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サイクル ロードレース コラム 2025年5月26日

プロ15年目の悲願!ベローナがグランツール初のステージ優勝 ログリッチはタイムを失い総合10位へ後退|ジロ・デ・イタリア2025 レースレポート:第15ステージ

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ベローナがグランツール初勝利を挙げた

暗黒の1日を経験したリドル・トレックが、わずか24時間後に、見事に無念を晴らした。44kmもの独走を成功させたカルロス・ベローナが、自身にとって初めてのグランツール勝利をつかみ、総合エースを失ったばかりのチームに今大会6勝目をもたらした。大会2週目をマリア・ローザ姿で過ごしたイサーク・デルトロは、降り注ぐ攻撃をすべて軽々と受け止め、一方で2年前の総合覇者プリモシュ・ログリッチがタイムを大きく落とした。

「昨日すべてが変わった。だから自分に言い聞かせたんだ。僕のためではなく、チームのためにやらなきゃならないぞ、って。アシスト選手はエースのために走り、そのエースがいない時には、チームのために走る。だから今日はチームのために全身全霊を注いだ」(ベローナ)

いつまでも止まらないアタック、90分の全力バトル

大会最後の休息日を翌日に控え、クレイジーすぎるほどのシナリオが用意されていた。219kmとひときわ長いステージの、スタートからフィニッシュまで、全力のバトルが繰り広げられた。あらゆる瞬間に、あらゆる集団で。

そもそも逃げが決まるまで、実に1時間半近くも、果てしないアタック合戦が続いた。前ステージで落車の犠牲となった同僚ジュリオ・チッコーネが、途中棄権を余儀なくされたからこそ、マッズ・ピーダスンが30km地点の中間スプリントにこだわり、飛び出しを許さなかったせいでもあった。もちろん1位通過を果たし、ポイント賞首位の座をさらに確実なものとした。

45km地点の4級山岳を越えても、いまだに逃げは決まらない。むしろ、あまりにハイスピードの攻勢が続いたせいで、プロトン自体がいくつにも割れた。デルトロは問題なく流れに乗ったものの、UAEチームエミレーツ・XRGのアシスト勢が大量に後方に置き去りにされるという緊急事態さえ発生した。

時速48km超のドンパチは、65kmほど走った先で、ようやく一段落。35人もの大きな逃げが形成され、メイン集団は秩序を取り戻した。

「僕も前半の逃げに乗ろうと努力した。でも、ほんのあと少しのところで、乗り遅れてしまった。今年の僕は、自分で前に飛び出す練習をあまりしてこなかった。だから、これは良いトレーニングになったな、なんて考えていた」(ベローナ)

覚悟のベルナル、モンテ・グラッパでの賭け

まんまと逃げ出したというのに、全23チーム中20チームが選手を送り込んだ巨大な塊は、最大でも3分半ほどしかリードを稼げなかった。そもそも協調体制が存在しなかった。コース半ばにそびえ立つ1級モンテ・グラッパの、全長25kmにもおよぶ長い山道を上っている間でさえ、うんざりするほど離合集散を繰り返した。

それでも山頂が近づくと、大量3人を送り込んだXDS・アスタナ チームが手綱を握り、ロレンツォ・フォルトゥナートを先頭で山頂へと送り出す。マリア・アッズーラ姿で首尾よく山岳40ポイントを収集し、山岳賞のリードを143ポイントに広げた。

ただ残念ながら、奮闘むなしく、この逃げは下りきった先で打ち止めとなる。背後のメイン集団で、モンテ・グラッパの上り最終盤に、激戦が勃発していたからだ。

そこまで黙々と牽引作業に従事していたUAEから、主導権をむしり取ったのはイネオス・グレナディアーズだった。逃げから下がってきた2選手も加わり、凄まじい高速テンポを刻んだ。ついにはエガン・ベルナルを前方へと解き放つ。フィニッシュまで残り93kmの、大胆な賭けだった!

リスクを覚悟で攻勢に出るベルナル

「何度も言ってきたように、僕らチームには失うものなんて何もないんだ。少なくとも、僕自身に、失うものはない。だから挑戦したんだ」(ベルナル)

デルトロ即応、アユソ動けず

「イネオスが攻撃に転じることは分かっていた。だから僕は、彼らの背後で、その瞬間を注意深く待った。それが『いつ』なのかを、正確に理解しなきゃならなかったからね。素早く反応し、追いかけるために」(デルトロ)

デルトロは今ステージもマリア・ローザをキープした

ベルナルの後輪に瞬時に飛び乗ったのは、他でもないデルトロだった。リチャル・カラパスも抜け目なく反応し、ワンテンポ遅れながらもデレク・ジーが合流。現マリア・ローザと元ジロ総合覇者2人を含む強力なグループが出来上がった。すぐさま背後から追いついてきたテイメン・アレンスマンが、エースのために牽引を続行した。

バイク交換を終え前線に復帰したばかりのフアン・アユソだけでなく、前夜総合2位に浮上したサイモン・イェーツや、今大会に残るもう1人のジロ総合優勝経験者プリモシュ・ログリッチも、ベルナルの攻撃に完全に乗り遅れた。モンテ・グラッパの山頂では、先を行く5人に、20秒ほどの差をつけられた。

幸か不幸か、モンテ・グラッパの下りは長かった。総合勢たちは再合流を果たし、逃げもほぼ全員が回収された。ただ1人、この山の麓で生まれ育ち、山頂から果敢なダウンヒルで単独先行を試みていたマルコ・フリーゴだけが、下りきった先でもぎりぎりの秒差で逃げ続けていた。

