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サイクル ロードレース コラム 2025年5月30日

ニコ・デンツが19km独走! 2年ぶりステージ優勝で失意のチームに勢いをもたらす|ジロ・デ・イタリア2025 レースレポート:第18ステージ

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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デンツが残り19kmを独走し、ジロ通算3勝目&2年ぶりの勝利!

デンツが残り19kmを独走し、ジロ通算3勝目&2年ぶりの勝利!

大会最終日をのぞけば、これが最後となる平坦ステージ。レーススタート前の話題は、「定石通りの集団スプリントなのか、はたまた逃げが決まるのか」で持ち切りだったという。結果は、前半部で決まった大人数の逃げがそのまま先を行くことに。やがてステージ優勝争いへと移って、ニコ・デンツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が最後の19kmを独走。ジロ通算3勝目、2年ぶりとなるステージ勝利を挙げた。

「キャリアの中で最も感動的な勝利だよ。プリモシュ(ログリッチ)とともにこのジロを勝ちたくて、選手もスタッフもみんな全力を尽くしていたんだ。プリモシュはいなくなってしまったけど、集中力を失うことはなかった。このステージに賭けようと思ってレースプランを考えていたし、チームも自由に攻めさせてくれたんだ」(デンツ)

アユソがリタイア

レース距離144kmは、今大会のロードレースステージで最終・第21ステージに次ぐ短さ。主催者設定では星2つになっていて、平坦ステージにカテゴライズされる。本来であればスプリンターが主役になるべきところだが、どうにもレース前からそんなムードがない。それは、ここまでの旅のハードさとこのところの天候が関係しているようだ。

気温30度を超える暑さの中、アユソはチームと相談の末リタイアを決断

気温30度を超える暑さの中、アユソはチームと相談の末リタイアを決断

気温30度を超えようかという暑さの中で始まったレースは、パレード走行時から不穏な様子が漂った。フアン・アユソUAEチームエミレーツ・XRG)がチームカーまで下がり、首脳陣と何かしら言葉をかわしている。やはり表情は冴えず、集団に戻ってもその踏み込みに力が感じられない。最後尾を走っていたが、リアルスタートから連続するアタックによって上がったペースについていけなくなった。

何とか30kmほどは走り続けたが、伴走していたチームカーもやがて離れていく。ついにはリタイアを決断し、チーム関係者が待機させていた車両に乗り込んだ。プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)に続き、アユソも大会を去る。当初は個人総合優勝候補最右翼と目されていた2人は、ともに完走できずに終わった。

「膝の調子が悪く、だましだまし走ってきたけど、昨日(第17ステージ)はヘルメットの中に蜂が入り込んでしまったんだ。それで体調がさらに悪くなってしまった。チームからはスタートしないよう言われたけど、少しでもチームに貢献できればと思って走ることにしたんだ」(アユソ)

こうしている間に集団前方では分断するような形で、前に位置した選手たちがそのまま先頭グループを形成。これを受けて後方から合流する選手たちも出て、37人にまで膨らんだ。ポイント賞トップのマリア・チクラミーノを着るマッズ・ピーダスンリドル・トレック)のほか、ワウト・ファンアールトチーム ヴィスマ・リースアバイク)、カーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)といった、スプリントができる選手たちも乗り込んでいる。“集団スプリントか逃げか論争”の答えがここで見えた印象だ。

先頭グループの選手たちによる激しい争いが繰り広げられた第18ステージ

先頭グループの選手たちによる激しい争いが繰り広げられた第18ステージ

先頭グループ内に総合成績を脅かす選手がいないこともあり、メイン集団は彼らの先行を容認。2級と3級合わせて3カ所あった山岳ポイントは、クリスティアン・スカローニ(XDS・アスタナ チーム)がいずれもトップ通過。この日逃げに加わらなかった山岳賞トップのチームメート、ロレンツォ・フォルトゥナートに代わって頂上を押さえに行った。同様に、2カ所あった中間スプリントはチクラミーノのピーダスンがみずから確保している。

