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「挑戦して大正解だった」デルトロがマリア・ローザでステージ優勝!前日の苦戦を挽回し攻勢に転じる|ジロ・デ・イタリア2025 レースレポート:第17ステージ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介マリア・ローザのデルトロがグランツール初勝利
“マリア・ローザマジック”なんてフレーズでは片づけられないところまでやってきている。第9ステージ以来、8日間にわたってレースリーダーの地位をキープし続けるイサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG)がステージ優勝。前日こそ苦しんだが、この日はライバルの猛攻をしのぎ、最後の2kmで単独先頭に。グランツール初勝利を決め、総合リードを拡大させた。
「自分がするべき仕事をこなしただけだよ。僕を支えてくれるチームのために、今日は勝ちたいと思っていたんだ。最後はフィニッシュラインに向かって全力で走ったよ。ただベストを尽くし、できる限りのことをしたまでさ」(デルトロ)
最大39人がレースを先行
前日に続き、山岳地帯をプロトンは行く。この日は下りの技術も試されるテクニカルなステージ。実際に、勝負はダウンヒルで決まることとなる。
155kmに設定されたコースへと繰り出した選手たち。ポイント賞のマリア・チクラミーノを着るマッズ・ピーダスン(リドル・トレック)のファーストアタックで始まった序盤の攻防。やはり逃げを狙った動きが多発するが、その後ろでは総合戦線から大きく遅れたフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ・XRG)が苦しむ姿も。集団から遅れる局面もあり、明らかに状態が良くない。
23.5km地点に置かれた1回目の中間スプリントポイントはピーダスンが1位通過して、チクラミーノをより盤石なものに。この後も緩やかに上り基調が続いて、なかなかアタックが決まらなかったが、この日最初のカテゴリー山岳である2級のパッソ・デル・トナーレに入るところでようやく先頭グループが組まれる。集団から次々と選手たちが乗り込んで、最大39人まで膨らんだ。この時点で、フィニッシュまでは100km残されている。
ピーダスンが中間スプリントポイントを1位通過
これだけの人数が最前線に飛び込めば、各チームの思惑がいろいろと見えてくる。個人総合2位サイモン・イェーツを擁するチーム ヴィスマ・リースアバイクは、4選手が乗った。リーダーチームのUAEチームエミレーツ・XRGも、ブランドン・マクナルティを送り込んだ。もっとも、マクナルティは個人総合14位につけていて、展開次第では自身もトップ10圏内が狙える。
一方で、チーム ポルティ・ビジットマルタが逃げに乗せられず、メイン集団の牽引に回る。何とかタイム差を3分前後にとどめて、レース中盤を進行。この間、先頭グループでは前日大活躍のロレンツォ・フォルトゥナート(XDS・アスタナ チーム)がパッソ・デル・トナーレの頂上を1位通過。山岳ポイントを加算している。
フォルトゥナートが今ステージもマリア・アッズーラをキープ
30km近い下りをこなして、続くは1級山岳モルティローロ。31年前にマルコ・パンターニが激走したことにちなんで「パンターニの山」に指定された峠に入ると、先頭グループは徐々に人数を減らしていく。メイン集団でも、個人総合8位でスタートしたアントニオ・ティベーリ(バーレーン・ヴィクトリアス)が遅れる。上りを進むにつれ厳しくなる勾配に、レース全体の緊張感が増していく。
最後の上りでマリア・ローザみずからアタック
頂上が近づいてきたところで、先頭グループからフォルトゥナートがアタック。ダニエル・マルティネス(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)も応戦し、ロマン・バルデ(チーム ピクニック・ポストNL)もカウンターで仕掛ける。打ち合いからアフォンソ・エウラリオ(バーレーン・ヴィクトリアス)が抜け出し、そのままモルティローロの頂上を一番通過。
