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サイクル ロードレース コラム 2025年6月1日

サイモン・イェーツが大逆転で7年ぶりマリア・ローザ!独走のクリス・ハーパーがステージ初優勝|ジロ・デ・イタリア2025 レースレポート:第20ステージ

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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奇跡の大逆転でサイモン・イェーツが最終日前日に総合首位に輝く

奇跡の大逆転でサイモン・イェーツが最終日前日に総合首位に輝く

これぞジロ・デ・イタリア。3週間の長い戦いの終わりに、またしてもヒエラルキーがひっくり返った。総合上位2人の果てしない睨み合いの隙を突いて、この日の朝まで総合3位につけていたサイモン・イェーツが、驚くべき大逆転を成功させた。7年ぶりにマリア・ローザを身にまとい、今度こそ総合覇者として、最終日のローマへと凱旋する。

「間違いなく、人生で最高の1日だ」(S・イェーツ)

大きなリードを得て、ハーパーは静かなる独走へ

今年の5月に悔いを残さぬために、大会最後の山頂フィニッシュに向けて、多くの選手が闘志をむき出しにした。40kmほどの飛び出し合戦の末に、ついに31人の大きな逃げが出来上がった。

中でも存在感を見せたのが、すでに区間5勝を挙げてきたリドル・トレックだ。大会序盤の5日間をマリア・ローザで過ごしたマッズ・ピーダスンを含む3人を送り込み、精力的に逃げ集団を率いると、後方メインプロトンとのタイム差を力づくでこじ開けた。フィネストレの登坂口にたどり着く頃には、10分ものリードを有していた。

この大きなアドバンテージをうまく利用したのは、むしろクリス・ハーパーであり、ワウト・ファンアールトだった。

「7分差じゃとても逃げ切れないだろうが、8分差だったら、もしかしたら」と、ハーパーは走りながら計算していたという。そして平均勾配9.2%という恐ろしき山道が始まり、逃げ集団があっという間にばらけると、残り43km、「マイペース」で山を上る覚悟を決めた。

「これほど長くて厳しい上りの場合、必要なのは大きなパワーを出すことではなく、一定の努力を持続すること。体力を制御しながら走ること。これぞ僕の強みだから、自分のペースで上ったほうがいいと思ったんだ」(ハーパー)

今大会の最高標高地点「チーマ・コッピ」まで、いまだ17.5kmを残して、ハーパーは走りのテンポを切り替えた。アレッサンドロ・ヴェッレも必死に食らいついた。ただし、フィネストレ名物の未舗装路にいよいよ突入し、標高が2000mに近づくと、とうとうヴェッレは激勾配に耐えきれなくなった。

フィニッシュまで32.5km、ハーパーの勝利への独走が始まった。

冷静に独走し続けたクリス・ハーパーが自身初のステージ優勝

冷静に独走し続けたクリス・ハーパーが自身初のステージ優勝

動く?動かない?フィネストレで思惑が絡み合う

後方のメイン集団では、フィネストレの接近とともに、EFエデュケーション・イージーポストが隊列を組み上げた。さらには登坂口へ向けて猛烈なロングスプリントを開始し、複数の総合ライバルやUAEチームエミレーツ・XRGのアシスト勢を次々と後方へ吹き飛ばし……ついにはリーダーを勢い良く解き放った!

残り45kmで、総合2位リチャル・カラパスが打ち込んだ、すさまじいアタック。瞬時に背後に張り付いたのは、すでに11日間マリア・ローザ姿で走ってきたイサーク・デルトロだけ。

ただ山道はいまだ長く、険しく、ほんの2kmほど上った先で、総合3位のサイモン・イェーツが2人に追いついてきた。カラパスは警戒してスピードを緩め、デルトロはひたすらライバルの後輪から離れない。総合4位デレク・ジーも、いわゆるマイペースで距離を縮めてくる。今大会トップ4の思惑が、複雑に絡まり合う。

