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サイクル ロードレース コラム 2025年7月12日

ポガチャルがブルターニュの壁を制して、わずか1日でマイヨ・ジョーヌを奪還|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第7ステージ

サイクルロードレースレポート by 山口 和幸
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スプリント対決を制したポガチャルがマイヨ・ジョーヌを奪還

スプリント対決を制したポガチャルがマイヨ・ジョーヌを奪還


第112回ツール・ド・フランスは7月11日、サンマロ〜ミュールドブルターニュ間の197kmで第7ステージが行なわれ、1秒遅れの総合2位につけていたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ・XRG)がチーム ヴィスマ・リースアバイクヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)をタイム差なしで抑えて優勝。総合1位のマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)は最後に先頭争いから脱落し、ポガチャルが首位のマイヨ・ジョーヌを奪還した。

ファンデルプールがマイヨ・ジョーヌを手に入れた思い出の場所へ

ミュールドブルターニュは「ブルターニュの壁」という意味で、地元のサイクリストはアルプスにある有名な山岳「ラルプデュエズ」のイメージを当てはめて「ブルターニュのラルプデュエズ」と呼んでいる。ゲルレドンという集落の近くにある標高292mの直線的な上り坂だ。距離は2kmで、上りはじめに15%という急勾配がある。今回は残り15.3kmでいったんここを上り、周回コースを走って2度目の登坂でゴールする。
4年前にマイヨ・ジョーヌを獲得した思い出の地を走るファンデルプール

4年前にマイヨ・ジョーヌを獲得した思い出の地を走るファンデルプール

2021年、ミュールドブルターニュにゴールした第2ステージで初勝利し、さらに初めてマイヨ・ジョーヌを獲得したのがファンデルプールだ。ファンデルプールの母方の祖父はフランスのレイモン・プリドール(故人)。ツール・ド・フランスでは万年2位と言われながらも国民的な人気を誇った自転車選手だった。毎年プリドールはメルクスらと総合優勝を争っていたが、総合優勝どころか大会期間中に首位になったことがない。つまりマイヨ・ジョーヌとは生涯無縁の選手だった。

その面影を残すファンデルプールが、祖父が手に入れることができなかったマイヨ・ジョーヌを4年前のミュールドブルターニュで獲得し、オランダのファンはもちろんフランス中が大喜びした。結局ファンデルプールは6日間もマイヨ・ジョーヌを死守。それを奪ったのがポガチャルである。

大会2日目こそ雨に見舞われたが、この日も素晴らしいサイクリング日和となった。晴天で太陽が輝き、気温は25〜30度ほどで蒸し暑くもない。追い風が吹き、午後4時頃には強風になった。そのためこの日はハイペースな展開となった。

スタートからチーム ヴィスマ・リースアバイクのワウト・ファンアールト(ベルギー)が何度もアタックするが、なかなかうまく逃げられない。54km地点でアタックした選手はいったんすべて吸収される。その直後にイネオス・グレナディアーズゲラント・トーマス(英国)、EFエデュケーション・イージーポストのアレックス・ボーダン(フランス)、チューダー・プロサイクリングチームのマルコ・ハラー(オーストリア)、アルケア・B&Bホテルズのエウェン・コステュー(フランス)、モビスター チームのイバン・ガルシア(スペイン)が仕掛けて、ようやく第1集団が形成された。

最年長のゲラント・トーマスは今年が現役最後のシーズン

最年長のゲラント・トーマスは今年が現役最後のシーズン

この中で総合成績の最上位は14分遅れの総合39位トーマスだ。39歳のトーマスは最年長出場選手であり、2018年の総合優勝でもある。2019年は2位、2022年は3位。ステージ通算3勝、マイヨ・ジョーヌは合計15日獲得している。2025年シーズンが現役最後となるトーマスは、最終的には捕まるのだがこの日の逃げも楽しみながら走っているように感じた。

ポガチャルが優勝し、ヴィンゲゴーが食らいつく

この日はまず139.3km地点に中間スプリントポイントがあり、トップ通過のガルシアが20点を獲得するなど、第1集団が5着までを独占。1分遅れのメイン集団ではポイント賞のマイヨ・ヴェールを着るジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック)が先頭で、6着の10点を獲得した。メイン集団ではUAEチームエミレーツ・XRGのニルス・ポリッツ(ドイツ)が牽引して、およそ1分差が変わらず。激坂を得意としていないミランらスプリンターはこの日はお役御免とばかりにメイン集団から脱落した。

そしてレースは2回上りのミュールドブルターニュに。チーム ヴィスマ・リースアバイク勢がメイン集団の前方を占めて主導権をつかもうと動き始めた。5人の第1集団は1回目のミュールドブルターニュの麓で崩壊状態に。コステューだけが抵抗して15秒差でフィニッシュラインを通過。ここから15.3kmの周回に突入した。

