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「今シーズンは大成功だ」サイモン・イェーツが今大会最初の本格山岳で逃げ切り勝利!マイヨ・ジョーヌはヒーリーへ移る|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第10ステージ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介サイモン・イェーツが6年振りにツールステージ優勝
大会第1週の終わりに、中央山塊までやってきた。つい先日まで北フランスを走っていたことを思うと、急に内陸まで移ってきた感は否めない。だけど、週の締めとして山岳決戦をやるなら、ピッタリの場所でもある。何より、第1週最終日は7月14日、フランス革命記念日だ。
中央山塊最高峰のピュイ=ド=サンシーを目指した、今大会最初の本格山岳ステージ。逃げの選手たちに有利な展開になって、最後はサイモン・イェーツ(チーム ヴィスマ・リースアバイク)が一番登頂。ジロ・デ・イタリア王者が、ツールでも魅せた。
「今シーズンは大成功だよ! ジロで勝ったのに続いて今日だからね。本当に最高の気分だ。そうとしか表現のしようがないくらいうれしいよ!」(サイモン)
大会10日目に今大会初の山岳ステージが組み込まれた
祖父に続けとマルティネス、革命記念日に山岳賞首位に
中央山塊の奥深くを目指す165.3km。その中に、8つものカテゴリー山岳が詰め込まれた。ほとんどが2級山岳で、繰り返し上るレイアウトは消耗戦となるのは確実。これまで、ツールや前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネでコース内登坂として採用されてきたピュイ=ド=サンシーが、一層の重要度を増す。
リアルスタートからしばし続いたアタックとキャッチ。出入りが激しいまま、この日1つ目の2級山岳に突入すると、先頭に残ったのは19人。さすがにこのままレースが進むことはなく、多くの選手が前線復帰。ただ、スプリンターの大多数はそのまま後ろにとどまることになり、ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)やパヴェル・シヴァコフ(UAEチームエミレーツ・XRG)も戻ることはできなかった。
序盤から激しい流れになる中、レニー・マルティネス(バーレーン・ヴィクトリアス)が繰り返し山岳ポイントをトップ通過する。今大会では初日から苦しむ姿が見られたが、コンディションを戻せているのだろうか。何より、フランス革命記念日は45年前に祖父マリアーノがステージ優勝した、マルティネス家の記念日でもある。
「狙っていたステージだったのだけれど、走り出してからステージ優勝するには脚が足りないと直感したんだ。でも、そのまま引き下がりたくはなかった。ならばと山岳賞を狙おうとね」(マルティネス)
結果的に、このステージで山岳賞首位に立つマルティネスを含んだ先頭グループが形成されたのは、スタートから20km過ぎ。最大で28人まで膨らみ、その後上りのたびに人数が絞られていった。
序盤から積極的な動きを見せたレニー・マルティネスは山岳ジャージを獲得
バーチャル・マイヨ・ジョーヌで作戦変更
逃げグループのムードが変化したのは、フィニッシュまで70kmを残したタイミングだった。この段階で18人まで減っていた先頭グループは、メイン集団に対して4分以上のリードを築いた。最前線でレースを進めていたのうちのひとり、ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)は、この日総合タイム差3分55秒差でスタートしていた。つまりは、バーチャル・マイヨ・ジョーヌである。
「まったく考えていなかった。目標はステージ優勝だったから、考えを変える必要性が出てきた。だって、こんな機会、一生に何回ある? 一緒に逃げていたニールソン(パウレス)、アレックス(ボーダン)、ハリー(スウェニー)と“マイヨ・ジョーヌを目指そう”と申し合わせたんだ」(ヒーリー)
3人をアシストに使ったヒーリーは、フィニッシュ前30km付近からみずからの脚でもって、チャンスに賭けた。この前後にはベン・オコーナー(チーム ジェイコ・アルウラー)やクイン・シモンズ(リドル・トレック)がアタックしたが、他の選手が付き位置にいようと構わずヒーリーはそれらをチェックしに行った。
この頃、メイン集団ではセップ・クスやマッテオ・ジョーゲンソンのチーム ヴィスマ・リースアバイク勢がペースアップを試みていた。個人総合首位を行くタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)に“マイヨ・ジョーヌの負担”を強いる目的なのか、純粋にプレッシャーを与えたいのか、ほかに何か別の目的があるのか。ただ、ヴィスマ勢の仕掛けにはポガチャルがみずからチェックに動いた。
