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【輪生相談】日本で自転車というスポーツが発展するためには、価格ハードルを下げるための仕組みが必要なのではないかと思っているのですが、栗村さんはどのようにお考えでしょうか??
輪生相談 by 栗村 修
昨今ロードバイクの価格がどんどん高騰化してきています。それに伴い、自転車をやってみたいと思っても金銭的なハードルのせいで踏みとどまっている人も増えているのではないでしょうか。(とくに若い人ほど影響は大きいと思っています。)日本で自転車というスポーツが発展するためには、価格ハードルを下げるための仕組みが必要なのではないかと思っているのですが、栗村さんはどのようにお考えでしょうか??
(男性 会社員)
■栗村さんからの回答
価格の高騰は、昨年、実に20年以上のブランクを経て本格的にロードバイクに乗り始めた僕も身をもって感じています。栗村少年がロードバイクに乗り始めた1980年代後半と比べると、価格は軽く数倍に上昇しており、まるで別世界ですよね。
でも、その高額化にきちんとした根拠があるかどうかは皆さんも気になるところでしょう。今回、お答えするにあたって、同じ二輪車であるオートバイの価格が気になり、AIに質問してみました。すると、「オートバイの新車価格は、一般的には、250ccクラスで50万円前後、400ccクラスで70万円前後、大型バイクになると100万円を超えるものが多くなります」との回答が返ってきました。
意外と安くないですか? 念のため、高級車メーカーであるBMWのバイクならさぞ高いだろうと思って調べてみたのですが、1,000ccクラスでも200万円以下のモデルがそれなりにありました。ハイエンドロードバイクはBMWのオートバイよりも高いわけです。しかもロードバイクの場合「エンジン」は別売りです。
もちろん、オートバイとロードバイクは作り方も市場のありかたもまったく違いますから、単純比較はできないのは理解しています。でも、部品点数が自転車よりはるかに多いオートバイがロードバイクと大して変わらない、下手をしたらもっと安い価格帯で売られている事実は、いろいろと考えさせられます。
ロードバイクの高額化については、原材料費の上昇や物価高、円安、高性能化など様々な理由が囁かれていますが、オートバイにも似た事情があるはずなのに、上に書いたような価格帯で売られているわけです。「最近のロードバイク、高すぎない?」という質問者さんの感想は無理もないでしょう。
もちろん、性能や部品点数だけで価格が決まらないことは理解しています。例えばプレミア化という現象があり、それが価格に乗ることはよくありますよね。たとえば、ポガチャルも愛用しているリシャール・ミルの腕時計は数千万円もしますが、カシオの5,000円の腕時計の1万倍の部品点数があるとか、1万倍の機能が搭載されているわけではないですよね。
その意味では価格高騰は理解できるのですが、問題は、ハイエンドロードバイクが一般市民向けの乗り物ではなく、プレミア化した高級腕時計のほうに向かいつつある現状が果たして、自転車業界にとっての正解か否かは、考えなくてはなりません。初期投資に100万円以上も必要な趣味に、若い人たちが参入するでしょうか? 業界の首を絞めてはいないでしょうか。
ところが、実は価格高騰の裏には対照的な動きもあります。たとえば、TOJで日本人最優秀選手賞となる個人総合10位に入った金子宗平選手は「3,000円のサドルを愛用している」と語っていました。
似たような例は、けっこう聞きますよね。宇都宮ブリッツェンは有名メーカーではなく、「VRECORD」という、自社で手掛けるオリジナルブランドのホイールを使っています。価格は有名メーカーの半額以下ですが、今年のチームの活躍ぶりを見る限り、モノが悪くないのは間違いないようです。
このように、とんでもなく高い商品と、リーズナブルだけれど性能がいい商品への二極化が進んでいるのが、今の自転車界ではないでしょうか。よくよく調べると、実は安くていい機材があふれていることに、最近の僕は気づき始めています。金子選手のように頭が良くて研究熱心かつ合理的でリサーチ力にも優れた選手は、もっと前から気づいていたのでしょうね。
高級機材を腕時計に例えましたが、ロードバイクはやはり実用品であり、装飾品としての側面が強い腕時計とは違います。もし、100万円のホイールと同じ性能を持つ15万円のホイールが市場に出回り始めたらどうなるでしょうか? たぶん、前者を選ぶのは圧倒的な経済力があり、ブランド志向の強いサイクリストに限られるでしょう。
もちろん、高価格帯の商品があることは、悪いことではないと思います。ユーザーは極限まで高性能化されたバイクに乗る喜びとプレミア感を味わえますし、利益率が上がるのはメーカーや販売者にもいいことでしょう。薄利多売が行き過ぎると、市場を陳腐化させるリスクもありますからね。
ただ、問題はそのバランスだと思います。世の中は必ずしもお金持ちばかりではありませんから。
今はまだ、大手メーカーの信頼とブランド力が強いですが、今後、その数分の一の価格で同程度のモノを出す新興ブランドが増えてきたら、市場原理によって状況は大きく変わると思います。それは、価格面での「多様性」と言ってもいいかもしれませんね。長い目で見ると、こうした流れを止めるのは難しいのではないでしょうか。
もちろん、ネットを中心に怪しげなコピー品が出回り、安全性に問題のある商品が存在することは大きな問題です。こうした商品は当然、排除されるべきです。でも、低価格でしっかりとした商品が着実に増えているのも、また、明らかな事実です。
質問者さんがおっしゃるように、価格のハードルは引き下げられるべきだと僕も考えていますが、その仕組みを整えるのは、残念ながら個人の力だけでは難しいのが現実です。それでも、市場の力が過熱しすぎた状況を徐々に是正しつつあるようにも感じられます。
栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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