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イタリアの地で鮮烈な印象を残すメキシカン!イサーク・デルトロの“ピンク旅”終着地は?|ジロ・デ・イタリア2025
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介メキシコ人として初めてマリア・ローザに袖を通したデルトロ
歴史が動こうとしている。ジロ・デ・イタリア最高栄誉の「マリア・ローザ」を、21歳のメキシカンが着用続けているのだ。ロードレース先進国とは言えず、歴史をたどるとこの競技における暗い影が漂ったこともあったメキシコから、グランツールのトップで躍動するライダーが出ているのだ。その名は、イサーク・デルトロ。プロトン最強を誇るUAEチームエミレーツ・XRGからまたひとり、とてつもない大物が生まれようとしている。
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ノーミスで駆け抜けた第2週
個人総合争いの観点から見れば、ジロ2025の第2週は「いかにタイムを失うことなく走り抜けるか」がポイントになった。
上位陣の出番に合わせるかのように雨が降り出した、第10ステージの個人タイムトライアル。コース中盤の急坂越えがあった第11ステージ。上りスプリントが演じられた第13ステージ。落車で大混乱に陥った第14ステージ。中盤の1級山岳モンテ・グラッパからアタックがかかった第15ステージ。
どのステージも慌ただしく、一瞬たりとも気が抜けないレース展開だった中で、マリア・ローザに身を包んだデルトロは、まるでチャンピオンのように、巧く立ち回ってみせた。
個人タイムトライアルこそ他選手から総合タイム差を縮められたが、翌日にはスプリントに挑み2位として6秒ボーナスを獲得。さらに2日後には、マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)とワウト・ファンアールト(チーム ヴィスマ・リースアバイク)に追随し上りスプリント。3位で終えただけでなく、途中の「レッドブルKM」でも上位通過していて、この日だけで6秒のボーナスをゲット。落車に起因する集団分断で多くの総合上位陣が後ろに取り残された第14ステージでも前線で生き残った。チームメートを失い、単騎になっても慌てなかった。
ライバルの多くが大なり小なりトラブルに巻き込まれている中、デルトロは無傷で第2週を切り抜けた。チームメートにして、大会前には個人総合優勝候補の最右翼と目されてきたフアン・アユソは1分26秒差の3位。この1週間、デルトロとアユソの関係性や共闘の可能性を探る声が多かったが、最終週に向けて情勢は変わりつつある。
デルトロはここまでパーフェクトな走りで総合首位をキープ
国家プロジェクトの出世頭
トップシーンを駆けるライダーの国籍が多様化するサイクルロードレース界で、今後「メキシコ」の名を聞くことが増えるかもしれない。そのキーマンはまぎれもなく、デルトロである。
メキシコにサイクルロードレースの土壌がまったくなかったというわけではないし、デルトロという存在が突然変異で生まれたわけでもない。ただ、これまで多くの困難に直面し、才能ある若手ライダーが育成プログラムに恵まれなかったという事情があった。
その大きな理由は、統括団体内でたびたび起きていた権力闘争。そうした中でも、2019年にルイス・ビジャロボスがEFエデュケーションファースト(現EFエデュケーション・イージーポスト)でプロデビューを果たす。大きな希望となるはずだったビジャロボスだったが、のちに禁止薬物の使用が明らかになりチームを解雇。メキシコ自転車界の信用が失墜した。
それを変えようと立ち上がったのが、ルイスとアレハンドロのロドリゲス兄弟。彼らが立ち上げたプロジェクトはやがて政府からの資金調達に成功。金融グループを含む国内屈指の企業をスポンサーとして招き、急速に成長を遂げた。女子ロード、マウンテンバイクに続き、男子U23ロードチームも立ち上げ。若手育成を目的としたこの部門に参加したのがデルトロだった。
実質の国家プロジェクトは、イタリア半島内の小国・サンマリノに拠点を置いている。当初はメキシコ人ライダーのみで構成されたが、近年は門戸を開き、イタリア・スペイン・アメリカからもスター候補生が参加する。
この環境で鍛錬に励み、2023年には「若手の登竜門」ツール・ド・ラヴニールを制覇。“卒業”してからも進境著しいデルトロは当然のことながら出世頭である。
蔓延する利権争いやドーピング禍を乗り越え、新たなスタイルで世界を目指そうとアクションを起こすメキシカンたち。デルトロの走りこそが、その光なのである。
トロフィー獲得が現実味を帯びてきている
チームリーダーに昇格し迎える最終週
ジロに話を戻そう。2回目の休息日にチームが行ったオンライン会見には、選手ではデルトロだけがチーム首脳陣とともに席に就いた。指揮官(スポーツディレクター)のファビオ・バルダート氏は、「まずはリーダーであるイサークを中心にまとまっていきたい」と、デルトロのチームリーダー昇格を示唆。これまでアユソがチームリーダーであると述べてきたデルトロ本人も、「チームとして有利な立場にある」と自信を見せた。
ここまでの2週間と比較しても、不均衡なまでに山岳比重が高まる第3週。はるか向こうの山々を超え、最終目的地ローマへ。UAEチームエミレーツ・XRGは、デルトロにマリア・ローザを運ぶ大役を与えるつもりなのだろうか。
このジロが終わるとき、デルトロが紡ぐストーリーはどのように結ばれるだろうか。第9ステージから始まった“ヴィアッジョ・ローザ(ピンク旅)”終着のときを、全世界が見守っている。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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