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サイクル ロードレース コラム 2025年7月16日

ツール1週目で2勝のメルリール。20年来の友情と家族による篤きスプリントストーリー|ツール・ド・フランス2025

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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フィニッシュ後、勝利の喜びを分かち合うファンレルベルへとメルリール

フィニッシュ後、勝利の喜びを分かち合うファンレルベルへとメルリール

山岳比重が高いとされるツール・ド・フランス2025だが、大会第1週はスプリンターにもチャンスのあるステージが多く設定された。一線級のスプリンターによる直接対決が見ものとなったなかで、ひときわ映える純白にヨーロッパカラーを施したジャージが躍動した。ティム・メルリールスーダル・クイックステップ)は、キャリア2度目となるツール参戦ですでに2勝。ツール出場を懇願し、4年ぶりにつかんだチャンスで期待通りの大活躍。そこには、20年来の友情と家族による篤きスプリントストーリーが存在する。

出会って20年 メルリールとファンレルベルヘの夢舞台

第3ステージと第9ステージでつかんだ2つの勝利。2021年のツール初出場時に1勝を挙げていて、さらなる勲章を追加させた形になる。グランツールにとどまらず、ワンデーレースからステージレースまで、平坦コースとなればそのスピードをいかんなく発揮する。ワールドクラスのスプリンターとして名を馳せるメルリールだけど、ツール出場はこれが2回目だというから意外だ。

絶対的な総合エース、レムコ・エヴェネプールが中心の布陣なので、完全体の“メルリールシフト”を組むことはできない。だから、スプリントステージでもいつものようなリードアウトトレインを編成することが難しい。ならばと、持ち味でもある巧みなポジショニングでライバルの背後に入る。フィニッシュ前200mのスピードは、いまのプロトンで随一。今ツールで得た2勝は、いずれも“巧さ”が光った勝利だった。

このツールは「夢のような日々」だとメルリール。勝ったこともそうだが、何よりも20年来の友人と世界最高の舞台を走っている事実に、感動を覚えている。

メルリールと固い絆で結ばれているファンレルベルヘ

メルリールと固い絆で結ばれているファンレルベルヘ

ベルギー北西部のウォルテゲム=ペーテゲムで育ったメルリールは、西隣の街コルトレイクの学校に通った。そこで11歳のときにクラスメートになったベルト・ファンレルベルへとは、「自転車」という共通のアイテムですぐに仲良くなった。

ただ、その頃はともに「ツール・ド・フランスを目指す」ことはおろか、「プロを目指す」といった発想にも至っていなかったという。週3回、一緒にライドに出かければ良い方で、それぞれに違った興味を当時は持っていた。それでも、学生生活をともにするうちに少しずつ自転車競技にへ傾倒。メルリールがシクロクロス、ファンレルベルヘがロードレースへと持ち場が異なっても、その関係は変わるどころか、より深くなっていった。

メルリールがロードに主眼を置くようになり、2023年シーズンからは2人はチームメートに。長く現チームに身を置き、堅実なアシストマンとして走り続けるファンレルベルヘと、エーススプリンターのメルリール。チーム内での役割はまったく違うけど、ついに今年、ツールでの共闘が実現。2つの勝利ともに、ファンレルベルヘが最終の引き上げ役を担っていて、スプリント開始直前にメルリールを絶好の位置へと送り出していた。

シクロクロッサーだったメルリールは数年前まで夏場が休暇期間だったから、「ツールを走っているのが新鮮だよね」とファンレルベルヘ。現在もトレーニングをともにしていて、「ティムのお母さんが経営するカフェが待ち合わせ場所になることが多いんだ」と話してくれた。おもしろいエピソードはと聞くと、「いつもみんな長くくつろいでしまって、“いつ出発するんだ?”とティムが言うのがお決まり。でも、一番おいしくコーヒーを飲んでいるのは彼だからね(笑)」。

メルリールも、ファンレルベルヘも、物静かなタイプで、スプリントで失敗をしても声を荒げたり、言い争うようなことはないそう。「僕たちの関係が素晴らしいのは、どんなことがあっても感情的にならないところ。何が良くて、何が悪かったのかを落ち着いて意見交換できるんだ」。

出会って20年。最高の友人との、最高のホットライン。残るスプリントステージも、2人の絆で勝利を呼び込むつもりだ。

メルリールにとって家族のサポートも欠かせない

メルリールにとって家族のサポートも欠かせない

“自転車一家”に愛され、大事な家族の一員に

第3ステージでは、パートナーと幼い愛息の前で美しく勝ってみせた。パートナーのキャメロン・ファンデンブルークさんも、過去にロットのウィメンズチームで走った元プロライダーだ。

キャメロンさんは、1999年のリエージュ~バストーニュ~リエージュを制しているフランク氏を父に持ち、祖父のジャン=ジャック氏も元プロ選手という自転車一家。フランク氏は2009年に亡くなっており、その後はジャン=ジャック氏のもとでキャメロンさんは育った。

ジャン=ジャック氏は、キャメロンさんをプロライダーにまで成長させたように、メルリールにも熱心なアドバイスを送っているそう。コーチ契約を結んでいるわけではないけれど、「ティムは大事な家族」というように、日々のトレーニング内容やフィーリングを細かくやり取りする。たまにメルリールが報告をし忘れることがあるとかで、「そんなときは私に必ず連絡が来るの」とキャメロンさん。

ツール開幕前には、ジャン=ジャック氏の自宅へ出向き、活躍を誓ったというメルリール。家族間での約束を果たす、大きな、大きな勝利をつかんだ。

文:福光 俊介 from Toulouse, France

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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