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XDS・アスタナがワールドチーム残留へ会心のワン・ツー ログリッチがリタイアで総合勢の形成に大きな変化|ジロ・デ・イタリア2025 レースレポート:第16ステージ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介XDS・アスタナ、地元イタリアに歓喜のワン・ツーフィニッシュ
ジロ・デ・イタリア2025はいよいよ最終週。ここまでの2週から趣きが変わって、山岳比重が一気に高まる。戦いの構図も劇的に変わる可能性を秘める。
その初日、第16ステージ。レース距離203km、獲得標高4900mの山岳コースで躍動したのはXDS・アスタナ チームの2選手。クリスティアン・スカローニと、山岳賞トップのマリア・アッズーラを着るロレンツォ・フォルトゥナート。4つ星に設定された難コースを自分たちのものにして、140kmを超えるロングエスケープに成功。ワン・ツーフィニッシュは、今大会ようやく迎えたイタリア勢の地元勝利の瞬間でもあった。
「僕たちは懸命に戦い抜いたんだ。走っている間は最高の気分だったよ。もちろんこれはチームの勝利さ。だけど、ジロを勝ったという事実をまったく受け入れられていないんだ。本当に自分でもビックリしているよ」(スカローニ)
ログリッチがまたも落車…リタイアを決断
今大会のステージ編成は、「不均衡」との声があるほどに最後の1週間に本格的な山岳コースが詰め込まれている。マリア・ローザをかけた戦いは、ここからが本番といえる。
ここまで何とか走り続けたログリッチだったが遂に第16ステージでリタイア
その皮切りとなる第16ステージ。総合争いの動静と並んで、この日は逃げが決まるかも焦点となった。序盤のちょっとした平坦(とはいっても上り基調ではあるが)を過ぎれば、あとは山道が続く。山岳逃げを得意とする選手たちにとっては、アクションを起こす価値は十二分にあるコースが用意された。
実際に、リアルスタート直後からアタックが頻発し、数人のパックが前へ出ては集団が捕まえる…という流れがしばし続く。ときおり強い雨が降って、ロードコンディションが悪化する中でも出入りは繰り返される。やはりどこかしらで落車が発生していて、個人総合9位でスタートしていたテイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ)や、逃げにトライしていたジョシュア・ターリング(イネオス・グレナディアーズ)が地面に叩きつけられてしまう。ターリングはその後リタイア。第2ステージを勝ち、アシストとしても機能していたが、レースを終えることを余儀なくされている。
こうしている間も逃げを決めるべく何人もが動きを見せていて、ワウト・ファンアールト(チーム ヴィスマ・リースアバイク)らが先行を開始。10人近くが最前線を行き、なおも集団から飛び出そうとする選手の姿が。この日最初のカテゴリー山岳、2級カルボナーレ登坂を前にマリア・アッズーラのフォルトゥナートらが追いついて、先頭グループは最大で25人まで膨らんだ。
先頭を行く選手の誰もが総合成績に関係していないこともあり、メイン集団は彼らのリードを容認。総合エースが上位につけるチームの多くが逃げにメンバーを送り込み、集団は自然な流れでリーダーチームのUAEチームエミレーツ・XRGが牽き始めた。
マルティネッリらが巻き込まれた落車で多くの選手がダメージを負った
この日2つ目の上りに向かう最中で、集団ではまたも数人が落車。プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が巻き込まれたほか、アレッシオ・マルティネッリ(VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネ)はコースアウト。リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)は幸い足止め程度で済んだが、2年ぶりの戴冠を狙ってジロに乗り込んでいたログリッチの旅はここで終了。落車のたびに自身を奮い立たせて走り続けたが、ついに限界を迎えた。
滑りやすい路面にメイン集団がペースを緩める一方で、先頭グループは着々とリードを拡大。フィニッシュまで50kmを残した段階で、その差はこの日最大の9分まで広がった。
ワールドチーム残留へ、会心のワン・ツー
逃げ切りのチャンスが広がりつつある先頭グループは、最後から2つ目の登坂となる1級山岳サンタ・バルバラに入ったところで駆け引きを本格化。上り始めてすぐに分裂し、10人が前へ。フォルトゥナートやハイス・レイムライゼ(チーム ピクニック・ポストNL)がペースを上げて絞り込みをかける。
タイミングを同じくして、メイン集団でもEFエデュケーション・イージーポストが猛然とスピードアップ。これに、個人総合3位につけるフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ・XRG)がついていけなくなった。フィニッシュまで45kmを残して集団から後退するばかりか、UAEのアシスト陣が誰も引き上げに現れない。この瞬間に、チームはイサーク・デルトロのマリア・ローザにフォーカスしていることが明白となった。
