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初出場のミランがスプリント勝負で初優勝!ジロ・デ・イタリアに続くポイント賞獲得に名乗り出る|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第8ステージ
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸ミランがゴールスプリント勝負を制しツール初優勝を飾った
第112回ツール・ド・フランスは7月12日、サンメアンルグラン〜ラヴァル間の171.4kmで第8ステージが行なわれ、リドル・トレックのジョナタン・ミラン(イタリア)がゴールスプリント勝負を制して初優勝。ポイント賞でも3度目となるトップに立ち、緑色のリーダージャージ「マイヨ・ヴェール」を獲得した。個人総合成績ではタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ・XRG)がトップとタイム差なしの第1集団でゴールし、その座を難なく守った。
前日に肋骨骨折したアルメイダはレース続行を決断
第8ステージは中間スプリントポイントが85.5km地点にある平坦コースだ。155km地点に唯一の山岳ポイントがあるもののカテゴリー4級の丘陵で、スプリンターでも一気に上ってゴールのラヴァルに備えて位置取りを取り直すはずだ。この日はスプリント勝負だというのが大方の予想だった。
前日の残り6km地点でメイン集団の後方で落車があり、有力選手としてはバーレーン・ヴィクトリアスのサンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア)とUAEチームエミレーツ・XRGのジョアン・アルメイダ(ポルトガル)が傷ついた。ブイトラゴは右大腿部に浅い擦過傷と打撲傷を負ったが、「あのスピードではブレーキをかけるのは不可能だった。最高の夜ではなかったが、ツール・ド・フランスを続けられてうれしい。今日を乗り越えて、もっとよくなることを願っている」とコメントしてスタートした。
アルメイダは左肋骨骨折で、チーム医師は「注意深く経過観察していく。今後数日間は彼にとって厳しい状況になるが、スタートできる」と証言。アルメイダは「ほとんど眠れなかったので、どうにもならないだろう。指も痛いのでハンドルを握れるか、他のことがうまくできるかわからない」という。山岳ステージまでにできるだけ回復してポガチャルをどれだけアシストできるかが課題になる。
昨日の落車で負傷したアルメイダだが現時点ではリタイアせず
サイクリングに最適な日が数日続いたが、この日は気温が30度を超え、ステージのほぼ全区間で北東からの向かい風を受ける。前日は追い風で高速ペースだったが、さすがに一転して集団のスピードは最初の1時間、そして次の1時間ともに時速41kmをわずかに超える程度。集団から飛び出す選手は不在で、すべての選手が淡々とペダルを踏み続けた。
ビュルゴドーとヴェルシェがそろって敢闘賞
動きがあったのは中間スプリントポイントだ。ポイント賞のマイヨ・ヴェール獲得を狙うミランはここまで7ステージの中間スプリントポイントで1着通過、あるいは逃げた選手がいた場合は後続のメイン集団の先頭で通過して得点を重ねている。この日も難なく他のスプリンターを抑えて1着通過し、20点を獲得。ポガチャルまで14点差と追い上げたことでゴールの着順によっては逆転する可能性がある。
ゴールは残り2kmから2~3%の緩やかな勾配となる。ミランはこの舞台設定が自身のパワーに合っていると考えていた。「こういう上り坂のフィニッシュは結構好きだ。勢いをコントロールし、どこで行くか、どこにエネルギーを集中させるか、本当に慎重にやりたい。厳しいレースになるだろうが、最後の数kmを先頭付近で走ることが非常に重要」と意欲的だ。
共に逃げたビュルゴドーとヴェルシェは2人揃って敢闘賞を受賞
この中間スプリントポイント争いで集団がペースアップし、その後の小康状態を利用してトタルエネルジーのマチュー・ビュルゴドー(フランス)とマッテオ・ヴェルシェ(フランス)が先行を始めた。2選手とも総合成績では大きく遅れていて、チームとしてステージ優勝を獲得するためのアタックだ。2選手は残り73km地点でメイン集団に20秒差、残り62km地点で45秒差をつけた。
