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【ツール開幕直前!タデイ・ポガチャル徹底分析vol.4】キャリア最高シーズンとなった2024年 ジロ・ツール・世界選手権の3冠“トリプルクラウン”の達成
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ポガチャルは歴代レジェンドと肩を並べる存在に
ツール・ド・フランス4度目の頂点を目指すタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)の強さと人柄に迫るコラムの4回目。現代の自転車ロードレースシーンにあって、最高にして最強の男の歩みを振り返っていく。今回は、ヨナス・ヴィンゲゴーの出現によるロードレース史に残るであろうライバル関係と、キャリア最高シーズンとなった2024年の戦いについて。
最大にして最高のライバル、ヨナス・ヴィンゲゴーの出現
史上最年少でのツール・ド・フランス連覇を果たしてからは、東京五輪ロードレースで銅メダル、イル・ロンバルディアで初優勝を飾り、2021年シーズンを締めた。だんだんと、その走りをファウスト・コッピやエディ・メルクス、ベルナール・イノーといった偉大な人物に投影する人々も増えていく。このシーズンは2つのモニュメントとツールを制している。それは、3人と並ぶ偉業だった。
2022年も快調にスタートを切った。UAEツアーでは総合で2連覇し、ストラーデ・ビアンケでは約50kmの独走劇。勢いのままにティレーノ~アドリアティコも制覇。3連覇がかかるツールに向けて、視界は良好だった。
スポーツの世界において、飛びぬけたひとつの才能をきっかけに全体水準が上がっていくことは往々にしてある。当時のサイクルロードレースシーンにも、それが当てはまっていた。どこか“ポガチャル一強”の趣きとなりかかっていた陰で、走りを研ぎ澄ませていた男がいた。
前年のツールでポガチャルに次ぐ地位を押さえたヨナス・ヴィンゲゴーは、自国デンマークでの開幕で身も心も満たされていた。チームプレゼンテーションの盛り上がりに涙した気鋭のオールラウンダーは、グラノン峠を上った第11ステージで、ついにポガチャルを引き離した。
ポガチャルはティレーノで、ヴィンゲゴーに2分近い総合タイム差をつけて勝っていた。それが、ツールでは立場が逆転。第17ステージのペイラギュードでヴィンゲゴーとのマッチアップに勝ったのがせめてもの救い。ヴィンゲゴーの強さを、そして彼が所属するユンボ・ヴィスマ(現チーム ヴィスマ・リースアバイク)の硬い戦略を、最後まで打ち崩すことはできなかった。
この頃のポガチャルは、出場するレースすべてで勝ちにいく姿勢を見せていた。コンディション調整にも努め、ベストな状態でスタートラインに並ぶ。ただツールで敗れたことで、そのスタンスがみずからの消耗を招いているのではないか…との見方が強まっていった。かたや、ヴィンゲゴーはツールになると強かった。もちろん、それまでにもいくつものレースには出場するものの、ポガチャルほどのインパクトを残すでもない。しかし、ツールで対峙すればポガチャルに勝った。
ポガチャルにとって最大のライバルであるヴィンゲゴー
アプローチは違えど、ツールの頂点を狙う者同士であることには変わりない。互いをリスペクトしあった。ヴィンゲゴーは「プライベートでかかわることはないけど、同じ目標を持つ友人なんだ。彼が僕をやる気にさせてくれるんだよ」と語った。タデイ・ポガチャルとヨナス・ヴィンゲゴーのライバル関係は、いまにも続いている。
キャリア初の大けが、再度のツール敗北
ツールで敗れたとはいえ、そのキャリアには輝きしかなかった。着実に、そして確実に、勝利を重ねていく。2023年の春は、ロンド・ファン・フラーンデレンで初優勝。強さは、北のクラシックにも及んだ。
しかし、状況は一変。アルデンヌクラシック同一シーズン3連勝をかけて挑んだリエージュ~バストーニュ~リエージュでまさかの落車。手首を骨折し、戦線離脱を余儀なくされた。そこからツールまでの2カ月間は、ウォーキングやホームトレーナーでのトレーニングに時間を注ぎ、開幕2週間前に高地トレーニングでチーム合流。ギリギリでツールに間に合わせた。
