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サイクル ロードレース コラム 2025年6月24日

【ツール開幕直前!タデイ・ポガチャル徹底分析vol.3】史上最年少でツール・ド・フランス2連覇 名実ともに世界最強のロードレーサーに

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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ツール初制覇を成し遂げた後も順調に歩みを進めるポガチャル

vol.2はこちらから

ツール・ド・フランス4度目の頂点を目指すタデイ・ポガチャルUAEチームエミレーツ・XRG)の強さと人柄に迫るコラムの3回目。現代の自転車ロードレースシーンにあって、最高にして最強の男の歩みを振り返っていく。今回は史上最年少でのツール・ド・フランス連覇までの道のり。

ツール制覇で変化したレースに対するマインド

衝撃のツール・ド・フランス制覇によって、周りからの見方が変わっていても不思議ではなかった。ただ、このときばかりはパンデミックによる社会生活の変化がポガチャルに味方した。いつもであれば祝賀会や取材に追われレースどころではなくなるが、他者との接触が制限されている状況ではそれらへの対応は劇的に少なかった。取材は、基本的にZOOMによるオンラインインタビュー。8カ月ほどは毎日のようにメディアとのやり取りを行ったが、レースやトレーニングのスケジュールまで脅かされることはなかった。

ツールを勝ったことで大きく変わったのは、競技に対するマインドだったという。「ツールを一度勝ったことで気持ちが楽になったのかもしれない。毎レース勝つために準備するのは本当に大変なんだ。自信がついて、モチベーションも高まっている。そこまで深く考えなくてもレースで結果を出せるような気がしている」。

ツール初制覇後、イレギュラーを通り越し混乱のまま進んだパンデミック下でのレースシーズン。落ち着かない中でも、ロード世界選手権ではプリモシュ・ログリッチのアシストに従事し、リエージュ~バストーニュ~リエージュでは初の表彰台となる3位入賞。世界最強ライダーとしての道筋は、確かに切り拓かれていった。

クラシックレースでも強さを発揮

当時UAEチームエミレーツ(現UAEチームエミレーツ・XRG)のマネージャーを務めていたアラン・パイパーは、ポガチャルを「一度勝ち始めたら、誰にも止められない。自分自身にだけでなく、チームにも良い作用をもたらす不思議な能力を持ち合わせている」と評した。

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ツール王者として迎えた2021年シーズン。パイパーが表現した通りに、破竹の勢いで勝利を重ねていく。チームのホームレースで、関係者にして「ツールの次に重要なレース」というUAEツアーで初優勝。3月にはティレーノ~アドリアティコでも初戴冠し、前年のツール制覇がフロックではないことを証明する。

この頃のポガチャルは、新たな野望を抱いていた。ステージレースへの情熱は、ワンデークラシックへも及び始めていた。「とにかくいろんなレースに挑戦して、多くのことを学んでいきたい」。その一念は、チーム首脳陣からの期待値に反映されていく。

クラシックレースでもその強さを遺憾なく発揮

迎えたアルデンヌクラシック最終戦、リエージュ~バストーニュ~リエージュ。優勝争いは5人によるスプリント。3位となった前年と同様の展開で、今度は一番にフィニッシュラインに飛び込んでみせた。晴れのクラシック初優勝。

チーム首脳陣にしても、ポガチャルのウィークポイントが見つからなくなっていた。戦術理解度、コースへの適応性、ハングリー精神、モチベーション、メンタルの強さ、そしてフィジカル。22歳にして、もはやなにひとつ指導する必要性がないレベルにまで到達していた。「もう偉大な選手なんだよ。成長なんて言葉では表現できないところまで行ったんだ。あとは…トレーニングをやりすぎないように見守るだけだね」とはパイパー。

最年少でのツール・ド・フランス連覇

キャリア2回目となるツールに向けては、自国スロベニアでのステージレースを最終調整に活用し、本番のスタートラインについた。

前回大会のリベンジに燃えるログリッチ、2018年大会の覇者ゲラント・トーマス、この大会後に東京五輪ロードレースで勝つこととなるリチャル・カラパスら、ライバル視されている選手は多かった。当然のようにマークが厳しくなったが、若き王者が動揺することはなかった。

グランツールレーサーとしての真価を発揮したのは、第5ステージ。27.2kmの個人タイムトライアルで、スペシャリストたちを凌駕する圧倒的な走りを披露。クライマーじゃなければ対応できないようなハードな上りがあったわけではない。むしろ平坦コースである。「平坦・丘陵・山岳・タイムトライアルをすべてハイクオリティで走る」という、ツール王者としての条件を完全に満たした瞬間だった。

このタイムトライアルで完全に流れをつかむと、第8ステージでは総合争いのライバルから4分以上のリードを得る圧巻の走り。いよいよマイヨ・ジョーヌに袖を通すと、以降その座は揺らがず。ピレネー山脈を駆けた第17・第18ステージでは連勝し、終わってみれば2位以下に5分以上の大差をつけて個人総合2連覇。22歳でのツール連覇は、今も破られていない最年少記録である。

劇的な大逆転での初制覇から約1年、今度は強さを見せつけての個人総合優勝。あまりの強さに、SNSや一部メディアではドーピングを疑う記事やコメントが躍った。でも、それはサイクルロードレース界ではお決まりの流れでもある。強い選手が現れれば、すぐにドーピング疑惑が沸き上がる。過去の悪しき風習がそうさせているわけだが、ポガチャル本人は意に介さなかった。「まあ、この競技にひどい歴史があるのは確かだからね。気分は良くないけど、怒っても仕方ないよ。そうした声が挙がるのも僕は理解できるよ」。

22歳にしてツール2連覇の偉業を達成

ダブル・ツールの夢、そして強力なライバルの出現

ツール連覇と時を同じくして、UAEチームエミレーツと2027年までの契約延長に合意。年俸7万ユーロから始まったプロキャリアは、この時点で500万ユーロ(現在のレートで約8億5000万円)まで上がっていた。

金額に比例するように、ポガチャルはみずからの可能性を広げたいと考えていた。やがて、その思慮はとてつもなく高いところで帰結する。

「ジロ・デ・イタリアとツールの2冠を3年以内に達成する」

1998年にマルコ・パンターニが達成して以来、幾人もがトライしては跳ね返された“ダブル・ツール”の達成へ。勝利を重ねるたび、壮大なチャレンジへの意志は強くなっていった。

一方で、打倒ポガチャルに燃える選手たちが着実に、確実に、実力を高めてツール王者に迫ろうとしていた。この年のツールですい星のごとく現れ、ポガチャルに次ぐ地位を押さえていたヨナス・ヴィンゲゴーとは、やがてサイクルロードレース史に残るライバル関係となる。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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