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ポガチャルがツール前哨戦を制しキャリア通算99勝目!山岳でヴィンゲゴー、レムコらを圧倒|クリテリウム・デュ・ドーフィネ2025:レビュー
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介圧倒的な強さでドーフィネを制したポガチャル
ツール・ド・フランス王者がすこぶる順調だ。ツールの前哨戦として名高いクリテリウム・デュ・ドーフィネでタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)が個人総合優勝。全8ステージ中3回勝利し、ライバルを圧倒。昨年のツールトップ3が集結し直接対決に注目が集まったが、ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ヴィスマ・リースアバイク)とレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)は、現時点でポガチャルとの差がある印象だ。
「2020年にドーフィネ(個人総合4位)を走っていて、あの1週間がどれほど大変だったかをいまだに覚えているんだ。あれから5年経ったけど、ツールを目前にこの大会で良い走りができて本当にうれしいよ」(ポガチャル)
TTの遅れを山岳で取り戻し、さらにアドバンテージ
意外にも、ドーフィネ初制覇である。2020年に初めてツールを制して以降のポガチャルは、春のクラシックを終えると休養し、6月に入ってからツールへの最終調整として数レース出場するのがお決まりのスケジューリング。その最終調整レースが自国開催のツアー・オブ・スロベニアの年もあったし、怪我の影響で国内選手権のみを走ってツール本番を迎えたこともあった。昨年はジロ・デ・イタリアを走ってからツールに乗り込んでいる。
その意味では、今年のポガチャルはアプローチを変えている。ツール前の脚試しとして、今の彼にはドーフィネが最適…ということだろうか。実際にそう感じさせる今大会の走りだった。
第1ステージからギアを上げた。この日最後の登坂区間であった4級山岳でヴィンゲゴーが先に仕掛けると、すぐさま反応。マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)やレムコらも加わって集団からリードを奪うと、そのままステージ優勝争いへ。マチューをかわし、最後はヴィンゲゴーとのハンドル投げに勝ってオープニングウィン。リエージュ~バストーニュ~リエージュ以来のレースにも勘は鈍っていない。。
第2ステージでいったんリーダーの座を降り、第3ステージも穏やかに終えると、第4ステージで個人タイムトライアルに臨む。ここで、ポガチャルには珍しく明確な失敗があった。
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「ペース配分を少し間違えた。前半を抑えすぎてしまっていたんだ。もう少しプッシュしても良かった。まぁ、それほど気にすることではないのだけれど…」(ポガチャル)
まぁ、それほど気にすることではないのだけれど…。その言葉通りに、タイムトライアルでの遅れは大会終盤の山岳3連戦で取り戻した。126.7kmに5つのカテゴリー山岳が詰め込まれた第6ステージ、ヴィスマやUAEが主導権争いをする中でレムコが遅れ、満を持して残り7kmでアタックするやヴィンゲゴーをも振り切った。今大会2勝目を挙げるとともに、最大のライバル・ヴィンゲゴーに1分以上の差をつけることに成功。5日ぶりにマイヨ・ジョーヌに袖を通した。
完全に勢いに乗ったポガチャルは、第7ステージでもヴィスマ勢の猛攻をしのいで超級山岳フィニッシュへ一番登頂。最後の12kmで飛び出して、前日に続いてヴィンゲゴーを振り切る。この日の両者のタイム差は14秒だったが、マイヨ・ジョーヌをキープするには十分な走り。
最終・第8ステージも盤石で、レムコやヴィンゲゴーのアタックに対応。最後はヴィンゲゴーに前を譲りつつフィニッシュラインを越えて、ドーフィネ初優勝を決めた。
キャリア100勝目はツールで?