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大会が進むにつれ、前年同様にヴィンゲゴーとの一騎打ちの様相と呈していく。ステージ優勝も挙げ、怪我の影響を感じさせない強さを見せていたが、第3週で力尽きた。第17ステージでヴィンゲゴーから約6分遅れ、マイヨ・ジョーヌ奪還の目標は霧散した。力が入らない己の体を悔やみながら、チームメートに「先に行ってくれ」と伝えたシーンは、長く語り継がれるであろう衝撃的な出来事でもあった。
勝つために夢中で走った2024年 史上8人目のダブル・ツール達成
2年連続での敗北を喫したツールを経て、その冬。ポガチャルは「アンディアモ(イタリア語で“さあ、行こう”を意味する)」のひと言ともに立ち上がった。
ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの2冠、“ダブル・ツール”への挑戦を決意したのである。
幾多の選手が挑んでは跳ね返された、グランツールの高みへ。前述の「アンディアモ」は、出場意思を表明したジロのプロモーション動画での一声である。それを見たある有識者は「ポガチャルは愚か者だ」と笑った。だが本人は、「1年のうちに3つのグランツールすべてで勝つイメージだってできているんだ」と返してみせた。
春のレース数を絞り、限りなくフレッシュな状態でジロへと臨んだ。第2ステージでマリア・ローザに袖を通すと、最後の最後まで誰にも脱がされることはなかった。3位で終えていた第1ステージだって、戦術ミスがなければ勝てていたかもしれないレースだった。
イタリアでの3週間、プロトンは完全に屈服し、反応する術もなく、もっとも反応する気配すらなかったことだって…。終わってみればステージ6勝。2位との総合タイム差は9分56秒。10分差に4秒足りなかったことに、ポガチャルは不満さえ覚えていた。
とはいえ、ダブル・ツールを達成するうえで大前提となるジロを勝ったことで、メンタル的に楽になった。「アタックするときはいつだって行けると直感したときだよ」との言葉通り、迷いなく攻撃を繰り出した。第4ステージのガリビエ峠でライバルを引き離し、第2週のピレネーではヴィンゲゴーとのマッチアップに勝った。
この大会はヴィンゲゴーのほか、のちにパリ五輪で2冠を果たすレムコ・エヴェネプール、ポガチャルみずからロールモデルだと語るプリモシュ・ログリッチらが参戦し、総合系ライダーの顔触れは史上最高クラスだった。そんな彼らでさえも、日を追うごとにみずからの運命を悟らざるを得なかった。
第3週は、ダブル・ツールへのウイニングライド。山岳2ステージを制し、この年限定での最終ステージとなったモナコからニースへのジェットコースターのような個人タイムトライアルにも勝利。普段は明るく、ユーモラスな彼も、2つのグランツールを勝つために、そしてツール復権を果たすために、冷酷かつ無慈悲であり続けた。
ダブルツールを達成しキャリア最高の年になった2024シーズン
コッピ、ジャック・アンクティル、メルクス、イノー、ステファン・ロッシュ、ミゲル・インデュライン、マルコ・パンターニ、そしてポガチャル。史上8人目となるダブル・ツールの偉業。彼らに共通するのは、勝利に憑りつかれ、勝利を追い求めることに夢中になり続けたところにある。
ポガチャルはその後、世界選手権ロードレースも制覇。101kmに及ぶ驚異的な独走劇でのマイヨ・アルカンシエル獲得は、メルクスとロッシュに次ぐ3人目となるトリプルクラウン(ジロ、ツール、世界選手権ロードの3冠)でもあった。3つの大きな勝利に費やした距離は7088km、獲得標高101400m、山頂フィニッシュ13回、タイムトライアル4回、リーダージャージ着用日数39日、ステージ優勝12回。雨にも、風にも、雪にも、灼熱の熱さにも、ポガチャルは負けなかった。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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