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「個人総合2位」を狙うのが本当に得策か?選手たちの言葉に見るマイヨ・ジョーヌへの意志|ツール・ド・フランス2025
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介第4ステージでは通算100勝目、第5ステージでは総合首位と下馬評通りの力を見せるポガチャル
開幕地リールを含むノール県を出て、ツール・ド・フランス2025は本格的に旅を急ぐ。幕開けから2日連続してステージ優勝争いの人数が絞り込まれるなど、北フランスでの序盤戦は予想以上に慌ただしかった。そんな2025年のツールだが、この先本格化する個人総合争いに関して、これまでに見られなかった論調が沸いている。それは、「総合系ライダーは個人総合2位を目指した方が良いのではないか」というもの。トップライダーたるもの、本当に2位で良いのか、やっぱりマイヨ・ジョーヌを目指すべきではないのか。その真意を測りつつ、今後の戦いに思いを馳せてみたい。
個人総合2位を目指すのが得策ではないか
その見方は、7月5日のツール開幕を前に現地メディアを中心に起こった。
個人総合2位を目指すのが得策ではないか。
昨今のレースを追っている方なら、意図するところはお分かりだろう。タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)の強さゆえの声である。
このところのポガチャルには穴がない。山岳はもとより、ときに見せるスプリント、さらにはハイアベレージで走り抜く個人タイムトライアル。ツールを制するうえで必要な要件をすべて持ち合わせているのは確かだ。2年前と3年前のツールでは途中で崩れてマイヨ・ジョーヌを逸したが、復権した昨年はそれがなかった。今大会も第4ステージでまず1勝。今ではツールに限らず、出場するレースでは確実に上位に食い込む。
総合力にとどまらず、山岳・タイムトライアルそれぞれで見ても、その強さは明白である。どちらかひとつだけでも、ポガチャルを上回る能力を持つ選手はいても指折り数える程度。間違いなく、今大会のナンバーワンライダーはポガチャルだ。このツールで1強と見る向きがあっても不思議ではない。
だからといって、他選手は「個人総合2位を目指すのが得策」なのだろうか。
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ニバリ氏が異を唱えた
もっと言ってしまうと、「多くの総合系ライダーは、ヨナス・ヴィンゲゴーには勝てるかもしれない」という。それで個人総合2位ということか。
それらの声に異を唱えた者がいる。かつてのツール王者、ヴィンチェンツォ・ニバリ氏である。開幕を前に受けたインタビューで「ポガチャル1強とは言いきれない。他の選手も力はあるし、チームとしてUAEチームエミレーツ・XRGに対抗する方法はきっとある」と述べた。
とりわけ、「ヴィンゲゴーはツールになると人が変わる」として、ポガチャルとの激戦を制した2022年・2023年大会の走りを例にその強さを挙げた。出場するレースすべてで勝ちにいくポガチャルに対し、シーズンのターゲットをツールに据えて万全を期すヴィンゲゴー。それぞれのアプローチが今大会でどう活かされるかを見ていくべきだと説いた。
思えば、ニバリ氏も現役中は狙ったレースにめっぽう強かった。2014年にツールを制しているが、その年はツール以外で勝っているのはイタリア選手権ロードレースのみ。ツールにフォーカスし、そこから逆算して強化プランを練った成果だった。そうした経験があるからこそ、ヴィンゲゴーの取り組みにも深く理解を示すことができるのだろう。
対抗馬筆頭のヴィンゲゴーだが第5ステージで大きくタイムを失ってしまった
マイヨ・ジョーヌへの意志
実際のところ、マイヨ・ジョーヌ争いに加わるとみられる選手たちはどのような意識で開幕を迎えたのだろうか。公式記者会見での言葉から汲み取ってみる。
ポガチャルは4回目の大会制覇へ、視界は良好のよう。「優勝候補のひとりとしてツールを迎えられてうれしい。期待に応える自信はある。最大のライバル? もちろんヨナス(ヴィンゲゴー)だよ」。
昨年、初出場で総合表彰台の一角を押さえたレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)も自信を見せている。「ツールで個人総合優勝する実力はあると思う」と言い切る。一方で、ポガチャルとヴィンゲゴーの壁は高いことも理解しているといい、「正直、彼らとの力の差がどの程度あるのかは分からない。それでも、戦わないことには答えは出せない」。
グランツールではツールだけタイトルを獲れずにいるプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)は慎重だ。「まずは3週間を走り切ること。勝とうが負けようが、僕は僕だ」。それでもやっぱり“王者”である。「タデイ(ポガチャル)にも、ヨナスにも、レムコ(エヴェネプール)にも勝ちたい。ツール制覇は僕の夢だ」。このときだけは言葉に力がこもった。
一方で、ベン・オコーナー(チーム ジェイコ・アルウラー)やサンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)のように、「個人総合5位が現実的な目標」とする選手もいる。彼らからすれば、それが身の丈に合った目標設定だということだろう。
第4ステージ終了後ファンデルプールが「ポガチャルは強すぎた」と話す通りその力は圧倒的
確かに、ポガチャルの力が抜きんでている。過去のレースでは、彼に次いで2位で終えた選手が「勝利に匹敵する」なんて話していたこともある。そのスタンスはツールでも同じになるのだろうか。
戦いは続いている。第5ステージは33kmの個人タイムトライアル。総合系ライダーの間に、大なり小なりタイム差が発生。それを受けて、総合系ライダーおのおのの「設定すべき目標」が何かしら見えてくるかもしれない。本当に2位狙いで良いのか、やはりマイヨ・ジョーヌを目指すべきなのか、または別の何かか。
どこを目指すのが得策なのかは、レースが進むうちにクリアになる。ただひとつ確かなのは、マイヨ・ジョーヌへの強き思いを持っている選手が相当に存在していることだ。
文:福光 俊介 from Rouen, France
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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