前哨戦に勝ち、向かうはツール本番。ドーフィネとツールを同一シーズンに連勝しているのは11人。これを多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだが、ひとつ確かなのは「ドーフィネに勝ったから、ツールも勝てる」とは限らない、ということ。12人目となる偉業へ、資格は得た。さあ、ツールでは果たして。
「ツールは今シーズンの最大目標だよ。ドーフィネで勝ったことはチームの士気と僕自身のモチベーションに大きく作用するだろうね」(ポガチャル)
第4ステージの個人タイムトライアルでは、勝ったレムコに48秒の差をつけられた。前述したように、本人が失敗レースだったことを認めているが、ポガチャルの調子が上向いていないのではないかとの見方も少なからずあった。とはいっても、この時期にあまり調子が良すぎて、ツール本番で調子のピーク過ぎてしまっては元も子もない。タイムトライアルの走りはツール開幕までの3週間で修正することだろう。
「タイムトライアルの改善は必要だと思うけど、それ以外は準備を急ぐ必要はないかなと思っている。ネガティブだった部分がポジティブに変えられてとても満足しているんだ」(ポガチャル)
ドーフィネのタイトル獲得で、キャリア通算99勝目となった。記念すべき100勝目はどこで。ツールで決まれば、何ともエモーショナル。それこそ“持っている男”の姿である。
ヴィスマは総力戦で打倒ポガチャルへ
ヴィンゲゴーも、レムコも、ドーフィネを終えた時点ではポガチャルを追う立場にあることは明白だ。
ヴィンゲゴーは、今大会でのポガチャルとのタイム差は59秒。第1ステージから直接対決を演じたが、第6・第7ステージで差を付けられた。これを受けて、「タデイの弱点を見つけるのは難しいし、ツールの総合優勝候補ナンバーワンだ」とライバルの強さを認める。それでも、残りの期間はみずからのコンディションアップにフォーカスする構えだ。
「アタックや長い距離のクライミングなど、あらゆる面でレベルを上げていきたい。とにかく自分のことだけに集中していきたい」(ヴィンゲゴー)
ヴィンゲゴーにとっては、プロトン随一の戦力を誇るチームがバックにつく。今大会も要所で動いたマッテオ・ジョーゲンソンやセップ・クスに加えて、ジロ・デ・イタリアを制したサイモン・イェーツもツールで合流予定。そして“真打ち”ワウト・ファンアールトも控えている。打倒ポガチャルへ、総力戦は必至だ。
ヴィンゲゴーを中心に打倒ポガチャルに挑むチーム ヴィスマ・リースアバイクの面々
レムコは第4ステージを勝ち、改めてタイムトライアルの強さを示した。第5ステージでの落車が山岳での走りに影響した感があるが、大けがは免れている。ツールへ、もう一段階上げてポガチャルやヴィンゲゴーと同じ土俵に立ちたい。
バルデは14年のプロキャリアに幕
ツール本番を前に、新しい力も台頭している。
総合表彰台に食い込んだのは、24歳のクリスティアン・リポヴィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)。山岳でのハイクオリティさが生きて、ポガチャルとヴィンゲゴーに続いた。個人総合成績でレムコを上回ったことで、マイヨ・ブランを獲得。ツール出場も内定しており、本番でどんな役回りになるのか見ものだ。本人はあくまで「チームのレースはプリモシュ(ログリッチ)」と語っているが、状況次第では総合エースを担うことも。
ポール・セイサス(デカトロン・AG2Rラモンディアール)は、個人総合8位。順位はもとより、18歳の好走に世界が驚いている。今年はツールを回避する見込みだが、シーズン中に大きなリザルトが出ても不思議ではないところまで来ている。「いま、自分は正しい道を進んでいると確信できている」。昨年の個人TTジュニア世界王者は自信に満ちている。
第3ステージを勝ったイヴァン・ロメオ(モビスター チーム)は21歳。逃げで勝ったが、元来タイムトライアルを得意にしていて、昨年のU23世界王者にもなっている。こちらもツールに出場する見通しで、本番でも逃げやTTでアウトサイダー的な存在となりそうだ。
一方で、このドーフィネをもってプロトンを去る男の姿も。
14年間のプロキャリア最後のレースに挑むバルデを花道を作って送り出す選手たち
ロマン・バルデ(チーム ピクニック・ポストNL)は、宣言通りこの大会でキャリアを終了。毎ステージのようにアタックを打ったが有終はならず。それでも、第7ステージでは100km超を逃げてみせた。レース後には父と一緒に敢闘賞のポディウムにも登壇。そして、最終日にはプロトンが花道を用意し、そのキャリアを祝福した。今後はグラベルレースへの転身を発表しているほか、近々ではモトクロスレースへの参戦も予定。ツール第2週では、現地放送局の解説を務めるという。
ツール・ド・フランス2025開幕まで3週間。ドーフィネを指標にしながら、ツールをスタートするまでの期間にいかに情勢が動いているかを注視していきたい。サイクルロードレースシーズンは盛況を呈している。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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