しかし最大差は1分ほどでゴールまでの距離を測りながらメイン集団が徐々にその差を詰めていき、残り32km地点で20秒差。ここで2選手が残っているパワーを振り絞ってペースアップしてその差を開こうと懸命に努力する。メイン集団はまだ静観の構えだが、残り20km地点でタイム差が再び1分以上になった。メイン集団がいよいよペースアップしたのが山岳ポイントの上り坂が始まったところだ。その差が一気に縮まっていくと2人のうちヴェルシェが脱落。残り13kmを残してビュルゴドーが単独となった。そして残り9kmでビュルゴドーの逃げも終了。メイン集団がレースの先頭になった。やはりこの日はゴールスプリント勝負だ。
ビュルゴドーとヴェルシェはこの日の敢闘精神が評価されて、2人が揃って敢闘賞を獲得。ツール・ド・フランスでは4回目のことだという。
ミランがファンアールトとグローブスを抑えて初めての優勝
最後は予想通りに大集団によるスプリント合戦に。ミランは2人のアシストに牽引されて好位置につけたが、次々と勝利を狙う選手らがスパートする状況にその都度スリップストリームを変えて対応。最後は力勝負となり、ミランがチーム ヴィスマ・リースアバイクのワウト・ファンアールト(ベルギー)、アルペシン・ドゥクーニンクのカーデン・グローブス(オーストラリア)を抑えてトップフィニッシュした。
イタリア勢は2019年の第20ステージでヴィンチェンツォ・ニーバリがステージ優勝してからツール・ド・フランスで最も長い未勝利期間を余儀なくされていたが、この勝利でその不名誉記録にピリオドを打った。ミランはステージ優勝とともに、ポイント賞の50点を獲得し、ポイント賞の1位になった。
ミランはバーレーン・ヴィクトリアス時代の2023ジロ・デ・イタリア第2ステージで優勝し、ポイント賞ジャージを最後まで守った。2024年に現チームに移籍し、ジロ・デ・イタリア3勝。第4ステージから最終日までポイント賞ジャージを守り、2年連続の受賞を果たした。そしてツール・ド・フランス初参戦で大会初優勝を飾ったのである。
ステージ全体を支えたチームメイトに、ミランが勝利で恩返し
「とてもうれしい。この勝利のために努力し、ついに3回目のチャンスで勝利を手にすることができた。チームメイトを頼りにできると確信していた。初日からモチベーションが最高で、彼らは素晴らしい仕事をしてくれた。彼らはスプリントでいかに誘導するかを知っているし、ステージ全体をコントロールしてくれる。勝利で彼らに恩返ししたかった」とゴール後にミランがコメントした。
「厳しいフィナーレでした。先頭集団にいて、スプリントを仕掛ける絶好のタイミングを待っていた。残り200mでスプリントを仕掛けるのは少し長すぎたかもしれなかったが、全員にとって厳しい状況。全力を尽くして、うまくいった。もっと勝ちたい! 明日もまたいいステージがあるので、ぐっすり眠れたらいい」(ミラン)
回復に努めたポガチャルは42番目のゴール
ポガチャルはタイム差なしの第1集団の42番目にゴール。ポイント賞もボーナスタイムも獲得しなかったが、無難に総合1位のマイヨ・ジョーヌを守った。
「リラックスできるステージだった。これまでハードに走ってきたので回復するにはいい1日になった」というポガチャルは、レース続行を続けるアルメイダにも言及した。
「ジョアン(アルメイダ)は戦士だ。集団がペースアップするたびに苦しんでいるのが目に浮かぶようだった。それでも彼は粘り強く走り続けた。真のチャンピオンスピリットを持っている」
翌日の第9ステージはシノンからシャトルーまでの174.1km平坦コース。そして今年は大会10日目の月曜日がフランス革命記念日の祝日であるため、例年のように休息日にはならずレースを続行する。10日連続の戦いが今後にどう影響するか興味深い。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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