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サイクル ロードレース コラム 2025年5月31日

自転車界屈指のマルチタレント。本来の姿を取り戻したワウト・ファンアールト|ジロ・デ・イタリア2025

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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徐々に本来の姿を取り戻しつつあるワウト・ファンアールト

徐々に本来の姿を取り戻しつつあるワウト・ファンアールト

「このジロには満足しているよ」。そう語るのはサイクルロードレース界のトップスターのひとり、ワウト・ファンアールトチーム ヴィスマ・リースアバイク)。初のジロ・デ・イタリア出場でステージ1勝を挙げたほか、スプリント時の発射台、前待ち、山岳アシストと、チームプレーヤーとしてマルチに活躍。エースのサイモン・イェーツが総合表彰台に近づいているが、ワウトの貢献なくしてはこの結果は得られなかったかもしれない。

第9ステージでシーズン初勝利

今季のワウトは2月半ばにレース活動を開始。そこには、北のクラシックとジロをシーズン前半のターゲットに据える意図があった。

しかし、北のクラシックではタデイ・ポガチャルUAEチームエミレーツ・XRG)やマチュー・ファンデルプールアルペシン・ドゥクーニンク)、マッズ・ピーダスンリドル・トレック)らの勢いに圧され、無冠に終わる。4月2日のドワーズ・ドール・フラーンデレンにいたっては、最終局面に残った4人中3人がヴィスマ勢だったにもかかわらず、戦術ミスで敗れる大失態。自国ベルギーの関係者やファンの批判を真正面から受けた。

そんなこともあって、波に乗り切れないままジロを迎えていた。「大会序盤のアルバニアステージでマリア・ローザを着たい」と意気込んではいたものの、第1ステージで2位、第2ステージの個人TTでは11位に終わり、バラ色は夢に消えた。オラフ・コーイの発射台に回った第4ステージでも、あと一歩のところで勝利に導けなかった。

待望のシーズン初勝利をキッカケに完全復活なるか

待望のシーズン初勝利をキッカケに完全復活なるか

しかし、力づくでも状況を打開するのがワウトである。大会全体のハイライトにもなるであろう第9ステージ。トスカーナの未舗装路が採用され、荒れに荒れた1日をモノにした。ライバルたちの混乱をよそに、悪路を突き進んだワウト。3月に開催されるストラーデ・ビアンケがそのままジロへやってきたかのような難儀なステージで、シーズン初勝利。この日を境に、完全に流れを引き寄せた。

引き寄せた流れをチームに還元

こうなれば、ワウトのターンである。第12ステージでは、ついにコーイとのホットラインが完成。エーススプリンターをステージ優勝へと押し上げる。続く第13ステージで自身が2位とまとめて以降は、山岳アシストへシフトチェンジ。第3週初日・第16ステージでは前待ちを講じて、レース終盤はメイン集団の牽引役も務めた。

今大会最難関の第19ステージでは自身の前線合流はならず、チームメートにその役割を託した。この日はサイモンがライバルのイサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG)らのアタックに対応できず、個人総合3位をキープするのが精いっぱい。サイモンがレース後に「チームメートが集団を牽く必要はなかった」とアシスト陣との連携ミスを指摘すると、ワウトも「プランに引っ張られすぎた。レースの流れに沿って、もっと本能的に走っても良かったと思う」とエースに寄り添った。

ときにエースとなり、ときにアシストとしての重責を担う。そんなワウトだから、グランツールの最前線で戦うエースの気持ちが理解できる。走りだけでなく気持ちの面でも、チームプレーヤーとしての働きをまっとうしているのである。

残されたミッションは2つ

ステージを問わずフル回転するワウトの姿で思い出されるのは、2022年と2023年のツール・ド・フランス。ヨナス・ヴィンゲゴーの総合2連覇に大きく貢献したマルチぶりは、シクロクロッサーとして世界を席巻し、鳴り物入りでロードシーンに飛び込んだ彼のイメージを新たにし、同時に完全に決定づけた。

表彰台を目指すチームにとって彼の献身的な走りは必要不可欠

表彰台を目指すチームにとって彼の献身的な走りは必要不可欠

あのときは「脚質:ワウト・ファンアールト」なんてフレーズで盛り上がったけれど、このジロでもまた、彼らしさが見られている。ここしばらくは落車負傷で戦列を離れたり、大事なレースで勝ち切れない…なんてシーンが多く見られたが、いよいよワウトの真の姿が戻ってきた印象だ。

今大会で残るミッションは、ふたつ。サイモンの総合表彰台確定と、最終・第21ステージのローマでコーイをスプリント勝利へガイドすること。これらの完遂でもって、ワウト完全復活のインパクトとしたい。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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