウンターで抵抗するも、ここもポガチャルがチェック。

リポヴィッツを引き離した2人は、そのままフィニッシュ前までやってきて、最後はマッチスプリント。残り200mで踏み込んだポガチャルが先着し、ステージ2位。ヴィンゲゴーが3位で続いた。

残り200mでポガチャル先着、ヴィンゲゴーを抑えステージ2位

残り200mでポガチャル先着、ヴィンゲゴーを抑えステージ2位

「今日は1日を通して自分たちのリズムで走ることができた。上りが厳しかったり、天気がイマイチだったりで、僕にとっては厳しいステージだったけどね。正直、下りはすごく怖かった」(ポガチャル)

ヴィンゲゴーとのマッチアップは、なかなかに緊張感のあるものだったよう。総合リードはあれど、いま一度気を引き締める必要性を実感しているみたいだ。

「ヨナスは本当に強かった。今日の僕の脚では引き離せないと思ったから、スプリントに切り替えたんだ。彼はアルプスでもアタックを繰り返すだろうね。僕も集中して走るよ」(ポガチャル)

そのヴィンゲゴーがアタックの意図を明かす。ねらいはステージ優勝だったという。

「UAEのペーシングがポガチャルに勝たせるためのもののように思えたんだ。僕もステージ優勝を目標にしていたから、勝負するつもりだった。ただ、シューペルバニエールでタデイが動かないので、ならばアタックしようと。ステージ優勝はできなかったけど、個人的には良い走りができたよ。満足している」(ヴィンゲゴー)

激動のピレネー3連戦を終えて、総合では1位ポガチャルと2位ヴィンゲゴーのタイム差が4分13秒。レムコのリタイアと、このステージの結果で3位以下に変動があって、リポヴィッツが総合表彰台圏内に浮上。マイヨ・ブランにも袖を通している。ポガチャルとは7分53秒差。

大会第2週は残り1日。第15ステージは、3つの丘越えが控える169.3km。逃げが有利との大方の予想である。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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