下りで35人となったメイン集団を引っ張るのはファンアールト。ファンデルプール、ポガチャル、ヴィンゲゴーら有力選手はこの中にいて、ついに残り12km地点でコステューを吸収し、総合争いとステージ勝利争いが同時進行する勝負はここから振り出しに戻った。最後まで逃げたコステューは敢闘賞を獲得した。

残り2kmで山岳賞のウェレンスがペースアップし、エースのポガチャルを解き放した。エヴェネプールとヴィンゲゴーがこれに反応し、ファンデルプールはたまらず脱落。残り900mからジョナタン・ナルバエス(エクアドル)のアシストを得たポガチャルが2番手につけたエヴェネプールの後ろから一気にスパート。エヴェネプールはすでに体力を使い果たして追いかけることができず、ヴィンゲゴーのみが反応して全力で抜き返そうとするものの、ポガチャルのスピードにはかなわなかった。

アルメイダを落車で欠くも、ウェレンスらがポガチャルをサポート

アルメイダを落車で欠くも、ウェレンスらがポガチャルをサポート

ミュールドブルターニュを制したのはポガチャル。第4ステージに続く今大会2勝目で、大会通算19勝目。タイム差なしで2位ヴィンゲゴー。ポガチャルは10秒、ヴィンゲゴーは6秒のボーナスタイムを獲得したが、2秒遅れの6位でゴールしたエヴェネプールはタイムを減らすことはできず。ファンデルプールは1分20秒遅れの22位でゴールした。

この結果、総合成績では1秒遅れの2位につけていたポガチャルが首位に。54秒遅れの2位にエヴェネプール。1分11秒遅れの3位にアルケア・B&Bホテルズのケヴィン・ヴォークラン、1分17秒遅れの4位にヴィンゲゴー。マイヨ・ジョーヌのファンデルプールは1分29秒遅れの5位に陥落した。

ポガチャルはポイント賞争いでも区間1位の50点を獲得し、ミランからマイヨ・ヴェールを奪い返した。山岳賞はウェレンスがチームメートのポガチャルを1点上回って首位を堅持した。ヤング・ライダー賞は総合2位でもあるエヴェネプールだ。

マイヨ・ジョーヌはうれしいがアルメイダのケガが心配

「今日の勝利は本当にうれしい。でも、全てが完璧というわけではない」というポガチャル。

じつは1回目のミュールドブルターニュからの下りを終えてジョアン・アルメイダ(ポルトガル)がクラッシュ。10分遅れでゴールしたもののレントゲン検査を受けているのだから心配になる。

「もちろん、ステージ優勝してマイヨ・ジョーヌを着ることになったのは素晴らしいが、ティム(ウェレンス)が言ったように、ジョアンが昨日まで総合順位で1分59秒遅れの位置にいられたのは贅沢だった。彼にとってもいいチャンスだったと思っていた。彼は絶好調なので、怪我が重くなく、このまま走り続けられることを心から願っている」と付け加えた。

計画通りの1日を過ごせたと語るポガチャルは、チームメイトの仕事を称えた

計画通りの1日を過ごせたと語るポガチャルは、チームメイトの仕事を称えた

「マチュー(ファンデルプール)と私は4年前のこのフィニッシュをよく覚えていて、素敵な思い出もいくつかある。あの象徴的な上りで勝つという同じ目標を目指していたが、彼は昨日のレースでエネルギーを出しすぎたせいで、今日は上位に残れなかったのかもしれない。私にとって、この日は計画通りの1日だった。素晴らしい仕事をしたチームメイト全員が完璧だった。暑い日で、とても速くて、かなりのエネルギーを使ってしまったが、計画をしっかり立て、それを貫き、勝利することができた。

ティムは麓まで私を導いてくれた。通常であればジョアンがそれをするはずだったけど、レムコ(エヴェネプール)のスリップストリームに付くことができた。そして、ナルバエスが素晴らしい仕事をして、スプリントまで状況をコントロールしてくれた。特にチームメイトがサポートしてくれるので、スプリントには自信をもって臨めた」(ポガチャル)

ライバルであるチーム ヴィスマ・リースアバイクはここ2日間、少し奇妙な展開をしているとポガチャルは分析している。このあとも数日はヴィスマの動きを警戒したいという。

「週末は楽かもしれないけど、その後の第10ステージは高温と1日中続く上り坂で、まさに苦しい1日になる。多少の動きがあるかもしれないけど、その時になったら対応していきたい」とポガチャルは冷静さを失っていない。

7月12日はサンメアンルグラン〜ラヴァル間の171.4kmで第8ステージが行なわれる。中間スプリントポイントが85.5km地点にある平坦コースなのだが、ブルターニュ半島の付け根だけにうねりのある起伏が連続する。155km地点に唯一となる4級の山岳ポイントがあり、ゴールのラヴァルに一直線。スプリント勝負の予感がする。

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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