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アブラハムセンがスタート直後からの逃げを成功させて初勝利。ヒーリーがマイヨ・ジョーヌを守ってピレネーへ|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第11ステージ
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸アブラハムセンが逃げ切りで悲願のツール初勝利
第112回ツール・ド・フランスは休息日明けの7月16日、トゥールーズを発着とする156.8mで第11ステージが行なわれ、スタート直後にアタックしたウノエックス・モビリティのヨナス・アブラハムセン(ノルウェー)とチーム ジェイコ・アルウラーのマウロ・シュミット(スイス)がゴールまで逃げ切り、最後はわずかな差でアブラハムセンが初優勝した。
個人総合成績ではEFエデュケーション・イージーポストのベン・ヒーリー(アイルランド)が首位を守った。残り6kmでタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ・XRG)が単独落車したが、ライバルたちがペースを落として復帰するのを待ち、優勝争いは翌日からのピレネー山岳ステージに持ち越された。
まだ未勝利のチームが狙えるステージはそれほど多くない
1903年の第1回大会からコースに採用されているフランス南西の大都市トゥールーズにツール・ド・フランスがやってきた。この日は5つの山岳ポイント、97.3km地点に中間スプリントポイントが設定されたステージ。翌日から始まるピレネー山脈での本格的な山岳ステージをにらみながらのレースとなる。山岳ポイントは序盤にカテゴリー4級の丘が1つ、コース終盤にカテゴリー4級の丘が3つ連続し、残り4km地点にカテゴリー3級のポイントが1つある。獲得標高は1750mなので、決してあなどってはいけないステージだ。
夏の日差しに恵まれ、最高気温は30度。ひなたは暑いが、木陰に入ればさわやかで、沿道の観客も笑顔で選手たちがやってくるのを待っている。スタート地点は繁華街から歩いていけるスタジアム・ド・トゥールーズ。日本が初出場した1998年のサッカーワールドカップ・フランス大会で、日本の初戦が行なわれた会場で、購入したはずのチケットが入手できないという騒動で大々的にニュース報道されたところだ。
このトゥールーズにゴールするステージの特徴は、スプリンターとアタッカーがステージ勝利を争うこと。純粋な平坦区間というわけではなく、アタックポイントがいくつかあって、逃げ切れる可能性があるためにアタッカーが積極的に行く。これに対してスプリンターを擁するチームがアタックをゴール前までに吸収しようと動く。そのせめぎあいが見られるのがトゥールーズなのである。
休息日明けの大会11日目はトゥールーズからスタート
172選手が13時50分に0km地点を通過した。正式スタートしてすぐにアブラハムセン、シュミット、XDS・アスタナ チームのダヴィデ・バッレリーニ(イタリア)がアタック。25.9km地点にある最初の山岳ポイントで50秒リードした。
この3選手を追いかけてデカトロン・AG2Rラモンディアール チームのクレマン・ベルテ(フランス)とバスティアン・トロンション(フランス)、トタルエネルジーのアレクサンドル・ドゥレトル(フランス)とマッテオ・ヴェルシェ(フランス)、チューダー・プロサイクリングチームのマルコ・ハラー(オーストリア)が追いかける。ここまでステージ勝利がないチームばかりだ。ピレネーやアルプスでは総合争いが本格化することを考えると、ステージ勝利が狙える日はもはやそんなに多くない。総合優勝を争うチーム以外はツール・ド・フランスで1勝することを目指して23日間を走っているのだ。
アタッカーがスプリンターに勝ち、逃げでレースが決まる
後続集団はこの日は執拗に逃げを潰していく。先頭の3選手には届かないが、第2集団の5選手を吸収。一転してトタルエネルジーのマチュー・ビュルゴドー(フランス)とバーレーン・ヴィクトリアスのフレッド・ライト(英国)が抜け出して74km地点で先頭の3人に追いつく。メイン集団はこの時点で1分15秒遅れ。メイン集団からはなんとかして先頭に合流しようとする選手が続出するもののなかなか追いつけない。
残り70kmを切ったところで動きがあった。アルペシン・ドゥクーニンクのマチュー・ファンデルプール(オランダ)とヒーリーがアタック。これに反応したのがチーム ヴィスマ・リースアバイクのヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)。前で逃げていたチーム ヴィスマ・リースアバイクのワウト・ファンアールト(ベルギー)らと合流し、強力なグループを形成した。これは逃がしてはいけないとポガチャルと総合3位のレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)も追いついてきた。第2集団は豪華なメンバーとなった。
