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【輪生相談】以前のように楽しく乗って、たくさん練習をしていい結果を出したいのですがそれができない現実に悩んでしまいます。このような状況を乗り越えるのに何か良い方法はあるのでしょうか。
輪生相談 by 栗村 修
5年ほど前にオーバートレーニングによるメンタル不調とコロナ禍が重なり自転車から離れてしまいました。昨年、大会に出たくなり再度自転車に乗るようになりました。しかし、メンタルの浮き沈みが大きく、モチベーションを維持するのが難しいです。自転車に乗ってても楽しく思えない時があったり、強度を上げたりつらいローラー台練習をすると、途中で気持ちや集中が切れてしまいあきらめてしまうことが多いです。これは、単なる甘え癖がついてしまったのか、オーバートレーニングの影響から体がつらい練習を拒んでいるのか自分では判断ができずにいます。以前のように楽しく乗って、たくさん練習をしていい結果を出したいのですがそれができない現実に悩んでしまいます。このような状況を乗り越えるのに何か良い方法はあるのでしょうか。
(男性 会社員)
■栗村さんからの回答
切実なご質問ありがとうございます。僕もロードバイクに「復帰」してからは、モチベーション問題が課題になりつつありますので、全力でお答えしますね。
その上で、ですが、まず大事なことを一つ。モチベーションは、「目的」ではなく「結果」であるべきだと思うんです。
「モチベーションを上げたい!」と思うのも大事かもしれませんが、そうではなくて、レースの成績が順調に上がっていて、仕事も調子がよくて、体調も悪くない……という風に、さまざまな要素の結果として現れるのがモチベーションだと思っています。つまり、モチベーションが上がらないときには、それなりの合理的な理由がどこかにあったりしないでしょうか。
そう考えると、ホビーレーサーにとってのモチベーションは、その人が置かれている状態のバロメーターであるとも考えられます。パワーメーターよりも総合的な計測器のようなイメージです。
では、そのモチベーションが下がってしまうのはどういうときか。
まずよくあるのが、そして僕自身も直面しているのが、自分への過大評価です。僕は現役時代にはなかったパワーメーターやZwiftにハマり、それらの結果から恐れ多くも「富士ヒルではシルバーは余裕だな」と確信していました。
ところがなんと、タイムは5分も足りないじゃないですか。現役時代でも、これほど大きなメンタルダメージを負ったことはほとんどありませんでした。本気で、再引退しようと思ったくらい落ち込みました。
まあ再引退は撤回したわけですが、僕なりに敗因を分析すると、どうもFTPを高めに見積もったのが大きな失敗だとわかりました。ややこしい話になるので詳細は省きますが、僕は現役のころから3~5分くらいのやや短めの上りが得意で、かつインターバル耐性が高めだったんですが、それだとFTPの推定値が高めに出るんですね。脚質でいうと「パンチャー寄りの逃げ屋」といった感じです。それで、やはり現役のころからそれほど得意ではなかったシッティングでのTT走、すなわち富士ヒルに挑んでしまったのがよくなかったのでした。標高の高さやレース直前の激務(TOJ)などの影響もありそうです。
僕は以前から「数値に振り回されるのはよくない」などと言ってきたのですが、まさに自分がその罠にハマってしまったわけです。怖いですね。
ですので、パワーメーター時代のホビーレーサーのみなさんはなおさら、自分自身への期待値を正確に、できればやや低めに見積もるのが大事です。良くも悪くも、パワーとレースの成績との間には、けっこうな距離があることを忘れないでください。
さて、質問者さんの具体的な状態についてですが、ご心配の通り、オーバートレーニングによるメンタル不調が尾を引いている可能性は否定できません。人間は本能的に、命を縮めるような行為には自然とリミッターをかける気がしますが、それがオーバートレーニングの自覚かもしれません。
まずは、質問者さんがおっしゃるように、「楽しい」という気持ちを優先して自転車に乗ることをおすすめします。逆に言えば、楽しくないものは排除し、今の脳に刻まれてしまった「自転車=命を縮める」というシグナルを上書きする、つまり「楽しい」という感覚に置き換えていくのがよいと思います。
強度は無理に「上げる」ものではなく、体と心の準備が整ったときに自然と「上がる」ものだと割り切り、高強度練習ができなければZ2領域の有酸素ベースを整えればよいでしょう。
あと、やはりモチベーションを大きく上下する要因としては、他者との比較ですね。僕も富士ヒル後にうっかり参加者の方の動画を一本観てしまった結果、YouTubeのオススメには「ゴールド達成!」「シルバートレイン快走」といったサムネイルがずらっと並び、YouTubeを開くだけで心が大きくえぐられました。一方で、思うような成績を出せなかった方々の動画やブログもあり、そうした発信は心を癒してくれるとともに、勉強にもなりました。
それから、これも社会人としてトレーニングを再開して強く感じたのですが、レースの成績ではなく、トレーニングそのものに強烈な依存性がありますよね。サラリーマンの世界は、多くの場合、我慢や諦めで成り立っているように感じますが、その反動もあってか、トレーニングはそれらを忘れさせてくれる貴重な時間にもなります。そこには一種の脳内快感物質と、「走らなければ」という強迫観念が共存しており、それらは心身の調子と危ういバランスを保っています。しかし、これらが行き過ぎると一気にオーバートレーニング状態となり、結果としてリミッターが効いてモチベーションが急激に低下してしまいます。
つまり、モチベーションは質問者さんの「調子メーター」とも言えます。上手に付き合いながら、ご自身にとっての最適解を見つけてみてくださいね。
オーバートレーニング状態にならないよう、「調子メーター」と上手に付き合おう。
文:栗村 修・佐藤 喬
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栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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