ときを同じくして、メイン集団でも大きな局面を迎えていた。EFエデュケーション・イージーポストによるペースメイクから、頂上1.5km手前で個人総合3位につけるリチャル・カラパスを発射。同9位ジュリオ・ペリツァーリ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が真っ先に反応し、総合争いで猛攻に転じる2人がライバルたちを引き離しにかかる。一瞬は静観していたサイモンも頂上を目前にスピードアップ。アシスト陣が作るペースに沿って走っていたデルトロもここは自力で前をうかがう。カラパスの頂上通過から12秒差で、デルトロ、サイモン、同4位デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック)らが続いた。
デルトロらは下りでカラパスを捕らえ、再び総合上位陣はひとつに。後ろへ下がっていたUAEやヴィスマのアシスト陣も戻ったほか、先頭グループで前待ちをしていた選手たちも降りてきて、メイン集団は厚みを増す。下り終える前にカラパスが再度動いて、前で待っていたゲオルグ・シュタインハウザーの牽引を頼ったが、ここも集団が冷静に対処した。
キャリア最後のグランツールでアタックを仕掛けるバルデ
この間、先頭ではエウラリオに続いていた選手たちが再び固まって、8選手でレース終盤へ。勢いが増すメイン集団との差は1分台に縮まって、逃げ切りなるかは不透明に。残り20kmでの1分30秒差は、ダミアン・ホーゾン(Q36.5プロサイクリング チーム)やロレンツォ・ミレージ(モビスター チーム)らの集団牽引であっという間に縮まっていく。それでも、この日最後の上りである3級山岳ル・モッテでバルデがアタックし独走態勢に。キャリア最後のグランツールを公言する34歳が勝利への執念を見せる。
しかし、総合上位陣が静かにステージを終えるわけがなかった。頂上が近づいたところでマリア・ローザみずから動いた。これに反応できたのはカラパスだけ。サイモンやジーがついてこないのを見て、両者は協調態勢に入る。頂上でのバルデとの10秒差は下りで労せず縮めて、フィニッシュまでの5kmを3人で急ぐ。
下りとコーナーで勝負を決めたデルトロ、ボルミオのジンクスにあやかれるか
そのまま3人が逃げ切るのか、バルデの有終の美なるか…目と心が奪われていた矢先だった。残り2kmのバナー通過に前後して始まった連続コーナーで、カラパスが付き切れしてしまう。これを見たデルトロは一目散に加速。カラパスもバルデも急いで追いかけるが、下りもコーナーもデルトロのテクニックが上回った。
マリア・ローザがみずからの走りでもって総合リードを広げる、大きな、大きなステージ優勝。すっかりバラ色に見慣れてしまい意識していなかったけど、これがグランツール初勝利である。
2位以下との差を広げ総合優勝へまた一歩近づいたデルトロ
「本当はリスクを冒さずにレースを終えたいと思っていたんだ。それなのに何で攻めたかって? もちろん勝つ可能性が高くなったからさ」(デルトロ)
レース終盤、堅実な山岳アシストにして精神的支柱のラファウ・マイカが横にやってきて、若きマリア・ローザに伝えたのだという。「ステージ優勝を狙おう」。この一言がなかったら、セーフティに終えていたかもしれない。
「あれで気持ちが昂った。“OK、大丈夫だ!”と僕も答えたんだ。何も怖がる必要はないんだってね。挑戦して大正解だった」(デルトロ)
フィニッシュでは、3月に勝ったミラノ~トリノと同じウイニングセレブレーションを演じてみせた。あのときはジャージのジッパーが壊れていて、はだけたままの姿が罰金対象になってしまったけど、今度は大丈夫。ファンとともに勝利を分かち合う意味を込めているというポージングは、メキシコから駆け付けた家族の目にもしっかりと焼き付いた。
前日はライバルから後れを取り総合リードを吐き出してしまったけど、少しばかり取り返した。フィニッシュでのタイム差とステージ優勝ボーナス10秒を生かして、個人総合2位に浮上したカラパスとの差を41秒とした。さらに10秒差でサイモンが続いている。
「正直、昨日(第16ステージ)は最悪だった。でも、サイクリングでは誰にでも起こることだからね。グランツールはそういうものだと僕は理解しているよ。終わったことに文句を言うつもりはないし、ひとつひとつ仕事をこなしていくだけだと思っている。不安はないよ。アルバニアでスタートしたときと変わらない、フレッシュな気持ちのままさ」(デルトロ)
フィニッシュ地・ボルミオでマリア・ローザを着た選手は、そのまま大会制覇へ…。過去7回中、6回実現しているという。そのジンクスにデルトロはあやかれるだろうか。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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