先頭集団はアブラハムセン、シュミット、バッレリーニ、ビュルゴドー、ライト
先頭集団は依然としてアブラハムセン、シュミット、バッレリーニ、ビュルゴドー、ライト。第2集団はファンデルプール、ファンアールト、リドル・トレックのクイン・シモンズ(米国)、イネオス・グレナディアーズのアクセル・ローランス(フランス)、ロットのアルノー・ドゥリー(ベルギー)の5選手になり29秒差で先頭を追う。総合の上位選手が集まるメイン集団は翌日のステージのことを考慮した走りとなり2分遅れになった。
残り23kmで先頭の5人とそれを追う5人の差は20秒。マイヨ・ジョーヌ、総合2位ポガチャル、総合3位エヴェネプールを含むメイン集団は先頭から3分以上の遅れ。この10選手の中で最も総合成績がいいファンデルプールでさえ、28分36秒遅れの30位だが、マイヨ・ジョーヌを持つEFエデュケーション・イージーポストがメイン集団の先頭に立ってスピードコントロールを始めた。今回のトゥールーズはアタッカーがスプリンターに勝り、逃げによって勝利が決まる展開になった。
156kmを逃げた2人が写真判定にもつれ込む僅差
残り15kmを切るとこれまで協調していた選手らが一転してアタック合戦に。アブラハムセン、シュミットだけが先頭に残り、これを後方から単独で抜け出してきたシモンズがビュルゴドーとライトに合流して3人になった。そしてファンデルプールら5人がこれを追う。トゥールーズの市街地に入るとファンデルプールが先頭の2人を猛追。アブラハムセンとシュミットは再び協力しながらゴールを目指して走る。ステージ優勝はアブラハムセン、シュミット、ファンデルプールに絞られた。
後方のメイン集団では残り6kmでなんとポガチャルが単独落車。シマノのニュートラルメカニックに脱落してしまったチェーンを直してもらいすぐにメイン集団を追うが、ライバルたちはここでペースダウンしてポガチャルの復帰を待った。この日に関しては総合優勝争いは持ち越しになった。
ステージ優勝争いはアブラハムセンとシュミットが牽制に入る中、後方からファンデルプールが必死で走っているという展開に。ずっと先行して走っていたシュミットを最後はアブラハムセンが抜いて勝利した。156kmのアタックを成功させて逃げ切ったことになる。ファンデルプールは7秒足りなかった。そしてメイン集団は3分28秒遅れでゴール。
アブラハムセンとシュミットのスプリントは写真判定にまでもつれ込んだ
アブラハムセンは2024年も何度もアタックして存在感をアピールした。しかしグランツールは初優勝、ウノエックス・モビリティとしても初優勝だ。
「ツール・ド・フランスのステージ優勝が私の夢だった。昨日コースを走った時は、自分には難しすぎると感じたけど、逃げ集団に入らなければならないと分かっていた」と勝利者インタビューでアブラハムセン。
4週間前に鎖骨を骨折し、病院で泣いた。ツール・ド・フランスに出場できないかもしれないと思っていた。それでも、翌日にはホームトレーナーに乗り、復帰するためにあらゆることをしたという。メンバーに起用されると、チームを少しでも助けたいという強い思いをもって臨んだ。
「今朝、もしかしたら勝てるかもしれないという予感がした。最初から逃げるために100%の力を出し切った。最後のスプリントは得意だし、そもそも0km地点からずっとスプリントを続けていたのでね。逃げ切り、そして追ってくる選手たちに抵抗するために、一日中懸命に努力した。
フィニッシュラインではもう体力が限界だったので、賢く走らなければならなかった。最後も全力を尽くした。マウロ・シュミットを追い抜くのは本当に難しかったけど、ツール・ド・フランスのこのステージは絶対に勝たなきゃ! 絶対に勝たなきゃ!と心の中で思っていた。1日中信じ続け、そしてついに勝利を掴んだ。信じられない気持ちだ」(アブラハムセン)
マイヨ・ジョーヌを防衛した1日となったヒーリーは、「最初の2、3時間は混沌としてハイペース。今日は人生で数年分を失ったような気分。本当にストレスフルなステージだったからだ」という。
集中力を維持しようとしていたせいで序盤から集団から脱落してしまい、チームメートに救われたという。
チームメートの助けを借りて何とか集中力を保ち、マイヨ・ジョーヌを防衛したヒーリー
第12ステージは今大会初めての山岳ステージ。ピレネー山脈に突入し、カテゴリー超級のオタカムにゴールする。
「タデイやヨナスといった選手が総合優勝争いを繰り広げている中で、オタカムでマイヨ・ジョーヌを維持するのはかなり野心的な挑戦だけど、私は楽観的なので明日も挑戦してみようと思う。このマイヨ・ジョーヌが本当に気に入っている。レースでこれを着られるなんて信じられない気持ちだ」(ヒーリー)
文:山口 和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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