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サイクル ロードレース コラム 2025年7月10日

「やるべきことをやった」レムコがTT勝利! ポガチャルは“真の試練”乗り切りマイヨ・ジョーヌ|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第5ステージ

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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レムコが今大会初勝利で総合2位に浮上

レムコが今大会初勝利で総合2位に浮上

当初はこのステージから個人総合争いが動くと見込まれていた。いざ開幕してみたら、第1ステージから集団分断があり、丘陵コースでも絞り込みがあって、誰もが思っていた以上に慌ただしい序盤戦になった。それでも、今大会1回目の個人タイムトライアルステージは、先々を見通すうえで大事な1日には変わりない。33kmの平坦路で一番の走りを見せたのは、この種目の世界王者にしてパリ五輪金メダリスト、レムコ・エヴェネプールスーダル・クイックステップ)だった。

「普通にやれば勝てると思っていた。ただ、脚がないと勝てないことは分かっていたし、“これ以上は速く走れない!”というところまで自分を追い込んだ。今日のペーシングは完璧だったよ。大成功だ。まあ、僕はやるべきことをやったまでだよ」(エヴェネプール)

ヨーロッパ王者アッフィニが基準タイム

カーンの街を発着する33kmの孤独な戦い。高低の変化がほとんどない平坦基調のコースレイアウトは、TTスペシャリストが己の能力をフルに発揮する機会であると同時に、総合成績を意識する選手たちにとっての第1関門でもあった。

個人総合順位の下位選手から順に時差スタート。181人が出走するから、第1走者エフゲニー・フェドロフ(XDS・アスタナ チーム)のスタートから、最終走者マチュー・ファンデルプールアルペシン・ドゥクーニンク)のフィニッシュまで、約4時間30分の時間を要する。

時速71kmの激走で基準タイムを刻んだアッフィニ

時速71kmの激走で基準タイムを刻んだアッフィニ

実際、エドアルド・アッフィニ(チーム ヴィスマ・リースアバイク)は、暫定トップの選手が座るホットシートに何時間と座ることになった。この種目のヨーロッパ王者は、45番目にコースへと飛び出して、37分15秒で走破。とりわけ、コース後半の緩やかな下りでは時速71kmまでスピードが上がった。この走りが基準となり、個人総合上位陣の出走まで一番時計であり続けた。

中盤以降ペースアップを実行したレムコ

アッフィニがトップのまま、個人総合上位陣の出走時間を迎えた。

まずまずの走りを見せたが、個人総合20位でスタートしたフロリアン・リポヴィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)。アッフィニから25秒差でまとめた。ダブルエース態勢をとるプリモシュ・ログリッチは、8.1km地点に設置された第1計測からトップタイムを30秒下回り、その後も差は拡大傾向。フィニッシュではアッフィニから46秒の遅れとなる。

いよいよトップ10ライダーの出走。そこで一番の走りを見せたのが、最後から9人目で登場したレムコだった。第1計測は3秒、16.4km地点に置かれた第2計測では8秒、それぞれトップより遅れたが、後半に入ってギアチェンジ。24.7km地点に設けられた第3計測でついにタイムを塗り替えると、フィニッシュへ向けさらに加速。そして、フィニッシュタイムは36分42秒。アッフィニを33秒上回って、文句なしの一番時計をマークした。瞬間的な最高時速は76kmまで達していたという。

レムコ・エヴェネプールは後半にペースを上げ、逆転でトップタイムを記録した

レムコ・エヴェネプールは後半にペースを上げ、逆転でトップタイムを記録した

「前半でトップタイムから遅れることは想定していたんだ。大事なのはスタートからフィニッシュまで一貫した走りができるかで、そこが僕の強みでもある。中盤には自分の走りに手ごたえがあったんだ。最後の7kmでタイムを稼ごうと考えていて、それを実行できた」(エヴェネプール)

個人総合8位ジョアン・アルメイダUAEチームエミレーツ・XRG)や同4位マッテオ・ジョーゲンソン(チーム ヴィスマ・リースアバイク)はレムコから1分以上の遅れを喫した。一方で、同5位でこのステージに臨んだフランス期待のケヴィン・ヴォークラン(アルケア・B&Bホテルズ)は、後半にかけてペースの落ち込みを最小限にとどめ、レムコから49秒差でのフィニッシュにまとめる。