しかし、あらゆる「駆け引き」を拒絶し、思い切って仕掛けたのは、4人の中で最年長のサイモンだった。しかも、4度も。

1度目の加速は、カラパスが率先して穴を埋めた。2度目も、3度目も、やはりイェーツに対するリードはわずか38秒のカラパスが対応に回り、デルトロはただ10歳年上の元ジロ覇者に仕事を任せておいた。4度目の加速では、もう誰も動こうとはしなかった。

「山道はまだまだ長いのに、クレイジーなアタックに反応して、力を無駄遣いしてはならないと考えた。あれはギャンブルではなかった。僕はただ、自分が一番賢いと思ったやり方を貫いただけ」(デルトロ)

残り約40km、サイモンがただ遠ざかっていく姿を、カラパスとデルトロは黙って見送った。

過去との訣別、サイモンは忘れ物を取りに

「あの2人は、すさまじい爆発力を見せつけてきたけれど、一旦距離を開けさえすれば、僕はハイペースを維持できると確信していた。だから今日のプランは、とにかく独走に持ち込み、自分のやり方ですべてをコントロールすることだった」(S・イェーツ)

計画通りに、サイモンは軽快なリズムで、激坂を上り続けた。未舗装ゾーンでは「トラクションが十分にかからず」、得意のスタンディングポジションを取れずに苦しんだが、それでも少しずつ、着実に、後方2人とのタイム差を開いていく。

カラパスとデルトロが競い合う中、イェーツがスマートに攻めていく

カラパスとデルトロが競い合う中、イェーツがスマートに攻めていく

サイモンには、この山で、乗り越えるべき過去があった。2018年大会の第19ステージ。フィネストレの上りで、クリストファー・フルームにアタックを打ち込まれ、13日間守り続けてきたマリア・ローザをむしり取られた。その秋のブエルタで総合を制し、雪辱は晴らしたものの、「忘れ物」はずっと回収できずにいた。

「コースが発表になった時から、このステージのことを考えていた。ここへ戻ってきて、なにかトライしよう。そして、あの『章』を締めくくろうって」(S・イェーツ)

フィネストレの山頂は、ハーパーから4分45秒遅れで通過した。カラパスとデルトロとの差はすでに1分40秒近くに広がり、いつしかサイモンは暫定マリア・ローザとなっていた。

しかも、サイモンにとって頼もしいことに、山の向こうには……ファンアールトが待っていた。逃げがたっぷりタイム差をつけていたおかげで、最高のタイミングで、チームメイトは合流を果たす。

共闘なき追走、カラパスとデルトロは自滅の道へ

1人で毅然と先を目指した者たちに対し、後方の2人は、協力体制を築けなかった。カラパスはしばらくは決然と前を引いたが、デルトロは後輪から動かない。43秒差のカラパスを、1分21秒差のサイモン以上に警戒していたからだ。

「タイム差が一番近い選手に張り付いているべきだったから。それに、サイモンは3位だから、彼が飛び出していった時に、2位のカラパスが追うだろうと考えた」(デルトロ)

苛立つカラパスは、急加速を切ったり、突如として減速したり。あの手この手で揺さぶりをかけた。あくまでタイムトライアルの要領で上り続けるジーに、ペースメークを丸投げすることすらあった。

やがてサイモンが自らの地位を脅かす存在になったことに気がつき、ようやくデルトロも加速を試みた。カラパスにも協力を仰いだ。ただ、ライバルは、頑なに首をふった。少し前まで追走を試みていた自分に、君は協力してくれなかったじゃないか――と、21歳の頼みは冷たく突き返されたという。

そもそもカラパスは、逆転優勝目指して、チーム全体で勝負に出たのだ。総合2位の座を守るために走っていたわけではなかったはずだ。2022年ジロの第20ステージで、やはりマリア・ローザを失った過去を持つカラパスだが、あの日は自らが真っ先に勝負を仕掛け、そして正々堂々と敗れ去った。

