人気ランキング

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム一覧

サイクル ロードレース コラム 2025年7月8日

スプリンターに明暗…メルリールが4年ぶり区間優勝。マイヨ・ヴェールのフィリプセンが負傷リタイア|ツール・ド・フランス2025 レースレポート:第3ステージ

サイクルロードレースレポート by 山口 和幸
  • Line
メルリールが2021年以来となるツール通算2勝目

メルリールが2021年以来となるツール通算2勝目

第112回ツール・ド・フランスは7月7日、ヴァランシエンヌ〜ダンケルク間の178.3kmで第3ステージが行なわれ、激しいスプリント争いのクラッシュで観客から悲鳴が起こった。ゴールスプリント勝負を制したスーダル・クイックステップティム・メルリール(ベルギー)が2021年以来となる大会通算2勝目をあげた。一方、ポイント賞のマイヨ・ヴェールを着たヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)が中間スプリントポイントで路面に叩きつけられ、その場でリタイアした。

前半戦の単調な走行からまさかの悲劇へ

北フランスのリールを拠点とした3日間の最後のステージ。フランス最北端のダンケルクをフィニッシュとする距離178.3kmのコースは、147.4kmに標高144m、山岳賞カテゴリー4級の丘があるだけでほぼ平坦だ。天候は思わしくなく、不意の雨に備えた選手たちはウインドブレーカーを着用するなどでスタート。気温は20度に届かず、1週間前に熱波が襲った欧州にあって選手たちにとっては走りやすい状況でもあった。

ダンケルクを目指す一日、天候は不安定ながらレースが動き出す

ダンケルクを目指す一日、天候は不安定ながらレースが動き出す

7月7日といえば日本では七夕だが、スペインではサン・フェルミン祭の日。バスク地方のパンプローナでは有名な牛追いの祭礼が行なわれるのだが、毎年のツール・ド・フランスではスペインチームの全選手と全スタッフが赤いバンダナを首に巻いてスタート地点に登場する。もちろん今年もモビスター・チームがこの美しい伝統を守ってくれた。

それにしてもアルペシン・ドゥクーニンクは最高の形で開幕からの2日間を過ごした。初日はスーパースプリンターのフィリプセンがステージ優勝して、そのまま総合1位のマイヨ・ジョーヌを獲得。2日目はダブルエースのマチュー・ファンデルプール(オランダ)がステージ優勝し、マイヨ・ジョーヌをフィリプセンからファンデルプールに譲り渡す形となった。さらにポイント賞のマイヨ・ヴェールは2日間ともフィリプセンが堅持。2年ぶり2回目のポイント賞獲得に絶好のスタートを切った。ところが…。

この日は重苦しい天候がアタッカーのやる気を削いだようで、スタートしてすぐにわずかなアタックが見られたものの自らが抜け出しを断念して集団に吸収されるシーンが見られた。マイヨ・ジョーヌのファンデルプールとその7人のチームメートが大集団の先頭に立って無理のないペースで走る序盤戦が続く。

100kmにわたり集団は静かに進行、アタックは一度も起きず

100kmにわたり集団は静かに進行、アタックは一度も起きず

じつはこの状況が100km続いた。アルペシン・ドゥクーニンクのエミル・フェルストリンヘ(ベルギー)とシルヴァン・ディリエ(スイス)、スーダル・クイックステップのマキシミリアン・シャフマン(ドイツ)が時速40kmを維持して我慢強くペースメーク。アタックする選手は1人も出現しなかった。

2年ぶりのポイント賞獲得を目指したフィリプセンが負傷リタイア

淡々とメイン集団が走り続けて、118.2km地点に設定されたイズベルグの中間スプリントポイントへ。この町はグランプリ・ディズベルグというUCIコンチネンタルレースの開催地であり、目の肥えた自転車レースファンも多い。このイズベルグでアクシデントが起こった。ハイペースの中間スプリントポイント争いでマイヨヴェールを着用するフィリプセンも積極的に1着通過を狙った。前を走る選手が接触によって大きくはじかれ、フィリプセンの前輪が払われた。たまらずフィリプセンは単独クラッシュ。路面に叩きつけられ、ただちに医療チームにより応急処置が行なわれたが、自転車に乗ることは不可能でこの地点でリタイアを余儀なくされた。

この主力選手の脱落で選手らはさらに意気消沈。白熱するはずだった中間スプリント合戦もバラバラになり、リドル・トレックジョナタン・ミラン(イタリア)が心配そうに後方を確認しながらラインを通過した。フィリプセンがリタイアしたことで、この時点ではアンテルマルシェ・ワンティビニヤム・ギルマイ(エリトリア)がポイント賞のバーチャルリーダーとなった。

マイヨ・ジョーヌを持つアルペシン・ドゥクーニンクにしてみたら大成功の2日間から悪夢を見る思いの状況変化だ。この日の目的の半分をなくしてしまったのだからレースコントロールにパワーが入らない。レースは集団のまま147.4km地点の唯一の山岳ポイントへ。ここでUAEチームエミレーツ・XRGのティム・ウェレンス(ベルギー)が単独で抜け出した。