「いやぁ、今日は本当に気分が良かった。ちょっとハイになりすぎているくらいだよ! 良いTTになったと思う。明日につながるよ」(ヴォークラン)

北フランスを走る今大会序盤。間違いなく地元ファンの人気を独り占めしている24歳は、翌日の第6ステージで故郷バイユーをスタートする。

対照的だったポガチャルとヴィンゲゴーの走り

迎えたトップ3のスタート。先にスタートしたヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ヴィスマ・リースアバイク)が伸びない。序盤からペースに乗せきれず、第1計測ではレムコから22秒差。持ち直したいところだが、第2計測では50秒差まで開いた。こうなると手遅れか。第3計測ではついにその差が1分を超えた。最終的に1分12秒差、ヴィンゲゴーの走力を考えればブレーキといえる。

ヴィンゲゴーは序盤からペースが上がらず大きくタイムを失ってしまった

ヴィンゲゴーは序盤からペースが上がらず大きくタイムを失ってしまった

かたや、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)は快調だった。序盤はレムコを上回るハイペースで飛ばす。さすがに第1計測通過後にそのペースはレムコを下回ったが、それでも遅れは最小限。第3計測での17秒差が最も拡大したタイミングで、終盤にかけて踏み込んだことでフィニッシュでは16秒差でとどめた。最終局面でコーナーをオーバースピードで入ってしまう場面があったものの、しっかりリカバリー。レムコに続く2番時計は、上々の走りである。

「五輪金メダリストで、世界チャンピオン。そのレムコに僕は16秒差だったんだ。これは誇って良いと思わない? 今日の走りは大満足だよ!」(ポガチャル)

最終走者、マイヨ・ジョーヌで挑んだマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)は1分44秒遅れ。レムコは今大会最初のステージ優勝を決めた。

いまはマイヨ・ジョーヌにこだわらない

第1ステージでは風による分断で後方に取り残され、前日の第4ステージでもマチューやポガチャルから3秒差を付けられた。しかし、タイムトライアルは見せどころである。今シーズンは個人TTで負けなし。ねらい通りに総合で挽回。トップに立ったポガチャルから総合タイム差42秒で2位に浮上した。

「大会序盤を思うと、うまく持ち直せていると思う。目標のひとつだったステージ優勝を達成できたので、ここからはシャンゼリゼの表彰台に立つことにフォーカスしていきたい。ポガチャルに勝てるかって? 何とも言えないね(笑)。そこを目指すのは早すぎる気がするけど、とにかく総合表彰台には上がりたいね」(エヴェネプール)

開幕からミスなく走り続けるポガチャルは、大会5日目にしてマイヨ・ジョーヌに袖を通すこととなった。このステージを「真の試練」と位置づけ、集中して臨んだ結果がリーダーの座である。ただ、先は長い。このままイエローをまとい続けるべきかは、慎重に判断する。

「今年のコースはいつも以上に過酷だと思うし、レーススピードも速くなっている分、一層ハードな戦いになる。マイヨ・ジョーヌはもちろんうれしいのだけれど、いま必要なのかは冷静に考えたい。優先すべきは総合系ライダーとのタイム差。ジャージは逃げを狙う選手に譲っても良いと感じている」(ポガチャル)

ポガチャルは安定した走りで、5日目にしてマイヨ・ジョーヌを獲得

ポガチャルは安定した走りで、5日目にしてマイヨ・ジョーヌを獲得

ちなみに、ポガチャルはこのステージを終えた段階で、個人総合・ポイント賞・山岳賞で首位に立っている。

そして、ポガチャルが重視するライバルとの総合タイム差。レムコとは42秒、ヴォークランが59秒。そして、最大のライバルと位置付けるヴィンゲゴーが1分13秒。

果たして、ヴィンゲゴーはここからどうやってこの差を埋めるつもりだろうか。

「ちょっと分からない。今日の走りは最悪だ。今は何も考えられない。幸い、ツールは長いから、あらゆることが起こりうる。僕は僕自身を信じているし、チームのみんなを信じている。ツール・ド・フランスを勝てるかって? もちろんだよ」(ヴィンゲゴー)

個人TTによる総合順位シャッフルを受けて、選手・チームはこの先をどうアプローチするだろう。第6ステージは、丘陵地を行く201.5km。何か劇的な変化が見られても不思議ではない。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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