フィニッシュまで50kmを切ってからも先頭グループとメイン集団とのタイム差は開き続けて、最大で11分に。前を走る選手たちからステージ優勝者が出るのは決定的で、少しずつ駆け引きが始まっていく。レミ・ロシャ(グルパマ・FDJ)ら3人の飛び出しは封じられたが、フィニッシュ地チェザーノ・マデルノを基点とする周回コースが近づくにつれて緊張感が増していく。その矢先に流れが大きく変わることとなる。

ペースの緩みを読んだデンツのアタック

フィニッシュまで33kmを残したところでワウトに替わって前へ出た、チームメートのディラン・ファンバーレの動きがきっかけになった。意図して飛び出したようには見えなかったが、コーナーを抜ける際に加速するような格好になって他の選手との差が一瞬広がった。これを数人が急いで追ったことで、それまでの先頭グループが完全に分断。デンツら2人が後追いして、前に残ったのは11選手となった。

ここに、スプリントチャンスがあると見られたピーダスン、ワウト、グローブスがいずれも乗らなかった。乗れなかったのかもしれない。いずれにしても、彼らの姿が新たな先頭グループにはない。11人は大急ぎで周回コース内を突き進む。

ペースが一瞬緩んだ隙に、デンツがアタック。誰も反応できなかった。

ペースが一瞬緩んだ隙に、デンツがアタック。誰も反応できなかった。

そして残り19km。一瞬ペースが緩んだタイミングでデンツがアタックした。この動きに誰も反応できない。牽制状態となった10人をよそに、過去2回ジロで勝利を挙げている31歳のレース巧者は先を急ぐ。1周12.5kmの周回コース内に詰め込まれた19ものコーナーも、ひとりであれば迷いなく攻めていける。ギャップは1分まで広がった。

「ペースが上がった割に、なぜか協調が保たれていなかったんだ。きっとどこかでスピードが落ちるだろうと読んでいて、まさにその通りになった。“よし、ここだ!”と思って踏み込んだんだ」(デンツ)

37人の先頭グループが組まれたときも、分裂し11人に絞られたときも、乗り込んだ順番は最後から2番目だったのだとか。後方グリッドからの猛攻。2023年大会で2勝を挙げヒーローのひとりになった男が、再びジロで輝きを放った。

「プリモシュとは高地トレーニングでたくさんのコミュニケーションをとっていて、彼とともにジロを勝ちたいと思ってやってきたんだ。3カ月家を離れていて、妻や子供たちにも会えていない。プリモシュが大会を去って、同時に僕たちの夢もなくなったんだ。でもこのままでは終われないと思ってね…全力で走って本当に良かった」(デンツ)

レッドブル・ボーラ・ハンスグローエにとっては、これがチーム通算300勝目。2010年にコンチネンタルチームからスタートし、明確なビジョンとチーム強化でもってワールドツアー屈指の組織へと成長した彼らのメモリアルデーになった。

メイン集団は“移動”に終始

デンツの先行を許した10人が、ステージ2位争いのスプリント。ミルコ・マエストリ(チーム ポルティ・ビジットマルタ)が先着している。

デンツを追う10人が2位争いのスプリント

デンツを追う10人が2位争いのスプリント

この日の144kmを“移動”に費やした個人総合上位陣は、デンツから13分51秒差のメイン集団内でレースをクローズ。順位にも変動はない。次のステージからは、マリア・ローザをかけた山岳最終決戦となる。トップを行くイサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG)はチームメートを2人欠く状態で、勝負の地・アオスタバレーへと入っていく。

「正直、ベストなチーム状態とは言えない。でも何とか乗り切ってみせるよ。2つの厳しい山岳ステージが待っているけど、他の上位選手と肩を並べて勝負できれば僕は満足さ。苦しむ覚悟はできているよ。心身の準備はすでに完了している」(デルトロ)

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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