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ピュイ=ド=サンシーでの一発勝負に賭けたサイモン
結局のところ、先行する選手たちとメイン集団との差が劇的に縮まることはなく、逃げ切りは濃厚に。
決定打は、最終登坂ピュイ=ド=サンシーの入口だった。ここまでヒーリーのペースに合わせてきたサイモンが、満を持してアタック。一度はオコーナーに追いつかれたが、残り2.5kmで再アタック。ついに単独先頭に立つと、急坂を懸命に踏み込んで頂上を目指した。
「ヒーリーの目的を分かっていたので、僕は無理せず最後のチャンスに賭けようと思っていたんだ。最後の上りはひたすらベストを尽くしたよ。一緒に逃げたヴィクトル(カンペナールツ)が1日を通して助けてくれたんだ。ツール開幕から彼の走りには驚かされっぱなしなんだよ」(サイモン)
テイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ)の猛追をかわし、ピュイ=ド=サンシーを一番登頂したサイモン。ツールで勝つのは、2勝を挙げた2019年大会以来。歴史的な大逆転を演じたジロから1カ月が過ぎ、再びビッグインパクトを残してみせた。
「今大会でチャンスがめぐってくるとは思っていなかったよ。僕はヨナスのためにツールに来ているからね。でも、今日はステージ優勝を狙って良い日だったし、集中してレースに臨むことができた。強いチームの一員として走ることができて、僕はとても幸せなんだ」(サイモン)
歓喜のサイモンに続き、9秒差でアレンスマン、31秒差でヒーリーがフィニッシュ。4秒のボーナスタイムを手にしたヒーリーには、マイヨ・ジョーヌの大きな可能性が残された。
第6ステージの勝利に続き、マイヨ・ジョーヌにまで袖を通すことになったベン・ヒーリー
ヒーリー「人生で一番長い4分間」
ポイントとなるのは、ポガチャルのフィニッシュタイム。メイン集団では、レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)のアタックが決まらず、その後は幾分の牽制状態に。それを嫌ったフロリアン・リポヴィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)のペースアップをきっかけに、ついにポガチャルが腰を上げた。
敢然と飛び出したポガチャルを追えたのは、ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ヴィスマ・リースアバイク)ただひとり。ポガチャルはこの状況を受けて、それ以上の攻撃はせずにヴィンゲゴーの様子を見ながらフィニッシュを目指す構えに。逃げ残っていたマルティネスの番手につけた両者は、同タイムでレースをクローズした。
ポガチャルとヴィンゲゴーは、サイモンから4分51秒差でのフィニッシュ。ヒーリーとは4分20秒。これにより、マイヨ・ジョーヌはヒーリーに移ることとなった。
「人生で一番長い4分間だったかもしれないね(笑) 待っている間、どれだけ神経をすり減らしたか。もしタデイが本気で山を上っていたらって? 僕のマイヨ・ジョーヌはなかっただろうね。まあ、そこは目指しているところが違うからね。僕にとっては夢の実現なんだ。まだ先のことは分からないけど、総合成績を意識して走るべきだろうし、マイヨ・ジョーヌをできる限り着続けられるよう努力するよ」(ヒーリー)
総合首位から29秒差の2位で1週目を終えたポガチャル
ライバルにプレッシャーをかけ続けなければ勝てない
大会第1週を終えての総合成績は、ヒーリーからポガチャルが29秒差。3位はレムコで1分29秒差。ヴィンゲゴーは4位で1分46秒差となっている。
このステージでもメイン集団ではアグレッシブだったヴィスマ勢。ねらいはいったい何だったのだろう?
「ポガチャルに勝つためには、UAEというチームを崩さないといけない。彼らのディフェンス力はすごいんだ。僕らは常にポガチャルとUAEにプレッシャーをかけていく必要があるからね。ポガチャルにマイヨ・ジョーヌを着続けさせたかったかって? 少なくとも僕たちにそんなつもりはなかったよ」(ヴィンゲゴー)
いつもより少し長かった第1週が激動のうちに終了。1日おいてやってくる第2週は、ピレネーへ。戦いは、まだ前半が終わったまででしかないのである。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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