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「歴史の幸せな側に立つことができた!」タデイ・ポガチャルがオタカムで3年前の雪辱 圧倒的な登坂でマイヨ・ジョーヌ|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第12ステージ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ポガチャルが今大会3勝目、ツール通算20勝目をオタカムで達成
初めてその山を見たとき、自分向きだと悟ったという。レースで上るのが楽しみで、そこで勝負を決めたいとさえ思っていた。だけど、当時はうまくいかなかった。何なら、敗北を受け入れる地になった。
あれから3年。かつて敗れた山で、今度は誰をも寄せ付けなかった。超級山岳オタカムを一番登頂。タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)は、今大会のピレネー3連戦初日・第12ステージで勝利。前回の登坂時に土を付けられたヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ヴィスマ・リースアバイク)に、今度は2分以上の大差をつけて。アタック一発で勝負を決めて、マイヨ・ジョーヌもたぐり寄せた。
「今日は歴史の幸せな側に立つことができたよ。このステージはずっと頭にあったんだ。ここで勝ちたいと思っていた。ねらい通りに仕事を果たせて、ライバルたちにも差をつけることができた。本当にうれしいステージ優勝だよ!」(ポガチャル)
メルクスが最後にツール勝利を挙げた街を出発
ツール一行は、いよいよピレネーへと入っていく。ここから3日間は急峻な山岳での大勝負だ。
歴史が息づく街・オーシュから、ピレネー3連戦がスタート
その初日。スタート地オーシュは、1975年大会でエディ・メルクスがツール最後の勝利を飾った街。また、2020年に亡くなったチーム イネオスのスポーツディレクター、ニコラ・ポルタルの故郷でもある。遺された家族は、ポルタルが亡くなった当時住んでいたアンドラを引き上げ、オーシュで生活を送っているという。そんなエモーショナルな街から、オタカムの頂上を目指す。今大会最初の超級山岳だ。
前日のステージ終盤に落車したポガチャルは、左腕の打撲と擦り傷、左腰・左肩を打撲した。幸い症状は軽く、レース続行に支障がないことをチームを通して発表している。
実際に、コンディションに不安がないことは数時間後に明らかとなる。
ヒーリーが遅れマイヨ・ジョーヌを手放す
前日のステージを勝ったヨナス・アブラハムセン(ウノエックス・モビリティ)による、2日連続のファーストアタックで180.6kmの戦いが幕を開けた。しばらくはアタックとキャッチの繰り返しで、その中にはマイヨ・ヴェールのジョナタン・ミラン(リドル・トレック)やビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)といったスプリンターの姿もあった。
こうした流れの中から、40人近い選手たちが先行を開始したのが20km地点手前。それからもメイン集団からは逃げを狙う選手たちが続々と現れて、先頭グループは最大52人まで膨らんだ。
さすがにこの状況は看過できないと、メイン集団も2分程度のタイム差で続く。マイヨ・ジョーヌでスタートしたベン・ヒーリー擁するEFエデュケーション・イージーポストや、UAEチームエミレーツ・XRG、ウノエックス・モビリティがアシストを出し合ってペースを構築。最初の1時間は51.9kmのハイペースとなった。
ペースダウンで集団から遅れたヒーリーはこのステージでマイヨ・ジョーヌを手放すことに
フィニッシュまで60kmを切って、本格的に山岳区間へ。手始めに1級山岳コル・デュ・スロールを上り始めると、先頭グループ、メイン集団ともに人数が激減。先頭ではマイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)ら5人に絞られ、2分後ろを走るメイン集団ではチーム ヴィスマ・リースアバイクが牽引。個人総合3位でスタートしたレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)や同6位のケヴィン・ヴォークラン(アルケア・B&Bホテルズ)がポジションを下げつつも数十秒差にとどめて上り続ける一方、マイヨ・ジョーヌのヒーリーが苦しくなった。集団からこぼれると、完全にペースダウン。この段階で、ジャージを手放すことが決定的になった。
コル・デュ・スロールはウッズが1位通過するが、その後の下りでブリュノ・アルミライユ(デカトロン・AG2Rラモンディアル チーム)が加速して、単独で先頭に。その勢いのまま2級山岳コル・デ・ボルデールも1番で通過した。