前日までの山岳賞争いはポガチャルが3点で1位、チームメートのウェレンスが2点、コフィディスのバンジャマン・トマ(フランス)が2点。山岳賞で同点となった場合、難度の高い山岳ポイントの通過が多いほうが上位になる。ウェレンスは3級山岳を1回トップ通過しているのに対し、トマは4級山岳しかトップを取っていないため、ウェレンスが2位、トマが3位となっていた。

この日の4級山岳は1着通過選手に1点が与えられるだけだが、ウェレンスが戦略的に取りに行った。その結果、ポガチャルとウェレンスは3点で並ぶ。しかも両者は3級山岳の1位通過の回数が互角、この場合は4級通過の1位通過の多い方で決めるためウェレンスが翌ステージで山岳賞ジャージを着用する。

山岳賞ジャージはポガチャルからウェレンスへ

山岳賞ジャージはポガチャルからウェレンスへ

「昨夜、タデイ・ポガチャルと、私が水玉模様のジャージを着る可能性について話し合った。彼は山岳賞ジャージを着るのはうれしいと言ったが、彼は寛大な人なので、チームメートとして分け合っても構わないと言ってくれた」とウェレンス。

ウェレンスは2019年に第3ステージから第17ステージまで山岳賞ジャージを着たことがあり、「ツール・ド・フランスでそれがどんなに名誉なことか分かっている」とも語っている。
「もちろん、タデイを助けるためにここに来たのだが、脚の調子はとにかくよくて、山岳ポイント獲得にそれほどエネルギーはかからなかった」と喜びを表した。

大本命がいなくなりポイント賞争いは混迷

ステージ優勝争いは最後のスプリント勝負へ。最終コーナーでも派手な落車があり、前方でそれを回避できたミランがスパート。しかしわずかにメルリールが先着した。ステージ優勝はメルリール。優勝できなかったミランだが、2着でポイント賞を獲得し、第3ステージでマイヨ・ヴェールを獲得することになった。チームメートのフィリプセンを失ったファンデルプールは、しっかりと上位でゴールしてマイヨ・ジョーヌを守ったものの、笑顔はない。

最終スプリントでメルリールがわずかに先着、ステージ優勝を飾る

最終スプリントでメルリールがわずかに先着、ステージ優勝を飾る

「チーム全員がフィリプセンのことを心配している。彼がこんな形で去ってしまうのは本当に残念。どこかを骨折している可能性が高い。彼が再びマイヨ・ヴェールを獲得するという目標がありました。今日は幸せな日ではない。チームはカーデン・グローブスがスプリンターになる。彼はここ数年、大きなレースで勝てる力を示してきているので期待したい」とファンデルプール。

一方、「とてもうれしい。ツール・ド・フランスでの2度目の勝利だ。ツール・ド・フランスではスプリントをしたのは2回だけだけどね」と欧州チャンピオンのメルリール。
「最後の5kmはスリップストリームに位置するのが本当に難しかった。自分のポジションを見つけるのに何度もトライしなければならなかった。スリップストリームを確保できたのは、最後の500m。かなり体力を消耗したが、一度ポジションを手に入れてからは、自信を持ってスプリントできた」

ミランとの戦いは僅差で、メルリールは自分が先着したことは分かっていたという。「ステージ優勝を狙ってここに来た。もちろんマイヨ・ジョーヌも目標の一つだったが、ステージ優勝できてうれしい」(メルリール)

自転車好きコミュニティサイト(無料)のお知らせ

  • 優勝者を予想する「サイクル誰クル?」のほか、メンバー同士が好きなテーマで話せる「トークルーム」、投稿された写真の中から辻啓氏が毎月優秀作品を数点セレクトする「写真部」、飯島誠氏によるオンラインライドイベントを開催する「宅トレ部」などコンテンツが盛りだくさん。

    サイクルビレッジ | J SPORTS【公式】

    優勝者を予想する「サイクル誰クル?」のほか、メンバー同士が好きなテーマで話せる「トークルーム」、投稿された写真の中から辻啓氏が毎月優秀作品を数点セレクトする「写真部」、飯島誠氏によるオンラインライドイベントを開催する「宅トレ部」などコンテンツが盛りだくさん。

2位のミランは満足できない表情だった。
「まずは今日クラッシュしたフィリプセンと他の選手たちにはボクがこんな形でマイヨ・ヴェールを着ることになって本当に申し訳なく思っている。中間スプリントでポイントを積み重ねることができるように走っている。しかし、今日はステージ優勝を目標にしていたため、喜びはあまりない。まだ勝利していないが、これからも勝ちを追い求めていきたい」とミラン。

翌ステージはいよいよ北フランスを離れ、フランスを左回りに1周する旅を始める。8日の第4ステージはアミアンメトロポールからルーアンまでの174.2km。終盤に波状的に5つの上りが出現するコースは思わぬタイム差が生じる可能性もある。9日に第5ステージとして行なわれる33km個人タイムトライアルをにらんでの戦いになりそうだ。

文:山口 和幸

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