先頭グループでは、“予定通り”フォルトゥナートが頂上を1位通過。その後の下りでヤニス・ヴォワザール(チューダープロサイクリングチーム)が加速して、勢いのままに最終登坂のサン・ヴァレンティーノへ。しばし単独で上ったが、後ろからはスカローニとフォルトゥナートのXDS・アスタナ勢、ジェフェルソン・セペダ(モビスター チーム)が迫る。
スカローニ&フォルトゥナート、山岳ステージで鮮やかな逃げ切りワン・ツー
「最後の上りでのフォルトゥナートは本当に強かった。誰も彼のペースについていけなかったんだ。今日のステージはうまくいくと確信したね」(スカローニ)
残り13kmで追走3人がヴォワザールに追いつくと、少し間をおいてスカローニがアタック。セペダがついていけないと見るや、抑えに回っていたフォルトゥナートも加速して数秒前に出ていたスカローニに再合流。ワン・ツーフィニッシュに向けて最高の状況が整った。
「最後の1kmでフォルトゥナートが“今日は君の日だ”と言ってくれたんだ。彼は山岳ポイントが最大の目的だったから、ステージ優勝は僕が狙わないといけないと分かっていた。ただ、最後の最後まで脚が残っているかの確信が持てず、全力で上ったよ」(スカローニ)
最後の数キロはフォルトゥナートがスカローニを待つようにしながら牽引し、フィニッシュラインを目前に2人が並ぶ。約束通り、スカローニが少しだけ前に出てウイニングセレブレーションを決めた。
「1日を通して素晴らしいチームワークを発揮できた。正直、今日のコースは僕向きではなかったと思う。でも、パーフェクトな戦略が成功につながった。何度も言うけど、これはチームの勝利だ。僕たちは勝ち取ったんだ!」(スカローニ)
今季終わりに決まる、次期UCIワールドチーム入りにかけてシーズンインからフルスロットルのXDS・アスタナ チームにとって、このワン・ツーフィニッシュは大きな意味を持つことになるだろう。現在、チームは残留圏内ギリギリの18番手。このステージだけで2人が稼いだUCIポイントは310点。目下のライバルであるチーム ピクニック・ポストNLやアルケア・B&Bホテルズに大きなプレッシャーを与える大勝利にもなった。
総合上位陣がシャッフル、トップ3は僅差に
「もうひとつのレース」となったメイン集団では、デルトロを守るべくラファウ・マイカとアダム・イェーツのUAEアシスト陣がペーシング。ヴィスマ・リースアバイクも、逃げから降りてきたワウトがサイモン・イェーツのために集団を引っ張った。
両チームのアシスト陣が役目を終えた残り12km、この日リタイアしたログリッチから役割を引き継いだジュリオ・ペリツァーリ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がアタック。これを見送っていた上位陣だったが、残り7.5kmでサイモンが仕掛けたのを機にゴングが鳴った。
残り6kmではカラパスがアタック。デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック)がテンポで追いかけ、その数秒後ろにデルトロとサイモンが続く。サイモンも細かなペース変化でデルトロを振り切ることに成功すると、いよいよ苦しくなったマリア・ローザは追いついてきた選手たちに何とかしがみついてフィニッシュへとやってきた。
最後の数キロで見られた上位陣のバトルによって、総合成績はシャッフル。デルトロが辛くもマリア・ローザを守ったものの、スタート時に1分20秒あったサイモンとの差は26秒まで縮まった。力強さを見せたカラパスは31秒差の個人総合3位に浮上。上位3選手が僅差にひしめき合う格好に。
苦しい1日となったがマリア・ローザを死守したデルトロ
「誰もが限界まで追い込んだレースだった。僕にとっても苦しい1日で、結果に対する言い訳はできない。ベストコンディションではなかったけど、ジャージを守れたのはチームのおかげだね。次のステージのことはまだ分からないけど、1日1日を積み重ねていくだけだよ」(デルトロ)
辛くもリーダーの座を守ったデルトロとは対照的に、当初チームリーダーだったアユソは14分47秒遅れでレースを完了。マリア・ローザ戦線からは完全に脱落。
また、大会を去る決断をしたログリッチはレース後にコメント。きっと、ツール・ド・フランスに向けて調整をし直すことだろう。
「クラッシュのたびに大きな衝撃を受けていたんだ。これ以上は走れなかった。僕は先々のことを見据えているから、今日の判断には公開していないよ。すでに次のステップに集中しているからね」(ログリッチ)
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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