「僕らが最強だったかもしれないが、僕らは最もスマートだった奴に負けたんだ」(カラパス)

一方、2年前のツール・ド・ラヴニールで最終日に逆転優勝を果たした時、デルトロはジュリオ・ペリツァーリと2人で協力しあってフィニッシュを目指した。区間も総合もワンツーフィニッシュを決め、山の上で互いの成功を称え合った。若き日の爽やかな思い出だ。

アシストが引き、リーダーが応えた

ダウンヒルに入っても、2人のいがみ合いは続いた。その間、はるか前方では、ファンアールトの素晴らしい献身により、サイモンは順調に先を急いでいた。

2022年ツールでは、前待ちの末に、オタカムの山頂フィニッシュでヨナス・ヴィンゲゴーの区間&総合優勝を見事に演出した「脚質ワウト」は、この日もその才能を惜しみなく発揮した。今ジロの最終峠、セストリエーレの山の中腹まで、夢中でサイモンを引き続けた。合流時点で1分50秒だった後方との差を、たっぷり5分近くにまで広げてから、残り6kmでサイモンを改めて前へと送り出した。

「すべてはサイモンの勇敢な努力があったからこそ。単に順位を守るために走るのではない、そんな姿勢には本当にしびれた。心からの敬意を表したい」(ファンアールト)

元チームメイトのイェーツの活躍を喜ぶハーパー

元チームメイトのイェーツの活躍を喜ぶハーパー

やがてデルトロとカラパスは、完全に急ぐことを止めた。UAEのアシスト2人が、ラスト10km前後で追いついてきたが、もはや淡々とペースを刻むに留まった。

ところでサイモンがアタックをかけたことを無線で告げられ、さらにはワウトが引き始めたと聞き、単独先頭を走っていたハーパーは、しばらくドキドキさせられたという。それでも粘り強く走り続け、無事に一番でフィニッシュにたどり着いた。過去2年のツールで、サイモンのアシスト役を務めてきたハーパーにとっては、ヨーロッパで手に入れた初めての勝利であり、もちろん初めてのグランツール区間勝利だった。

「これ以上ない形でジロを終えられて、最高の気分だ。でも、自分のステージ優勝よりも、サイモンがピンクのジャージを着ている姿を見るほうが、はるかに嬉しいくらいだ。僕もチームメイトとして、手助けできてたらよかったのに。ともかくサイモンの努力が報われて、心から良かったと思う」(ハーパー)

紆余曲折の果てに、ばら色の夢にたどり着いた

そして、かつてのアシストから遅れること1分57秒、サイモン・イェーツがフィニッシュラインを越えた。デルトロはそこからさらに5分13秒、カラパスは5分17秒遅れで、最後の山岳ステージを終えた。逆転劇は成し遂げられた。

支えてくれたチームメイトに感謝するイェーツ

支えてくれたチームメイトに感謝するイェーツ

「チームが本気で僕のことを信じてくれた。だからこそ今日のような状況が作り出せた。今朝だって僕自身はなにかトライすべきかどうか悩んでいた。だって総合上位につけていた2人は、今ジロを通して、僕よりもずっと強かった。でもチームが、チームメイトたちが、僕を信じ続けてくれたんだ」(S・イェーツ)

サイモンは自身2度目のグランツール制覇に、王手をかけた。2位に後退したデルトロとの差は3分56秒、3位カラパスとの差は4分43秒。もはや再逆転の恐れはない。あとは日曜日のヴァチカンで新教皇の祝福を受け、永遠の都市ローマで、「永遠に終わりのないトロフィー」を天に掲げ持つだけだ。

「何度も言ってきたように、僕はこのレースでの優勝を目指して、キャリアや人生の多くを注ぎ込んできた。たくさんの挫折を経験した。たくさんありすぎて、乗り越えるのは本当に大変だった。うん、だから、ようやくここまでたどり着けたなんて、信じられないような気持ちだ」(S・イェーツ)

文・宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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