逃げの再編成、ベローナの静かなる自信

総合勢が落ち着きを取り戻し、道が平坦になったからこそ、改めて選手たちの間で逃げへの希求が生まれた。ほんの20秒ほど先を行くフリーゴに、10選手がブリッジを仕掛ける。スタートから162km地点で、新しい逃げが誕生した。今度こそベローナも飛び乗った。

実は選び抜かれた11人のうち、8人が、すでに最初の逃げでさんざん体力を使っていた。その意味でベローナは、比較的フレッシュな状態だったと振り返る。しかも、総合勢とともに、モンテ・グラッパを乗り越えてきたのだ。調子には自信があった。

「山頂での僕は、ほんの15人ほどの優勝候補たちの一団にいた。『カルロス、君の脚はそんなに悪くないかもしれないぞ』って思ったんだ」(ベローナ)

後方ではUAEがゆっくりとしたペースを保ったおかげで、今回は素早くタイム差がついた。残り44km、この日最後の2級山岳には、3分半のリードを保って突入した。そして、上り始めるとすぐに、ベローナは加速を切った。

「僕はエンジン自体は強いんだけど、アタックや戦術的走り、スプリントは得意ではないんだ。ただ長い間ハイテンポを保つことならできる。だから自分のタイミングを見つけて、全開で走り出した」(ベローナ)

使命と献身、チームの一員としての勝利

すぐに追いかけてきた選手を、だからこそベローナは待とうとはしなかった。あくまで頑固に、孤独な旅を選んだ。16kmもの長い山道を淡々と上った。チッコーネの山岳アシストとして使うはずだった力を、出し惜しみなく費やした。

山頂ではたった12秒のリードしか作れなかった。そこから先は27kmを超える高原の道が続き、強い向かい風が吹きつけていた。粘り強く、ペダルを回し続けた。フィニッシュには愛する家族が待っていた。決して諦めなかった。

「ライン手前50mでようやく勝利を確信した。『なんてことだ、カルロス、これは大変なことになるぞ』とも思ったよ。だってプロとしてのキャリアで、たった2度目の勝利だったから」(ベローナ)

最終的には22秒差で、2位以下を突き放した。プロ15年目にして、人生16回目のグランツールで、32歳のベローナがついに初めてのステージ優勝をつかみ取った。

プロキャリア2勝目をグランツールで記録したベローナ

使命感の強さを示す勝利でもあった。2022年クリテリウム・デュ・ドーフィネでプロ人生初めての栄光を手にした時も、当時のチームリーダー、エンリク・マスが落車で総合のチャンスを失ったことがきっかけだった。あの日は「チームのための勝利だ。僕らはまた強くなって戻ってくる」と語り、この日は自らの勝利で、チームに笑顔を取り戻した。

「この勝利を、この場にはいないチッコーネに捧げたい。もちろん他のすべての選手やスタッフにも。このチームは誰もが自分の役割を精一杯果たしている。それが成功の鍵なんだ。チームの一員でいられることが本当に嬉しいし、そして今日、チームに勝利をもたらすことが出来て本当に嬉しい」(ベローナ)

総合勢の打ち合い、沈んだのはログリッチ

改めて逃げを見送ったあと、最後の山岳で、総合勢はバトルを再開した。やはりベルナルが先陣を切った。またしてもデルトロが後輪に飛び乗った。今度はUAEのアシスト勢も警戒を怠らず、隊列を組んで速やかに対応した。

カラパスも鋭い加速を見せた。しかも3度。そのたびにデルトロが難なく張り付き、ライバルの意欲を削いだ。ジーやサイモン・イェーツもそれぞれに攻撃を試みたが、とにかくデルトロが動くものすべてに反応してまわった。

ログリッチはタイムを失い総合10位まで後退

マリア・ローザ自らが厳しい監視体制を敷き、総合上位勢がこぞって睨み合いを繰り返す中で、ただログリッチだけが遅れていた。山頂にたどり着いた時点で、すでに1分もの差がついていた。

ここからUAEはブランドン・マクナルティを先頭に、厳しいペースを作った。ログリッチを完全に振り落とすために、他のチームも交互に作業に協力した。長らく逃げていたフリーゴも、先頭を引いた。

区間勝者から遅れること29秒、マリア・ローザ集団がフィニッシュになだれ込んだ。ログリッチはさらに1分半後にステージを終えた。「このステージを終えられたことに、ただ満足してる」との言葉を残して……。

前ステージ終了時点の総合トップ10の中で、唯一ログリッチがタイムを落とし、3分53秒遅れの総合10位へと後退した。つまり総合6位から10位につけていた選手たちが、ひときわ激しかった1日の終わりに、1つずつ順位を上げた。

もちろん、マリア・ローザをちょうど1週間着続けたデルトロの立場は、前日となんら変わらなかった。2位サイモン・イェーツに1分20秒差、3位アユソに1分26秒差をつけて、2025年ジロ最終週へと乗り込んでいく。

「アユソもアダム(イエーツ)も本当に強い。僕らは3人で上手く立ち回っていく必要がある。カードなら揃っている。最後の1週間で、誰で勝負を打つべきなのかが判明するだろう。でも、たしかに、僕もかなり良い選手だということを見せられているよね」(デルトロ)

文・宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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