大観衆のオタカムを一番に駆け上がったポガチャル
コル・デ・ボルデール頂上からは、長い下り。この区間でレムコやヴォークランがメイン集団に復帰し、さらにはUAEやヴィスマのアシスト陣も戻った。フィニッシュまで20kmとなったところで、メイン集団は27人。単独で先頭を行くアルミライユを残し、逃げていた選手たちもすべて捕まえた。
オタカムの入口で、アルミライユとメイン集団との差は1分40秒。頂上までは13.8km、平均勾配7.8%の山道に勝負はゆだねられる。
先手を打ったのはUAEだった。4人が集団前方を固めてペースを上げると、ヴィスマのアシスト陣が軒並み後退。これで完全に優位に立ったと見るや、ジョナタン・ナルバエスが猛然とスピードアップ。ついていけたのはポガチャルとヴィンゲゴーだけだった。
そして、その瞬間がやってきた。残り12km。ナルバエスからバトンタッチされたアンカーのポガチャルが、満を持してアタック。一瞬の加速は、ヴィンゲゴーをもってしても続くことはできない。
観客の歓声に包まれながら独走するポガチャル
両者の差は、あっという間に広がった。残り10kmで15秒だったのが、5km進むと1分5秒。フィニッシュを前に2分以上。大観衆が沿道を固めたオタカムの上りを、最後の最後まで力強く駆けたポガチャルは、今大会3勝目、ツール通算20勝目となるステージ優勝。ホッとしたような笑顔で、フィニッシュラインを通過した。
「最後まで冷静に走ることができたよ。レースを通して僕たちのチームが主導権を握っていたんだ。何としても勝ちたかった。それもオタカムで…最高の気分だよ!」(ポガチャル)
2022年の悔しさを胸に、ポガチャルがオタカムで見事な勝利
今回と同様にオタカムを上った2022年大会の第18ステージでは、ヴィンゲゴーを盛り立てるユンボ・ヴィスマ(現チーム ヴィスマ・リースアバイク)のチーム戦術に屈した。「試走をしてかなり気に入っていた」登坂区間だったのに、ライバルに勝てず、何よりマイヨ・ジョーヌに手が届かないという事実を付きつけられる結果になった。
「実はもうすっかり忘れていたんだけどね」と笑うポガチャル。周りがあまりに「今日はリベンジだ!」と言うので、やっとその気になったとか。ただ、「でもね…」と一呼吸おいて切り出す。
「復讐とか、リベンジとか、そういうことよりも純粋にオタカムで勝ちたい、それが一番だったんだ。僕はこの山が本当に大好き。3年前のこともあるけど、今の僕には別の話。とにかく今日を勝ちたかったんだ」(ポガチャル)
その意味では、ねらい通りのステージ優勝、ねらい通りにマイヨ・ジョーヌということだろう。さあ、ここからはどう戦っていくのだろう。もっとも、前日負った傷の具合も気になる。
「正直言うと、股関節が痛いんだ。でも、大丈夫だと思う。スタート前は今日のステージを走り切れるか心配だったけど、深刻じゃないと分かって安心しているよ」(ポガチャル)
ヴィスマ陣営「大敗であることを認めなくてはならない」
2番手は押さえたヴィンゲゴーだけど、このステージだけでポガチャルに2分10秒差をつけられた。個人総合でも2位に浮上したが、その差は3分31秒。ポガチャルとの勝負という面では、決して良い状況ではない。レース直後のコメントを控えた本人に代わり、スポーツディレクターのグリシャ・ニールマン氏が口を開いた。
「大敗であることを認めなくてはならない。今日、一番強かったのが誰なのかは明らかだ。チームとして計画通りにいかなかった部分もいくつかある。ただ、ヨナスは2位なんだ。決してすべてが終わったわけではない」(ニールマン氏)
個人総合2位に浮上もポガチャルとの差は3分31秒まで広がったヴィンゲゴー
やはりトップ2の力が抜けている印象だけど、上位争いはまだまだここから。このステージを7位でまとめたレムコは総合タイム差4分45秒で3位。ステージ3位と健闘したフロリアン・リポヴィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が5分34秒差の4位に浮上している。彼らと同様に粘ったヴォークランも5分40秒差の5位につけていて、地元フランスの期待を背負いながら走り続ける。
ポガチャル、ヴィンゲゴーを含めた個人総合上位陣の構図を引き続き見守っていこう。ピレネー2日目・第13ステージは10.9kmの山岳個人タイムトライアル。ミッションはただひとつ、1級山岳ペイラギュード登坂。ここで発生するタイム差からもまた、新たな形勢が生まれることだろう。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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